幼い花嫁
タイトル『政略結婚で娶ったのは8歳の花嫁でした(仮)』
恋愛モノ、年の差婚で溺愛モノを書こうとしたのですが。
歳の差28歳、ここは申し分なし。しかし父親と娘の会話になっちゃうよ。
それ以上に、なんだか途中から雲行きが怪しくなってきた作品です。この先、どう進めれば溺愛モノになるのか?
「はじめまして。ジャクル国の国王陛下」
わずか8歳の花嫁は、くっきりとした大きな瞳をしっかりと見開いて、良く通る声でわたしに挨拶をした。
身の丈は、それほど背の高い方でもない私の腰のあたりまで。同じ年齢の子供の中に混じったら、小柄といえるくらいではなかろうか。手足もほっそりとしているし、伸ばしかけの赤みの強い髪は胸のあたりまで。着せられた豪華な衣装に押し潰されそうな、小さな少女だ。
それでも威厳のようなものを感じるのは、「残酷王」と異名をとる父親にそっくりだからであろうか。
「サンブリア国王レキシアの娘、セラフィナでございます。末永く愛しみくださいますよう、お願い申し上げます」
そう言ってにっこりと笑った。意味、解ってる? ちょっとおじさん心配。
きっと、そう言えって教え込まれたんだよね。そうに違いない。
まだあどけなさが残る笑顔はとてもかわいらしいのだが、同時にがんばっています的な緊張感は隠せていなくって、痛々しくも見えちゃうんだよね。
私は彼女に近づくと、目線を合わせるために片膝をつく。
「あなたの夫、アドリアンだ」
サンブリアの王女は私が屈んで挨拶をしたのに驚いたのだろうか、目をパチクリと瞬いた。
だが、すぐにその瞳に楽しそうな光が灯った。
「道中見てきたカドラナ海と同じ色の、青い目。すごくきれい」
無邪気にセラフィナは私の顔を覗き込む。
なにはともあれ、私は幼い花嫁に、多少なりとも気に入られたようでホッとしていた。
わずか8歳の幼女が隣国の王に嫁してくるには、当然複雑な理由がある。
我が国ジャクルとセラフィナの母国サンブリアは、つい2年ほど前まで戦争をしていた。侵略軍であるサンブリアの勝利で幕を閉じた戦いは、我が国にかなり不利な講和条約と、サンブリア国王レキシアとジャクル王女の結婚という形で一応は終結したのだった。
人質同然で侵略者の妻になった王女――これ私の娘ね――だが、早々に身ごもり、子を産んだ。しかも王子。世継ぎだ。
そこでレキシア王の妾腹の娘セラフィナが、わが娘(現在はサンブリア王妃)と入れ替わるように我が国へ輿入れすることになった。
そこに当人の意思なんて、あるわけはない。全部大人の事情で、セラフィナは王の娘ということだけで巻き込まれただけなのね。
しかし、いいのかなぁ。
私、36歳だよ。18歳になる娘がいるおじさんだよ。もっと言わせてもらえば、18歳の娘が8歳の花嫁の継母で、彼女の腹違いの弟の母親でもある。やもめ暮らしも長く、後継ぎのひとり娘を敵国に差しだした敗戦国の国王に、妾腹とはいえ王女様をくださるのだ。文句を言う権利はない。
だからといって、この年の差! どうしたらいいのさ。
若い花嫁にしても、限度ってもんがあるでしょうが!
と云うため息とも怒りともとれる複雑な感情は、おくびにも出さない。
私だって一国の王、そのくらいの腹芸はできる。なにより事情はどうあれ、結婚相手が困惑を顔や態度に出しちゃったらセラフィナ王女が困るでしょ。
「姫君は、青い瞳をお気に召しましていただけましたかな」
「お義母様に教えていただきました。ジャクル王のお目は垂れていて、瞳は海の色だと」
なるほど。うーんと年上の夫に、幼過ぎる花嫁が爪の先程でも興味持てるようにと、サンブリア王妃が吹き込んでおいてくれたようだ。そういうところは私より気が利く王妃のことだ。手回しくらいはバッチリしてあるらしい。ありがたいね。
いや、もう、だって。自分の娘より幼い妻を相手に、なにを話題にすればいいかなんて、とっさに浮かんでこないでしょ。だからといって、なにも話しかけない訳にはいかないだろうね。後ろに居並ぶ家臣たちが心配でワタワタしているんで、なんとかこの場を収めようと努力はする。国王だから。
「遠路はるばるジャクル国へようこそ、姫君。お疲れではないかな?」
小さな姫君は、大きな瞳をさらに大きくして私を見る。
「ジャクルの王よ、私はあなたの妻だ。まだ子供だが、あなたの妻なのだからセラフィナと呼んで欲しい」
感動的なセリフなのだが、彼女の年齢を考えると罪悪感も免れない。
「では、セラフィナ。あなたのお部屋にお菓子を用意しておいた。旅の装束を解いて、晩餐まで休息をとるようになさい」
お菓子、と聞いてセラフィナの口元が少し動いたのだが、すぐさま表情を引き締めた。
「私を子ども扱いするのですか」
プゥと頬を膨らませるしぐさは、まだまだ子供らしいですよ――と言いたいのだが、それではセラフィナ姫のプライドを傷つけてしまうだろう。少し前まで父親が戦っていた国へ、こんな幼い年齢で嫁入りしたのだ。しかも花婿は、その父親より年上だ。いろいろと心の中に不安を抱えていないはずはないと思うのだけれどね。
私の幼い妻は、毅然とした態度を崩そうとはしない。
「妻をいたわるのは夫の役目ですよ。セラフィナの母国では、そうではないのかな。はて、そんなことは聞かなかったが……。それとも、あなたはお菓子がお嫌いでしたか?」
「いいえ!」
ようやくセラフィナは子供らしい笑顔を見せ、こっそりとお菓子は大好きだと私に打ち明けてくれた。
ご来訪、ありがとうございます。
ご意見、お待ちしています。