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30話

 

 目の前の景色が、必死な形相の今村さんが、悲痛な顔で叫ぶ之人君がぐにゃりと歪んで見える。水に水彩画絵の具を何色か垂らしてマーブル模様になったときのようにも似ている、と思った時には目の前から消えていた。

 そして代わりに視界に入ってきたのは、


「滝?」


 どこかの山の中にでも来たのだろうか。月明りがあってそこそこ明るいのは助かる。

 木々に囲まれた中、大きな滝が目の前にあった。

 夜ということも相まって、ひんやりとする。


「へー!ここがねぇ」


 聞こえるはずのない声に驚き後ろを振り向くと、ウイさんの少し後ろに燈織さんがいた。


「何で、燈織さんが?」


 柱の一族の中でも要職の人で、実はヒナキだった人。以前宮が見せた過去では、天の一族はヒナキをよく思っていなかったし、ここにいるのは得策ではないはず。


 急いでウイさんの表情を窺うも、無表情すぎて私にはわからない。


「あの、ウイさん、この人はユキさんから私を助けてくれたんです、だから悪い人じゃないんです!」

「そうそう、俺、功労者だよ。」

「ちょっと燈織さん黙ってて!」


 人が必死でフォローしているのに余計な間の手を入れる燈織さんにいらっとするし、何でここに?という疑問はそのままだけど、とにかくウイさんに分かってもらうべく必死に言い募る。こんなに長文で話したの久しぶりなんじゃないかっていうぐらいに話した。

 ウイさんはけして私の言葉を遮ることなく、最後まで聞いてくれた。


「秋穂様。」

「はい。」

「私は彼に対してどうこうしようという気はございません。」

「ほんとですか?」

「はい。」


 私が宮を宿しているからだろうか。ウイさんは初めて会った時から、私に対してとても丁寧に接してくれる。


 何はともあれ、とりあえず目の前で戦いが起きるのは避けれたようでほっとする。

 さきほどのユキさんの件もあるし、敏感になるのは仕方がないことだ。


「というか、なぜ燈織さんはここに?」

「柱の一族と共に行動してた秋穂ちゃんを、1人きりで天の一族に行かせるなんて危ないでしょ。」


 そんな理由で、彼は付いてきたのか。

 だとしたら相当だ。

 燈織さんに至っては過去も今も柱の一族の人間なのだから、危険度は私より遥かに上のはず。


「いや、私より燈織さんの方が大変なんじゃ…?」


 隣に天の一族であるウイさんがいるため、一応言葉は選ぶ。

 まあさっきの燈織さんの発言も、この場においてはなかなかなのだけど。


「俺は別に柱の一族に忠誠を誓ってるわけじゃないよ。今まで柱の一族にいたのはその方がやりやすかったってだけ。」

「そんな簡単にあっちいったりこっちいったりってできるんですか?」

「さあ?でも俺はそうなの。」


 実力は折り紙付きだし、本当に危なくなったら自分でどうにかできるだろう。

 そう思って、この話はここまでとした。


「ところでウイさん、ここは?」


 本当に今更な質問である。


「ここは我ら天の一族の隠れ家です。」


 隠れ家と?この滝が?

 え、水の中住んでるの?人魚なのかな?


 だいぶ困惑した表情をしていたのだろう、ウイさんがさらに補足して説明してくれた。


「あの滝の中に入り口があり、その先に我らの屋敷があるのです。」

「えっと、洞窟の中にあるってこと?」

「いえ、別次元と繋がっているのです。なのでそう易々と屋敷が見つかることはありません。」


 と言われたのだけど、ここに燈織さんがいる。いいのかな、教えていいやつなのかな。


 なんかさっきから一人だけはらはらしてる気がする。


 そしてさらに疑問が。

 確かに滝は存在する。するんだけど、目の前には大きな湖が広がっていて、その奥に件の滝がある。

 見るかぎり橋はない。ということは、滝の中に入れるような道も見渡す限りない。


 さて、どうするつもりなのだろうか。


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