第四章:現れた金持ち、名はセッカ
第四章:現れた金持ち、名はセッカ
「――このザマで、世界を救う?」
声が響いたのは、ギルド裏の路地だった。
スプリング茂吉が小さな屋台で印刷した“依頼チラシ”を配っていたときのことだった。
現れたのは、絹の服を着た青年。年齢は若いが、仕草も言葉も完全に貴族のそれだった。
背後には護衛らしき剣士。肩には白いフクロウ。
「自己満足の印刷屋か? 冒険者の名を借りた同人サークルか?」
「誰だ、あんた」義春が短く聞く。
「名はセッカ・サウリウス。正真正銘、金持ちだ。少しは人を救いたい性分でな」
彼は目の前に小袋を置いた。中には金貨十枚。
「金が欲しいんだろう? 資金が尽きて、ポーションも買えない。わかるさ。でもな――俺は“夢を見ろ”なんて言わない。無理だ。だが“仕事”ならできる」
「仕事?」
「世界を救うんだよ。印刷でな」
一瞬、全員が静かになった。
「俺がガリ紙100枚を毎日買ってやる。お前たちはそれを刷り続ける。戦う、稼ぐ、救う。その過程に“世界の役に立つ紙”があるなら、それが一番いい」
ロベルタスが思わず声を上げる。
「じゃあ……新聞とか、情報誌とか、魔物のデータベースとか……?」
「そういうことだ、ロベルタス君。俺はお前の実務能力に賭けてるんだよ。才能じゃない。地味に回る印刷機が、世界を変える。そういう話だ」
義春は腕を組み、少しだけ笑った。
「なるほどな。夢はいらん。だが……仕事はちゃんとやる。受けて立つ」
「いい返事だ。じゃあ明日から、“一日100枚の世界救済”を始めてくれ」
セッカは金貨の袋を義春に押しつけ、背を向けて去った。
白いフクロウが一声鳴いて、後を追った。
新プロジェクト:毎日100枚 世界救済印刷計画、始動!
村の疫病対策ガイド(地味に好評)
魔物目撃情報速報(間違えて牛を載せて苦情)
冒険者向け物価一覧(超便利と拡散される)
「スプリング茂吉便り」創刊(読者4人からスタート)
ロベルタスは毎朝、真顔で言う。
「今日も100枚……すります」
義春も答える。
「それが、世界救済だ」