激闘
ハッとなったルビーが視線を向けると、空から水の竜が襲い掛かってくる所だった。
「なっ!?」
それは条件反射であった。
咄嗟に飛び去ると、その一瞬後に水の竜が素通りした。
「あら?よく避けましたわね?シオン様!部外者が助言しないでくれますか?違反で失格負けになりますわよ?」
シオンもバツが悪るそうに頭を下げた。
「…………悪かったわ。今まで貴女を格下だと思って慢心があったみたい。ここからは本気で相手をしてあげるわ」
大きな声ではないが、深みある低い声でルビーが言った。
「私の水の竜を止められるかしら?」
マリンが生み出した水の竜はマリンを守るように、とぐろを巻きながらルビーを威嚇するかのポーズを取った。
「貴女に私の『二つ名』の真髄を魅せてあげるわ!」
「させると思っているのっ!」
ルビーが魔力を溜めようと集中すると、その暇を与えないように、マリンは水の竜をルビーに向かわせた。
しかしルビーは紙一重で避けると全身に魔力を纏わせた。何度も往復するように水の竜はルビーを襲うが、まったく当たらない。
「どうして当たらないのよ!」
流石のマリンも苛立った様子で焦りが見えてきた。
「水の竜は確かに『見掛け』はたいした魔法だと思うわ。でも肉体強化している私には速度が遅いわよ。さぁ!受けなさい!【紅蓮の蝶】!!!」
ルビーの周囲に紅い蝶が何十匹も出現した。
「たかだかファイヤーボールを蝶の形にしただけで、私の水の竜と変わらないじゃない!」
マリンは魔力を更に注ぎ込み、水の竜を大きくしてルビーに向かわせた。
「…………一匹で十分ね」
紅い蝶が水の竜にぶつかった。
ドオォォォォォン!!!!!!
予想だにしない爆発に水の竜は弾け飛んだ。
「なっ────」
言葉を失うマリンにルビーは口元をニヤリッとさせてマリンに言った。
「うふふっ、貴女の言う通り私の【紅蓮蝶】と貴女の【水の竜】は魔法の形を変化させるという点は同じよ。でも1つだけ間違っているわ」
「な、なにが違っているっていうのよ」
ルビーは紅蓮蝶を手の甲に乗せるとマリンに見せた。
「これはファイヤーボールではないわ。この蝶一匹一匹が、『ブラストボム』の魔法なのよ」
!?
ブラストボム────ファイヤーボールの発展系統の魔法であり、ファイヤーボールが下級魔法だとすればブラストボムは上級魔法に相当する。
その威力は単純にファイヤーボールの5倍以上とされている。無論、魔力量も多く消費する。
ただ1番の問題は、その魔法の扱いが難しい事にある。ブラストボムは当たった物を爆発させる魔法だ。その形を変化させるのもそうだが、手の甲に留まらせる事自体が自殺行為に等しい。
故に、ルビーの魔法技術の高さが伺えると言う事である。
「そんな…………」
マリンは一瞬呆然としたが、すぐに気を取り直した。
す~は~~、深呼吸してから言った。
「だからなに?私は負けていないわよ!」
水の竜を再度出現させると、マリンはレイピアで紋様を描いた。
「まだまだ私も全力を出していないのよっ!水の竜、二の型ヤマタノオロチ!!!」
水の竜の頭が八つに別れた。
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