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七つめの門  作者: 晴天八百十一号
12/14

10.模擬戦

この作品には一部刺激の強い表現が含まれます。

ご了承ください。

「慎VS隊長」

と銘打った模擬戦開催当日。

当人たちにとっては単なる実戦形式の訓練なのだが、やたらと大げさなことになってしまった。

『軍事部門の最高責任者である慎が戦っているところを見たことが無いが、はたして慎は強いのか?もしかすると弱いのではないか?』という新人たちの間で話題になっている噂。

そのアンサーとして『慎と隊長の模擬戦を見せる』ことを光樹が提案し、比呂が中心となって準備が進められていた。

見学は自由とされているが、当然その間その人間は仕事を中断、または休みを取ることになる為、見学希望者はあらかじめ前倒しで割り当て業務を終わらせ、かつ各現場の責任者や先輩に許可を得ている。

その辺りの社会的常識は、ロストプレイスでもやはり同じである。

ましてや今回のこの〝公開模擬戦〟の場合は、動員する人員が常軌を逸している。

見学者を抜きにしても、まず当事者である慎と隊長7名、提案者であり審判役でもある松田 光樹、そして32名もの‶結界要員〟が必要となる。

この結界要員も出来る限り高位魔法能力者が望ましいということで、当事者以外のクアッド7名と高位トリプル25名。

言い換えればLP20,000人の頂点に君臨する41名。

最高戦力を一か所に集結させているのだ。

言うまでも無く全員が各部門の重要なポジションを担っており、全ての部門に影響が出ている。

見回り巡回や、ましてや偵察任務など完全にストップである。

組織自体が小さかった頃ならいざ知らず、現在のLPにとっては大きなリスクを伴う一大軍事イベントと言っていいだろう。


________


僕たちが仕事を早引けして学校に着いた時には、既に試合会場の準備が整っていた。

試合場となる校庭には1辺が36mの正方形に白線が引かれ、その線上に全部で32本の【魔素塊(マソカイ)】の棒が等間隔に突き立っている。

この棒1本1本に術者が1人ずつ付き、強力な結界魔法を発動させることにより、周囲への被害を防ぐわけだ。

【魔素塊】というのは簡単に言うと【魔素】を浸み込ませた〝何か〟で、素材は固形物なら何でもいい。

作成するときに込めた魔素特性と、場合によっては魔法効果をそのまま付与出来るんだそうで、用途は限定されるがすごく便利とのこと。

高位魔法能力者は自分の武器に仕込むことが多い、隊長たちなどは服や銃弾にもこれを使うらしい。

例えば【剛門】で【物理強化】を込めた剣なら【武器強化】無しでも頑丈で切れ味も増す。

同じ付与を込めた服なら【障壁】無しでも銃弾や刃物を通さない。

ユニークな例えでは、刺さったとたんに発火する投げナイフとか、敵が踏みつけたタイミングで衝撃波の発生するトラップ床とか、なかなかにロマンのある武器を作れたりする。

だけど作るのがとても大変で、趣味や道楽でも無ければそんな使い方をする人はいない。

何しろ普通に魔法を行使するよりはるかに大量の魔素が必要な上、ものすごく時間が掛かるそうだ。

おまけに放置してるとせっかく込めた魔素が徐々に抜けていくらしい。

例に挙げた2つのロマン武器を作ったのは、もちろん慎だ………

今回使っているのは鉄の棒に【琉門】で‶結界の強化と均一化〟の効果が込められている。

大勢の術者で結界を作る場合は当然個人の実力差が出てしまうが、魔素塊を使えば全て同じ強度の結界を展開できる。

これは軍事訓練などによく使うので特別に【結界柱(ケッカイチュウ)】という固有名で呼んでいる。


「あっ!慎が来たよ~!」

麻里が指さす方向を見ると、会場に向かってくる慎。

隣に美月がくっついている…もはやおなじみの光景だな。

二人で楽しそうにおしゃべりしながら歩く姿は、まるで…

「なんかデートしてるみたい…」

「「「「「確かに…」」」」」

さらに別方向から隊長たちが続々と現れて学校に集まって来る。


今僕たちがいるのは教室棟3階のベランダで、試合会場を見下ろす格好になっている。

より試合の状況を見やすいようにという配慮だろう。

慎と隊長たちはちょうど真下辺りに集まって何か話してるみたいだけど、内容までは聞き取れない。

