第七章:願いの箱と、陰謀の起源
第七章:願いの箱と、陰謀の起源
セッカの屋敷は丘の上にあった。周囲を囲む白壁、衛兵の整列、上質な空気。
だが彼が案内したのは屋敷ではなく、その地下にある巨大な蔵だった。
「これが、俺の“保管庫”だ。趣味と、多少の未来志向を混ぜてある」
無数の古代装置、魔法遺物、未知の兵器が整然と並ぶ。
その最奥に、異様な箱が鎮座していた。
「ひとつは俺の私物だが……もうひとつ、余ってる。くれてやるよ」
布を外すと、中から黒いノートPCが現れた。
天板にははっきりとこう書かれていた。
SONY VAIO
“願いの箱”
魔力PC、ダンジョンコアエネルギー対応
入力形式:日本語・ローマ字
キプリングが目を見開く。「……文字が全部“異国語”だ」
ホレイショーは沈黙しながらも、そっとつぶやいた。
「これは……知識の器、か。違う次元の……書物だ」
ロベルタスは慎重にフタを開ける。
画面が光り、OSが立ち上がる。
起動画面:
ようこそ、SONY VAIOへ。
バッテリー:ダンジョンコア・エネルギー供給中
通信:オフライン(独立動作可)
検出言語:日本語
オプション:メモ帳/画像ビューア/表計算/セキュリティログ解析/監視記録再生
セッカが語る。
「俺は……この箱で、見た。陰謀の構造を。
王都の通信網、魔法商会の情報操作、焚書団の資金ルート。全部、断片だけどな。
だから、お前たちに渡す。“情報”を扱う者として、これをどう運用するかは自由だ」
義春は箱に手を置き、低く聞いた。
「……なぜ俺たちに?」
「今なら、まだ腐ってない。名も売れてない。だが力がある。そして、情報に真剣だ。
この“VAIO”に記録されたログは、将来の敵が誰かを示す。
今から原因に当たれ。手遅れになってからじゃ、刷る紙も燃やす時間もない」
ロベルタスがPCの「メモ帳」を開いた。
そこには、何百行もの記録が残っていた。
《転送魔術:実験記録03/成功》
《秘密議会/資金再配置》
《第八階層にて情報偽装開始》
《王都南部:図書制限法案 提出準備》
キプリングが呟く。
「これは……陰謀の中枢そのものじゃないか」
ホレイショーは真剣な顔で言った。
「**知識を公開する者が、最も深い闇を知るべきだ。**それが公共性の責任というもの」
義春は決断する。
「これを使う。陰謀の発信源を特定し、“刷る”だけじゃなく、“動く”時が来たってことだ」