アイノカタチ
初投稿作品です。文字数がとても少ないので気軽に読んでください。
「僕は君がどんな姿になろうと愛しているよ。」
こんな言葉を聞いたことはないだろうか。ある人は、これをきれいごとと批判するだろうし、ある人は、この言葉に共感できると思うだろう。僕のはじめの意見は前者だった。しかし、愛しかった彼女に出会って後者の意見となった。その人とは大学で出会った。僕は入りたての新入生で彼女は2つ上の先輩だった。最初はサークルの勧誘の時に顔を見て一目ぼれをしてしまった。だから僕はそのサークルに入って何とか彼女と仲良くなれるように頑張った。だけど、その道は決してやさしくはなかった。一般人の僕が一目ぼれをするような彼女は当然、他の人にも慕われていて簡単には近づけなかった。表面上はワイワイとしたサークルだったがその事情を知っている僕からしたら彼女の心を誰が射止めるかの争奪戦だった。だから新入生の僕はあきらめかけていた。
しかし、ある日転機が起きた。サークルの合宿に行くための資材が足りず僕が買い出しに行くことになった。最初は一人で行くはずだったが優しい彼女はわからないと思うから、という理由で買い出しに付いてきてくれた。僕は飛び上がるほどうれしかった。しかし、他の男たちはそれを許さず真っ先に自分たちも行くと言い出した。しかし、買うもの自体が少なかったため結局、二人で行くことになった。その時の先輩や同期の顔が怖すぎて今でも忘れられない。その日,初めて僕は彼女と二人っきりになれた。初めは緊張してうまく話すことができなかったが、彼女のほうが会話を展開してくれたおかげで買い物の中盤には友達のように話すことができた。しかも、彼女と自分は同じ趣味を持っていることがわかり、その話で盛り上がることができた。買い物が終わりこの二人っきりの状態がなくなってしまいそうになった。まだ話し足りない僕は思い切って
「良ければ今日のお礼を兼ねてごちそうさせてください。」
と、食事に誘った。最初は無理だと思っていた.しかし彼女はうん、といってくれた。僕たちはそのまま食事に行った。今、考えたらこれが初めてのデートだったのかもしれない。それがきっかけで僕たちは仲良くなりデートに行く機会も増えた。
それから1年がたち、彼女がサークルを引退しようとしたとき、僕は彼女と会えなくなるのが怖くなり思い切って告白をした。すると,彼女は遅いよ、といって僕の告白を受けてくれた。僕は声にならないほどうれしくて飛び上がりそうだった。この日が、僕たちにとって初めての記念日だ。それから、僕たちは少しぎくしゃくした関係になってしまった。なぜなら僕にとってははじめての彼女だし、友達感覚としては少し勝手が違う。しかも、彼女も初めて交際をするらしくお互いどうすればよいかわからなかった。そんな中、僕たちがデートをしていてお手洗いのために席を外しているところだった。帰ってくると彼女がナンパされていたのだ。しかも見た目はいかつく、彼女が明らかに嫌がっているのに誰も助けに行こうとはしなかった。僕はすぐさま走り出してその人たちの間に入り
「すみません。この人は僕の彼女なんで!」
と、声を震わせながら叫んだ。怒鳴りつけられると持ったが彼らは少し不機嫌になりながら帰っていった。僕は腰が抜けて立つことができなかったが彼女は僕に抱き着いて怖かった、といいながら泣いていた。その日は、お互い心身共にボロボロになって帰っていった。メイクをしていた彼女は泣きあとで台無しだし僕は相変わらず腰が抜けていた。しかし、お互いの目が合うと二人で思いっきり笑った。その日以降、彼女とのぎくしゃくはなくなった。
それから1年がたち、彼女は大学を卒業していった。当時、大学で出会うことができなくなるので二人で相談し、家を借りて同棲した。その生活はとても楽しかった。同棲していると彼女の見えなかった一面が見えて、より愛しくなったし逆に自分と価値観が合わずに衝突することもあった。だけど、なんだかんだうまくやっていくことができた。数年後、僕は大学を卒業して就職した。ある程度仕事にも慣れ、安定した収入が入るようになったところで彼女にプロポーズした。彼女はもちろんOKしてくれた。その後、改めてお互いの家族に挨拶をしに行ったり、結婚式を上げたりと忙しかった。結婚式には僕たちの家族はもちろん、大学時代に彼女の心を射止めようと頑張った同志たちもいた。昔は敵だった彼らも今では仲の良い友人となっていた。そんな多くの人たちに見守られながら僕たちは結婚した。ぼくは彼女が愛しかった。そして僕はあの言葉を彼女に伝えた
「君がどんな姿になろうと愛している。」
しかし、それから数年がたった今、その言葉を否定したくなるような気持ちでいた。目の前には動くことのない彼女がいた。別に死んでいるわけではなくただ植物人間のようになっている。これは僕と彼女でお出かけをしているとき、居眠り運転をしていた車が交差点に突っ込んできた。ひかれそうだった僕を助けた彼女が身代わりになったからだ。当初はなんで彼女が、と思い動くはずのない彼女の前で悲しみ続けた。その後、僕は一刻も彼女が回復できるように毎日、病院に通い続けて彼女の身の回りのお世話をした。その様子を見た周囲の人や彼女の家族そして友人たちは、僕のことを必死にサポートしてくれた。しかし、彼女の容態は一向に良くなる気配はなくただ月日が流れていくだけだった。次第に僕の心の中には一つの疑念が生まれた。
(自分は何のためにやっているのだろうか?)
と。彼女の回復が見込めない中、僕はただひたすらにお世話をしているだけだ。それをしている最中、彼女は同じ姿勢で同じ表情だ。今まで、僕に微笑みかけてくれたいた笑顔は僕に向くことはないし、僕の頑張りに対して、彼女は何の言葉もかけてはくれないのだ。次第に、僕は彼女をお世話すること自体に疲れを感じていた。けどその世話をやめることは出来なかった。彼女がこんな姿になったのは僕をかばったからだ。僕はその状態から抜け出すことができず、ずっと悩み苦しんでいた。そう、僕は今の彼女の状態を愛することができないのだ。そんな苦しんでいる中、ある日一つのことを思い浮かんだ。
(そうだ、そうだ、その手があったんだ!なんで思いつかなかったんだろう!僕が今の彼女を愛することができていないのは彼女と同じではないからだ。)
そう思うと、僕は真っ先外出て道路に向かって走り出した。
その後、彼は彼女の隣に並ぶことができ彼の表情は笑顔だったという。
読んでくださってありがとうございます。