そこで【聴覚強化】を使ってみる、盗み聞きしてるみたいでちょっと気が引けるけど、別に内緒話をしてる雰囲気でもないし…そもそも美月は傍で聞いてるし。

「で、……どんなん?」

「いつも通り鉄砲と真剣無しで、あとは?」

「キル判定どうすんの?」

「光樹に頼んだ」

「班分けする?」

「前と一緒でよくね?…バトルロイヤル」

「前っていつだっけ?」

「1年…半ぐらい前。じゃね?」

「あ~、俺何使ったかな~?」

「慎は?得物どうすんだ?」

「安定の木剣&木棍♪」

「またかよ~、俺どうすっかな…たまには長物もいいか~」

「新人連中見てんだろ?バトルロイヤルでいいのか?」

………なんかグダグダ感が半端ないけど、たぶんルール決めてるんだよな?

ちなみに学校の物置には〝木製〟の各種武器がそろっていて、僕たちも訓練の時など自由に使える。

ただし壊してしまったら自分で新たに作って補充する決まりだ、その為の道具も同じく物置にある。

それにしても『バトルロイヤル』ってことは8人で乱戦形式ってことだよね?

見る方としてはちょっと辛いかも、あっちこっちで1対1の状況になっちゃうとどこ見ていいかわかんなくなる…

いつまでもワチャワチャやってる8人に光樹さんが近づいてきた。

「おまえら何くっちゃべってんだ!もう準備出来てんだから早く結界入れよ」

「わりぃな。バトルロイヤルだと上の奴ら見にくくねぇか?」

「そんなこと気にしてたのか?意外と真面目だな…あいつらが見てぇのは慎なんだからいいんだよ。どうせ1対7になんだろ?」

「それもそっか。…んじゃ、よろっと行こうぜ~」

………なんか今1対7って聞こえた気がするけど気のせいだな…うん。

「美月、これ持って上行っててな♪」

「うん」

慎がいつも羽織ってる法被モドキと刀を預けてる、美月もこっちで観戦するみたいだ。

なんか部活の選手とマネージャーって感じで、青春ラブコメ見てるみたい。

…バカなこと考えてたら横から橋本さんと菅さんの声が聞こえてきた。

「ねぇ、1対7って聞こえたのは私の気のせいかしら?」

「俺にもそう聞こえた」

気のせいじゃなかったか…

「乱戦形式だと弱い者からターゲットにされるのが常道だ、つまり1対7という状況は戦術的に必然。問題は最初の1人が慎だった場合、慎が最初に脱落ということになってしまう…」


橋本さんの危惧していることも最もなんだけど、光樹さんの口振りからするとやっぱり慎が〝1〟になる気がする。

なんか嫌な予感がしてきた…

そもそも光樹さんは『隊長の訓練としてやってた』って言ってた。

ということは隊長に訓練を付ける側の人間が要るってこと…

優輝は『慎は目標にならない』って…

福井さんは『慎は間違いなくトップ』って…

………

LPの人達は隠し事をしない…


僕の予感が当たっているなら、慎は………


「…陽平はどうしたの?なんか顔色が悪いみたい」

「あっ、美月っ!よく分かんないけどまた難しいこと考えてるんじゃない?気にしなくていいよ。それより一緒に慎の応援しよっ!」

「うんっ」

………麻里さんや。僕の彼女だよね?彼氏のこと気にしようよ。


結界の中に入った8人と審判役の光樹さんがバラバラに分かれて立っている。

ここから見る限りみんなリラックスしている様子で、人によっては準備体操なんかしてる。

対して観客席の方はどんどん熱気と緊張が大きくなっていく。

「いよいよやなっ!バトルロイヤルっちゅうのがまたええな~!興奮するわ~」

「おいおい勇斗、これはお前が……まぁ、いいか。確かに思ってたより面白くなりそうだな」

「横田さん何言うてんの、実質LPの最強決定戦やんか?これ見て燃えん奴おるかいな」

「そりゃ分かってるがよ、俺らにとってはレベルの違いを再認識するだけってことになりそうだ」

「まぁ、それはそれとしてや。誰が勝つんか一口握らん?…俺としては本命順也さん、対抗理て予想しとるけど」

「何を賭けるってんだ?分かってると思うが金なんかねぇぞ」

「〝酒〟でどないや?」

「………乗った。前川、お前も乗るだろ?」

「面白そうっすね!いいっすよ!」

………

一部でお気楽な人たちが賭けなんてやってるけど……まぁ、楽しみ方は人それぞれということで…


8人が準備完了のサインを出した。

ちょっと待って…やっぱりだ!

