0.日本大戦
この作品には一部刺激の強い表現が含まれます。
ご了承ください。
20XX年・冬
隣国の大陸間弾道ミサイル発射実験の失敗により、日本国内に多数の物的被害と怪我人が出る事態となってしまった。
この「誤射」について一般市民・軍事関係者を問わず様々な憶測が飛び交った。
背後にある好戦的な大国の技術者が実験に参加していたことから、その大国の陰謀であるとする論調が大勢を占め、世界中でバッシングの嵐が吹き荒れることとなる。
日本政府は珍しく強い態度で謝罪と賠償を求めるが、隣国は応じることは無く。
逆に「武力増強政策を進める日本側が何か細工をした」と、根拠のない因縁をつけ軍を展開し始める。
互いに声明を発表するごとに緊張は高まって行き、戦争が始まるのではないかと心配が募る。
当然この時点で既に2国間の問題などではなく、牽制しあう大国同士の思惑が絡み合い、世界情勢自体が揺れ動いていた。
そしてミサイル実験失敗から2か月後。
早いところではソメイヨシノが咲き始める3月下旬。
なんと2度目となる「誤射」
温厚で知られる日本人もこれにはキレた。
「明らかに失敗ではなく、完全に喧嘩を売っている」「ここで反撃しないならば何のために増税までして武力強化したのか?」と。
急激に徹底抗戦へと傾く国内世論。
それに押される形で日本政府も日本海沿岸部に防衛戦力(当時の自衛隊)を展開させる。
一説にはこれもまた大国による世論操作の影響が大きいとされているが、国際社会的にも最早戦争は避けられないという風潮が高まり……
2度目の「誤射」から10日後。
隠岐の島近海でついに直接の戦闘が勃発。
これを皮切りに各所で戦端が開かれ、背後にあった大国や同盟国も次々と参戦。
あっという間に日本全土に戦火が拡大した。
ニュースやSNSでは被害状況が連日更新され、日本海側の都市部では集団大疎開が起こり、未曽有のパニック状態に陥った。
戦局は一進一退を繰り返したまま更に激化しつつ半年。
東京都千代田区、皇居内にある江戸城本丸跡。
最初に発見したのは警備員だと言われている。
直径1m程の黒い球体が上空に浮いていた。
それは見る間に大きくなっていく。
危険を感じたその警備員はすぐに異常事態を各所に連絡し、自身も逃げながら逐一状況を伝え続けた。
……黒い球体に飲み込まれるまで。
最終的には直径1kmにも達し、それ以上の拡大は確認されていない。
銃弾だろうが人間だろうが触れた物は全て飲み込まれ消息不明になってしまうことから、この不気味な黒い球体を「大穴」と呼ぶようになった。
当初日本政府は敵対国の攻撃ではないかと推測し、その正体を明かそうとあらゆる調査を試みるが、被害者が増えただけで全くの無駄に終わる。
さらには大穴の周りでは通信が乱れ、しかも時間と共にその範囲が拡大して行く。
遂には有線以外の通信がほぼ役に立たなくなり、また遠く離れた戦場までも影響が出始めた。
当然GPSやGNSSを利用した航空機や船舶も使用出来なくなる。
これによって敵味方問わず各国とも軍事行動自体が困難になり戦局が膠着し始めた。
大穴出現から約1か月後。
民間人・軍人問わず、さらに人種も国籍も関係なく原因不明の病に罹る者が続出。
症状は風邪に似ており、多少個人差はあるがそれほど重くはならず「頑張れば日常生活に支障はない」という者がほとんどだが………何をしても治らない。
後に【発病】と呼ばれ、一部の事情通には密かに【魔素酔い】と呼ぶ者もいる。
さらに1か月経ち、【発病】を免れた者の中に奇妙な能力を持つ人間が現れ出す。
何もないところに火を出したり、手も触れずに物を持ち上げたり、中には銃弾に当たったはずなのに無傷だった者も……
この能力は各地で発生しており、碌な通信手段が無い状況で各々が勝手に呼び始めたにも拘らず、その名称は何故か一致していた。
すなわち【魔法】である。
日本で起こった一連の不気味な現象により各国が軍を引き、日本国民の中にも海外へ逃げ出すものが出始めた。
この時国外に逃げ出した者により大穴の影響下から出ると【魔法】が使えなくなることが判明。
どうでもいい話だが、いの一番に日本を脱出したのは政府閣僚だ………。
敵国との戦争は下火になったものの国内の混乱は深まる一方。
そんな中トップ不在の政府を牛耳る者たちが現れる。
その代表が当時統合幕僚長であった〝石崎 憲太郎〟である。
石崎は‶日本政府軍主席〟を名乗り「困難を覆し、日本を導く」と宣言(この時正式に自衛隊から日本政府軍に改称)。
これに賛同した政府軍は日本各地を統制下に治めるべく行動を開始。
地域住民と協力して他国の兵士を排除、もしくは治安維持に努め影響力を増大していく一方、統制下に入り支配した地域においては〝政府の庇護〟の名目で強制労働を課すようになる。
住民たちは不満を抱きながらも政府軍の武力と戦争の脅威に怯えている上に、「強制的とはいえ過労死するほどの激務ではない」「戦時下にありながら最低限の生活は保障されている」という状況を飲み、従う道を選んでいる。
しかしながら、当然この状態を快く思わない者は多数おり、他国との戦争中にもかかわらず自国の政府に敵対する〝反政府ゲリラ組織〟が各地に誕生していった。
依然として国際社会の緊張状態は続いているが「日本には手を出さない」ことが当事国のいない大国同士の会談において秘密裏に承認されていた。
事実上の休戦協定である。
この時点で日本の人口は、戦争による死者や他国への亡命などでおよそ6千万人を割っていると推測されている。
これが〝日本大戦〟と呼ばれる戦争であるが、まだ世界中の誰も過去のこととは認識していない。
一般市民や有識者レベルはともかく、各国の首脳陣や軍部官僚は油汗を浮かべながら動向を見ているのだ。
一般には公開されていない…いや、させてはいけない。
軍事偵察衛星から送られてくる日本列島の画像。
東京都を中心として真円状に画像が無い。
現在はその範囲が徐々に広がってきている。
いずれ自分の国も今の日本と同じ混乱が訪れる………