第三戦:金も信頼も足りない冒険者
第三戦:金も信頼も足りない冒険者
「……残金、銅貨2枚。ライルの昼飯すら買えねぇ」
義春がため息をつく。
依頼は成功しても報酬は微々たるもの。装備の修理代、宿代、ポーション代で全てが消えた。
スト盾は無言でパンの耳を齧り、スト剣は黙って草を噛んでいた。
後衛組はそれぞれ武器の手入れをしながら、口には出さずとも“もう限界”の空気を漂わせる。
そんなとき、広場の隅で奇妙な音がした。
ガリ…ガリ…キコ…バリッ
見れば、痩せた青年がひとり、手製の木製印刷機を回していた。
ガリガリと原紙を削り、インクを塗り、紙を重ね、ガッコンとハンドルを回す。
「……なんだ、あれ」
ライルがぽつり。
「……ガリ版……印刷機?」
その男は、刷り上がった紙束を手に冒険者たちに声をかけていた。
「チラシ刷ります! 宣伝文書も! 地図でも! なんでも刷れる! 1枚1銅貨! 読めない字もきれいにします!」
ほとんど誰にも相手にされない。ある冒険者が冷たく返す。
「印刷で魔物は倒せねぇよ」
だが、義春は黙って男のところに歩いていった。
「名前は?」
「ロベルタス。印刷師です。ガリ紙、インク、枠、紙……全部扱えます。最大出力、紙1000枚。でも……信用されません。何度も断られました」
「売り物になるんだな?」
「ええ。印刷機も紙も、原紙も、全部バラして売れます。宣伝屋にもなれる。……だけど、戦力とは見なされない」
義春は腕を組んで考えた。そして言った。
「パーティー加入を希望するか?」
「希望します。……が、やっぱり信用が……」
「俺たちも金がねえし、信用なんて初めから無かった」
義春がロベルタスの肩を叩いた。
「よし、スプリング茂吉に入れ。お前の印刷機、明日からフル稼働だ」
翌朝、路地裏の印刷所
「依頼チラシ、村の広報、魔法銃のマニュアル、ボウガンの照準表、配布完了しました!」
「広告印刷20銅貨、ガリ版キット販売で銀貨1枚、普通紙ロットも完売!」
「ちょっと、これ……戦力じゃないけど、完全に生活の柱じゃないですか……!」とライル。
キプリングは真顔で言った。
「……ついに我々も“自立型印刷広告型冒険者パーティー”か」
オルヴァーが真顔で返す。
「地味に……最強では?」
義春は笑った。
「戦わずして勝つ方法ってやつだ。いいぞ、ロベルタス」
ロベルタスは恥ずかしそうに、でも誇らしげに印刷された紙束を胸に抱えていた。