7人の隊長たちが真ん中に立った慎を取り囲む布陣になってる!

一泊置いて光樹さんの手が上がる。

「レディーッ、ゴーッ!?」

ドンッ!!?

衝撃波が発生したと錯覚するほど濃密で膨大な魔素が結界内に充満した。

そして………ッッ!!!?

8人の姿が霞む!!

慌てて【視覚強化】を使う…けど、それでも……


これは僕と麻里、それに和人の3人で協力して、後でまとめた戦闘の様子だ。

みんな目で追うのに必死だったし、記憶違いもあるかもしれないけど、わかる範囲でなんとか書き出してみた。


 慎を挟んで前後に立つ比呂と幸夫が電撃を放つ!

 それを落ち着いた様子で直上に大きくジャンプして躱す!

 空中で左右から理と友がそれぞれ木棍を突き入れる!

 どうやったか分からないけど後ろに跳んで躱す!(そこ空中…)

 直後に今度は昴が左下、順也が右上、晃が真後ろから木剣で切りかかる!

 慎は左手に持った木棍で突きを入れ、それを剣で受けた昴が弾き飛ばされる!

 その反動を利用して同じ棍の反対の柄で突き!順也の肩にヒット!

 勢いを止めずに右手の木剣を上段から叩きつけるように振り下ろす!

 晃はとっさに剣を水平にして眼前で受けるが背中から地面に落下!

 やっと慎が着地!した瞬間に幸夫が両手に持った短めの木剣で切りかかる!

 比呂がそれをサポートするようにやたらと長い棍を横から突き入れる!

 慎は双剣による攻撃を右手の剣1本で捌きながら比呂に【衝撃波】を連続で打ち込む!

 多重展開した障壁の上からダメージを受けながらも渾身の力で長棍を突き込む比呂!

 幸夫の双剣を棍で同時に止め右回し蹴り!幸夫の体がくの字に曲がる!

 比呂の棍を交わしざまその棍を右手で掴む!

 右手の剣どこ?と思った瞬間比呂の前頭部にヒット!

 奪った長棍の勢いを止めず幸夫の肩口に突き!

 左手の棍で大きく薙ぐ!比呂が吹っ飛ぶ!←キル

 と同時に右手の長棍を逆手に持ったまま幸夫も薙ぐ!吹っ飛ぶ!←キル

 回り込もうとしてた理に比呂が激突!

 その時慎の後ろには順也と友が迫り!前方には昴と晃が魔法を撃つ体勢!

 振り向きざま友の棍を左の棍で弾き!順也の棍を右の長棍で捌く!

 と思ったら何がどうなったのか順也が慎の後方に飛んだ!(多分合気の一種?)

 そのまま空中で【火魔法】に激突!←キル

 火魔法で出来た死角から長棍が飛んできて晃の腹部に激突!後方に吹っ飛ぶ!←キル

 友が大薙ぎした棍をダッキングで躱す!すぐ後ろに迫っていた理がそれを慌てて棍で受ける!

 一瞬気がそれた友の肩に右掌底!からの左後ろ回し蹴り!

 左で薙いだ棍を理がバックステップでギリギリ躱す!そのまま軌道を変え友に唐竹割!←キル

 再度昴が魔法を放つ!今度は【岩弾】連射!と同時に距離を詰める!

 さらに理も連続突きを放つ!

 岩弾の嵐を回避しながら昴の反対方向に移動しつつ棍対棍で一進一退!

 慎が落ちている木剣の柄部分を踏みつける!(比呂に投げつけたヤツ)

 飛び上がった木剣に僅かに気を取られた理の棍を下からかち上げる!と同時に顎に掌底!

 衝撃に耐えながら理が棍を振り下ろす!だがそこに慎はいない!

 岩弾を障壁で逸らしながら昴に接近!

 正面からの1対1!昴の剣と慎の根が激しく衝突!

 と同時に昴の後ろで衝撃波!ダメージは無いが一瞬気が奪われる!

 連続で慎の棍が昴を突く!←キル(和人によるとたぶん5発)

 ダッシュで迫る理に振り向かずに棍を投げつける!慌てて棍で逸らす!

