31話
滝の中にあるという入り口。どこからどう行くのだろう。
そう思っていたら、ウイさんは迷うことなく湖に向かって足を伸ばす。
危ない、という言葉が出るより前に、その言葉を飲み込んだ。なぜならウイさんは、沈むことなく湖に浮いていたのだから。
「う、浮いてる?」
「秋穂ちゃん、やっぱり沈むと思ってたんだね。」
一般常識ではそうだ。
でもよくよく考えてみれば、これも力のうちなのだろうと納得できた。
「私を案じてくださったのですか?秋穂様はお優しい。」
「いや、でも余計な心配だったようで……」
ウイさんの能力なのか、それともこの場に何か呪いがかけられているのか。
「燈織さんは湖の上歩けますか?ちなみに私はできません。」
「力を足の裏に流せば誰でもできるよ。でもここはそうする必要がないみたいだね。」
誰でもできるよと言うからには燈織さんは出来る側の人ということが発覚した。どうせ私は出来ない側の人間ですよ。
そして今の言葉から察すると、この場所ではそういった能力を使わなくてもウイさんのように湖の上に立つことができるらしい。
「ナリ様が認めた者のみが通れるようになっているのです。ですから、秋穂様もここを歩くことができます。」
「なるほど。」
きっとナリさんの能力なのだろう。
恐る恐る湖の上に足を進める。言葉の通り沈むことなく、上に立つことができた。
これはなかなかできない体験で少し興奮した。
最近は嬉しくない方のなかなかできない体験ばかりだったけど、これは嬉しい方のなかなかできない体験だ。水の上歩けるって凄くない?あめんぼになった気分。あれは立ってるわけじゃないけど。
「あ、燈織さんはどうなんでしょう?」
今回ここに来るにあたって、おそらくはイレギュラーだろう燈織さんは、認められているのだろうか。
「さあ?まあでもダメだったら自力で行けるし。」
いや行けるんだろうけど、もし認められてなかったらそもそも一緒に行ったところで何かが起きること必須じゃないか、と思ったり。
まあ、言わないけど。
「では行きましょうか。」
ウイさんに促されて三人で行くことになった。
もちろん燈織さんも一緒に歩いて。
「まずはナリ様とマヤ様に会っていただきます。ナリ様がとくに秋穂様とお会いすることを望んでいるので。他の者はその後挨拶させましょう。」
宮が当主と指名したナリさんに会うことは当然の流れだろう。
ああ、そういえば、不安ならマヤさんもと言っていたから、二人が当主なのか。
あの過去の記憶では、他の天の一族の人たちを見る事はできなかった。どんな人たちかわからないから怖い気持ちはある。
というか、歴史ある一族の偉い人とご挨拶できるって私すごい待遇受けてます。それも恐怖を感じる一つの要因なんですよ。
動物の声も、虫の鳴き声も聞こえない、風で葉が擦れる音がしない夜の森の中、月明かりを頼りに静かな水面を歩く。
しかも底が見えない。
「秋穂ちゃん、怖いの?」
隣を歩く燈織さんがそう尋ねてきた。
声をかけられたのでそちらを向くと、これまた胡散臭そうな笑顔をしてる。
「そりゃ怖いですよ。こんな森の中なのに虫の鳴き声一つも聞こえないし、月がなければ真っ暗だし、湖の底は見えないし、やっぱり怖いです。」
大事なことなので二度言うと、燈織さんはそうだよねぇと言った。いや、分かるなら聞かないで。何か改善策を出してくれるわけじゃないなら言わないで。
なんて心の中で燈織さんを恨みながら歩いていたら、目の前のウイさんが急に止まった。
距離はそれなりにあったので、後ろを歩いていた私がぶつかることはなかったけど。
「ウイさん?」




