6話
第一印象、今時の若いお兄さんだった。
シルキーアッシュの襟足だけ少し長めにとっている髪の毛、両耳に複数のピアス。ワイシャツはボタンが開いていて、カラコンもがっつり装着。
(……ばちばちに決めてる人だ。)
つかつかと歩いてくると今村さんの前、つまり志信の隣りに腰を下ろした。
「おかえり、奏季君。」
たしか、志信の指南役になるだろう人だった。それが、この人らしい。黒髪で制服を着崩さない志信とは外見でいうなら正反対。こんな正反対のペアで大丈夫なんだろうか。
「当主、この子達が今回保護した子ってことすか?」
私と志信を一瞥すると、今村さんに問いかける。その言葉に今村さんが頷いたのを見ると、男の人は一瞬複雑そうな顔をした後に、すぐまた笑顔に戻した。
「んじゃご挨拶から。初めまして、俺は今村奏季今村において俺の役目は、狩人。そこの之人とは……まあ、会社で言うところの同僚ってやつだな。地方への出張が多い之人に対して、俺は本社勤めが主だ。保護した力ある人物らを教育するのは、そういうわけでほっとんど俺。ヨロシクよー。」
一息に噛むことなく且つ淀みなく、奏季さんはそう言った。
私だったらきっと噛んでた。それがわかってるから、長くは話さない。
だから彼は凄い、と思う。
「初めまして。清田志信です。」
「香住秋穂です。よろしくお願いします。」
「志信と秋穂ね、了解。」
普通に呼び捨てだった。気さくな人のようだ。
楚々とした仕草でユキさんはビールとグラスをお盆にのせてやってくると、奏季さんの横に膝をつきグラスを渡す。彼は慣れた様子でそれを受け取り、斜めに傾ける。
ユキさんによってビールがなみなみとつがれ、奏季さんは軽く礼を言った後、それをぐいと煽った。
「やっぱ仕事の後はこれだよな!」
同意を求めるかのように、にこっと笑ってこちらを見る。
(うーん。私に言われてもな。)
そんな微妙な私の感情を理解していてかどうかはわからないけど、今村さんがざっくり切り込んできた。
「奏季君、あたしたち未成年だから。」
「すんません、当主。ついね、つい。」
若干冷汗かいてるように見えるのは気のせいじゃないはず。
当主って、今村さんって、凄いんだね。改めてそう思います。
「それで奏季君にはその隣の清田にだけ指南お願いしたい。」
「えっ!」
志信を見て、それから私を見て、最後に今村さんに視線を戻した。
「秋穂は?」
そりゃ気になるよね。二人いるうち、一人だけの指南を任されれば。
聞かれた当人はお茶を啜っていたのをやめ、湯呑をとん、とテーブルの上に置いた。
「之人直々の申し出で、任せることにした。」
「ゆ……之が!」
何だって!とか、大変よ!とか、女子高生ですかってレベルできゃーきゃー騒ぎながら斜め向かいに座る之人君に身を乗り出して詰め寄ってくる。
その様子に若干引きつつも、之人君は答えた。
「俺もやってみたくなって。」
周りにしてみたら結構淡白な答えだったのに、奏季さんにとっては十分すぎるくらいのものだったらしくはしゃいでいた。女子高生並に。
「ちょっおま、何なの!今までこっちでのことは全て任せっきりで、自分は遠征遠征だったのに!そうか、ついに狩人二人で苦楽を共にずっと一緒だよ的な?」
「違う。そんなんじゃないよ。」
奏季さんの方も見ずにぴしゃりと言い放った彼はなんだか怖い、ような気がする。
がーん、と分かりやすく落ち込む奏季さんを放っておき、之人君はお腹が満たされたのか、箸を置いて食後のお茶を堪能していた。
「ご馳走様でした。さてと翔華、俺は先にお暇させてもらうよ。」
「えっ?あ、うん。」
いきなり話題を振られて今村さんは驚きながら返事をしていた。
挨拶は済んだ、とばかりに席を立ちすたすたと歩いていく之人君は、何を思ったのかぴたりと足を止めて半身を振り返った。
「そうそう。香住さん、明日の朝六時に道場ね。動きやすい格好で来なよ。」
その言葉に私が返事するよりも前に踵を返して去って行った。つまり意見は許さないということか。
私は考えた。動きやすい服はいいのだけれど、学校帰りにそのままここに来たのでこの着ている制服しかない。ジャージは体育が無かったから家にある。下着とか寝る時の服とかも考えると、さて、色々と困ったぞ。
「今村さん、私たち着替えをまるで持ってきてない状態なのですが。というか、生活に必要なもの全般が家にあるのですが。」
「うん。今日の着替えとかは来客用の出すから、明日の午前中にでも取りに行ってもらおうかと思ったんだけど……さすがにやっぱ自分のがいいよね。」
それは本当にそう。さすがに肌着系は自分のものがいい。
「香住、清田。この後、帰宅して荷物取って来なよ。あ、でも、奏季君と之人はつけるけど。」
そんなこんなで、一時帰宅することになったのだった。