 跳ね上がっていた木剣を慎が空中でキャッチ!そのまま体制の崩れた理の脳天に一撃!←キル


「終~了~!慎の勝ち~!」

光樹さんの宣言で試合は終了した。

「ワッハッハー♪なんだ~お前ら弱くなってねぇか~?」

「クッソムカつく…」

「いって~、瘤できてる」

「ちっくしょ~、油断した」

「魔素の動きでフェイント掛けんの反則だろ~」

「それな、読める訳ねぇし」

「光樹~、判定厳しくね?俺あれでキルか?」

「おめぇは頭かち割られても戦うのか?」

「慎、武器投げ過ぎ」

「そこはあれだ、多対一の〝1〟の強みだな♪」

………………

慎たちは今の試合について話を始めた。

和気あいあいといった雰囲気で…

だけど観客である僕たちはとても平常心では居られない………

結局、試合前に危惧した通り〝慎対隊長7人〟ということになった。

そして勝ったのは慎。

『弱いはずがない』とは思っていたけど、この結果は予想外過ぎる。

隊長達と比べてもこれほど圧倒的だなんて………それも接近戦でこんなに差があるのか…

僕らにとっては隊長達だって雲の上の存在だ。

さっきの攻撃の一撃一撃、魔法の一発一発、どれをとっても僕なら致命傷は間違いない。

それほどの魔素が込められていた。

レベルが違い過ぎる………

「…何なんや?自分の目ぇ信じられへん。訳わからん…」

「………あぁ、これはちょっと、いやかなり…別次元ってやつだな」

「隊長7人がかりでも手も足も出ないとは、そもそも私にはちゃんと見ることさえ出来ませんでした」

「心配するな圭子。俺もだ」

「慎…凄すぎるよ~」

「フフッ」

みんなそれぞれにショックを受けてる………1名ドヤ顔だけど…

下を見ると結界要員の人達に何か話していた光樹さんが、8人に向かって…

「次どうする~?」

って、次っ!!?

モロに頭打ったりしてたけど大丈夫なのか?

それにあれだけの魔素を使ってMPが持つの?

そう思って時計を確認すると…

えっ?試合開始から10分も経ってない!?

そういえば【視覚強化】を使っても、なお見えにくい程のスピードで戦ってたんだよな。

「じゃあ、久々に紅白戦やるか?…俺審判やるから光樹入れよ♪」

「ゲッ!マジかっ!?」

「お前ノーダメなんだからいいじゃねぇか、俺ら連戦だぞ」

「チーム分けすっか、グーパーな」

………………

…………

……


その後、チームを入れ替えたり慎が入ったりしながら、紅白戦2試合、タッグ戦4試合、最後に慎VS隊長プラス光樹さんという1対8(審判無し!)の、合計8試合行われた。

所要時間は2時間ちょっと。

…結局慎だけは黒星無し。

なんか見てるだけなのにすごく疲れた。


「おーいお前らー!終わりにするぞー!」

光樹さんの声で放心状態から立ち直った僕らは校庭に移動する。

みんな一言も発しない…目の前で起こった現象に認識が追い付かない感じ。

「慎ッ!怪我は大丈夫?」

「おう、まぁ、多少擦り傷切り傷は有るけど問題ないぞ♪」

いち早く下に降りていた美月が慎に詰め寄って心配してるけど………そいつ1度もキルされてないよ?

近くに来てよく見ると、確かに頬や腕に血が滲んでいる場所がある。

Tシャツも1ヶ所破れてるし、掠っている攻撃がいくつかあったことが分かる。

「どうやら慎もノーダメージとはいかなかったようだな」

「うん、ちょっと安心した。さすがに隊長たち相手に無傷はないよね。だけど僕にはほとんど見えなかった。和人は?」

「俺も似たようなものだ、頬のは確か最後の試合で理の突きが掠ったものだろう…自信はないが」

………

「そんじゃあこの辺でお開きにするか~、みんなおつかれ~♪」

「「「「「お疲れ様でしたっ!」」」」」

……試合前と比べると、慎を見る新人たちの目が明らかに変わっていた。

ショックを受けたことは共通してるだろうけど、恐怖したり、困惑したり、憧れたり、それぞれの目が代弁してる気がする。

………目の前でいちゃつき始める二人に注がれる白い眼は変わらない。


それにしても、この戦力でも勝てない<鬼>というのはいったいどれ程なんだ?

やっぱり慎に詳しく聞こう、僕なんかが知ってもどうしようもないって分かってはいるけど…


余談だけど……

慎と隊長たち、光樹さんと結界要員の人達の一部は、この後深夜までどんちゃん騒ぎしていたらしい……

タフだよね。

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