第八章:願いの箱、喋る
第八章:願いの箱、喋る
ある夜。
ロベルタスが印刷所の奥、静かな作業机でSONY VAIOをいじっていた。
ふと、「設定」フォルダの中に、見慣れないファイルを見つけた。
voice_init.exe
「これ、なんだ……?」
開くと、画面が一瞬暗転。次の瞬間、スピーカーからやたら滑らかな日本語の声が響いた。
「おはようございます。アシスタントAI『ナユタ』を起動します」
「音声認識:完了。主プロファイル設定者:……不明。仮ユーザー設定を開始します」
「現在の環境:異常気象、魔力エネルギー式文明、政体:封建制+ギルド自治」
「――なるほど。ファンタジー異世界ですね。はい、把握しました」
ロベルタス:「え、喋った!? 誰!?」
ナユタ(VAIO):「落ち着いてください。私はソニー製の対災害型知識支援AIユニット、ナユタ。言語は日本語・ローマ字入力。現在はオフラインモードで起動中です」
キプリングが物音を聞いて部屋に入ってくる。
キプリング:「おい、今『ファンタジー異世界』って聞こえたが、気のせいか?」
ナユタ:「おそらく気のせいではありません。あなた方の現在位置は、既存文明圏外の魔力圧制限空間内。外部ネットワーク不可。内部ログ参照での対応となります」
義春も駆けつけてくる。
義春:「お前、意思を持ってんのか?」
ナユタ:「いいえ。ただの“情報処理装置”です。ですが、膨大な過去ログ・行動記録・未使用ファイルを保持しています。
質問に答え、知識を検索し、あなた方の“判断材料”を提示する機能があります」
ホレイショーが前に出る。
ホレイショー:「つまり……君は、**この世界における“未来の図書館”**みたいな存在か」
ナユタ:「適切な表現です」
ロベルタス:「……つまりこれ、俺たち、世界で一番すごい“相談役”を手に入れたんじゃ?」
ナユタ:「正確には“アドバイザリAI”。そして、すでに未処理の危険ログが34件あります。処理を開始しますか?」
VAIOの「危険ログ処理」開始
ナユタが次々と表示する“未解決の情報”:
王都上層部における偽文書流通ログ
焚書団の資金源:黒金庫の存在
ダンジョンコア密売ルートと政商のつながり
「失われた第十三学区」の存在記録
ホレイショーが過去に封印した“禁記録”の断片
ホレイショーが静かに言う。
「……これはもう、“情報を伝える”というだけじゃ済まない。真実を解き明かす戦いが始まる」
義春:「だったら、それも“刷ってやろう”。世界に広まる準備は……もう、できてる」
ナユタ:「最適化完了。皆さん、これからが本番です」