転生を繰り返していたら前世の俺と出会ってしまいました。
「おい、大丈夫か、ドレーク、しっかりしろ」
「うー、うー」
俺の国の王は暴君だった。他国への侵略戦争を繰り返し、兵士も国民も皆疲弊していた。
俺は徴兵され、今、二十歳の誕生日をこの戦場で迎える。
俺は腹を刺されて落馬した。意識が遠のいていく。
この戦争が終わったら幼馴染のエミリと結婚の約束をしていた。病気の母親を残して俺は死んでしまうのか。
身の周りの心配事や今までの出来事が走馬灯のように頭の中を駆け巡った。
―――
俺は今、二十歳の誕生日を迎えようとしている。裕福な貴族の家に生まれた。
ある時、前世の記憶が蘇った。夢なのか現実なのかはわからないが、はっきりとした記憶がある。前世では俺は兵士だったが、戦闘中に死んだ。そして、俺は転生して、こうして生きている。
俺は図書館で前世のことについて調べた。俺が生まれ育った国は確かに存在していた。今いるところからはかなり遠い異国の地だ。
前世では貧乏だったから勉強もほとんどできなかった。今は裕福な家庭に生まれて、勉強や剣術、その他の興味のあることについて何でも学ぶことができる。
俺は人生がやり直せるチャンスを喜んで受け入れ、やりたいことを何でもできる環境に満足している。
魔法学校に入学し、一通りの魔術を習得した。そして俺は二十歳を迎える。
ある日、家に強盗が押し入り、俺は家族を守るために懸命に戦った。しかし、隙をつかれてナイフで刺されてしまった。意識が遠のいていく。また俺は死んでしまうのか。
―――
俺はトニーという名前でまた新しい人生を生きている。家は農業をしている。貧しいが食べ物には困らない。
ある時、前世の記憶が蘇った。しかも、3回目の人生のだ。1回目は兵士として戦争中に戦死。2回目は貴族の家に生まれて、強盗に刺されて死んだ。
2回とも二十歳になったときに死んでいる。ということは、俺は今回も二十歳までしか生きられないのだろうか。死ぬとわかっていて生きるのは面倒な気がするが、とりあえず俺は今の人生を生きるしかない。
俺は前世で学んだことを生かして、どうやって効率良く農作物を育てて収穫するかを思考錯誤していた。ある程度効率化を図って、収入が倍増した。これも前世で勉強ができたお蔭だ。こうやって、この転生を生かすのは悪くない。
俺は収穫がひと段落したので、農業用の工具を買うために、遠くの町まで出向いた。
その時、俺は最初の人生の俺を見つけた。髭を生やしていて、顔が分かりにくいが、間違いない。自分は20年もあの顔で生きてきたのだ。手の甲に生まれつき痣があったが、それも残っている。あれは確実に二十歳より歳をとった俺だ。
俺は恐る恐るその男に声を掛けた。
「あの、つかぬ事をお伺いしますが、ドレークさんですか。」
「お前、なぜ俺の名前を知っているんだ。」
ドレークはいきなり知らない青年に声を掛けられて、驚いていた。
俺は、何も考えずに声を掛けてしまった。何度も転生している話をしても信じてもらえないに違いない。俺は何て答えていいのかわからなかった。
「俺は二十歳までの記憶がない。お前、俺のことを知っているのか。」
ドレークが俺に聞いた。
俺は前世で死んだと思っていたが、生きていたのだ。じゃあ俺は誰だ。
「頭がおかしいと思われるかもしれませんが、俺は二十歳までドレークでした。」
「お前、もしかして前世の記憶があるのか。」
「はい、これで3度目の人生です。二十歳で死んだと思っていましたが、生きていたのですね。」
「俺は戦闘中に刺されたが、奇跡的に一命を取り留めた。でも、俺が目覚めた時にはそれまでの記憶がなかった。」
俺は安心した。きっと目の前にいる俺が家族やエミリのことを守ってくれているはずだと思った。
「俺の母やエミリはどうしていますか。」
俺はドレークに尋ねた。
「俺は記憶がないまま家に帰った。母親は喜んでくれたが、なんせ記憶がないからな。でも俺の使命だと思って看病したが、死んでしまったよ。エミリは俺が変わってしまったから離れていった。」
「そうですか。残念ですが、仕方ないことですね。ところで、ドレークさんは何度目の人生ですか。」
「俺も実は3度目だ。俺は20歳から40歳までしか生きられない。40歳からの人生を送る人もいる可能性があるな。」
俺とドレークさんは共に3度目の人生を送っている。俺は0~20歳、ドレークさんは20~40歳。魔法学校時代に時空を操る魔法があると聞いたことがある。パラレルワールドに入ってしまっているのだろうか。