美琴が深夜にコンビニにおにぎりを買いにいくだけのお話。
「お腹がすきましたね」
闇野美琴はむくりとベッドから起き上がり、ぐうぐうと鳴るお腹を抑えて言いました。
そういえば朝から何も食べずに訓練にスパーリングと激しい運動をこなして眠ったものですから、空腹で目が覚めても仕方がありません。
壁にかけられた時計を見てみますと、深夜0時となっています。
美琴としてはこんな夜中に食事をするのは関心しないと思っていましたけれど、何か食べないことにはお腹の悲鳴は止みません。
けれど自炊しては間に合いませんし、レストランに行こうにも開店していないかもしれません。
途方に暮れた美琴はベッドの上で頭を抱えて悩みました。
「わたしは一体どうすればいいのでしょう!」
その時、美琴の頭にコンビニの光景が思い浮かびました。
コンビニならいつでも開いていますし、きっとおにぎりも置いているに違いありません。
そうと決めれば即行動と、美琴は明るさを取り戻して近くのコンビニへ足を運ぶことにしました。
ウィーンと自動ドアが開き、いつもの「いらっしゃいませー」のあいさつをした女性店員は、入ってきた客の容姿に目を丸くしました。
客の風貌が風変りだったからです。
長く艶のある黒髪は蛍光灯の光で輝き、動く度に滑らかに揺れます。とても手入れされていることが一目でわかりますが、目を引くのは服装でした。
白を基調にした装束を纏っているのです。一見すると忍者と巫女の中間のような特異な服装でしたので、店員は何かのアニメのコスプレかと思ってしまいました。
秋が近づき寒くなってきたのに、客の女性の白く細い手足はむき出しなのです。
客の女性はにっこりと微笑みを浮かべて言いました。
「闇野美琴と申します。あの、お尋ねしますが、おにぎりのコーナーはどちらにありますか?」
「ああ、おにぎりでしたら、こちらです」
店員の後をついて言った美琴は目の前に広がる光景に呆然として立ち尽くしてしまいました。
それは美琴が見たこともないほど膨大な数のおにぎりが並んでいたのです。
定番の鮭、梅、塩、味噌、ツナマヨの他にも沖縄では定番のポーク玉子、山菜、エビマヨ、辛子明太子などもあります。
「教えていただきありがとうございます」
礼儀正しく頭を下げてから改めておにぎりコーナーを見つめる美琴の目は子供のようにキラキラと輝いていました。
コンビニの小さな買い物かごにおにぎりを次々に入れていきます。
迷っていては空腹で倒れてしまうかもしれないので、時間との勝負なのです。
入れるだけおにぎりをかごの中に入れて、レジ前に出陣します。
店員が次々におにぎりのバーコードを通していきます。
やがて、すべてのおにぎりの合計金額が出ました。
「お会計は5200円です」
「えっと、5200円、ですね……」
古風なガマ口の財布を逆さにして、出てきたのは五百円玉が一枚。
「申し訳ございません。返品してもよろしいでしょうか」
「お客様、返品はできません。お買い上げください」
「お金がないのです」
目に涙をためながら美琴が懇願しますと、店員は張り付いた笑顔で言いました。
「おにぎりを温めますか? それともあなたがおにぎりの具になりますか?」
おしまい。