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27話

 

 私を空中で抱えこんだのは、なんと燈織さんだった。


「舌噛むから黙っててねー」


 世間話をするように穏やかに言うと、私を抱えたまま近くにあった背の高い木に一瞬着地し、さらに跳躍すると三階の屋根のない渡り廊下に降り立った。


「はい、どうぞ」


 そう言って降ろされるが、あんなことがあったのだ、腰が抜けてまともに動けない。そのままその場にぺたり、と座り込んでしまった。


「あらら、腰抜けた?」


 私の目の前にしゃがみ込んで尋ねる。


「あ、わかった。秋穂ちゃんってジェットコースター苦手なタイプだ。」


 確かに苦手だけど、今のはジェットコースター好きな人でも腰抜けると思う。


「確かに苦手です。でも今のはジェットコースターの比じゃないと思うし、そもそもさっき妖に襲われたばっかりなので心身ともに衝撃に弱いです。」

「襲撃受けたのって初めてじゃないんでしょ?」

「だとしても怖いものは怖いです。」

「それはそうか。」


 そうか、なんて言ってるけど、妖との戦いに身を置いてる人からしてみればこんなの怖いうちに入らないのかもしれない。

 なんていう私の気持ちを知る由もなく、なんの脈絡も無くひょいっと抱えられる。


「寒いし、中に入ろうか。」


 当たり前のように私を抱えて校舎の中に入っていく。


「待って、志信たちは?」

「之人いるし大丈夫でしょ。」

「あ、あと、学校に誰か先生と業者の人もいるんです!」

「それは奏季か当主のどっちかがどうにかしてるよ。」

「二人も来てるんですか?」

「そりゃね。歩きながらもなんだし、力戻るまで座って話そうかー」


 そういって見つけた空き教室に入り、丁寧な仕草で私を椅子に降ろして座らせてくれた。

 そして燈織さんは私の前の席の椅子に後ろ向き、つまりはこちらが見えるように跨るようにして座り、背もたれに腕を乗せて頬杖をついた。その様子からは緊迫感がまるで感じられない。

 多分、燈織さんは高校生ではない。だからそんな人と、しかも夜の学校でこうして座りあっているなんだか笑える。こんな状況だけど。


「落ち着いてきた?」

「なんとか。助けていただいてありがとうございます。」

「いいえー。」


 体の震えも落ち着いてきた。

 私を抱えていた燈織さんはそれがわかっていたはず。


「皆さん助けに来てくれたんですね。」


 志信は之人君に連絡をしたと言っていた。

 ということは、その後之人君のみならずみんながすぐにこちらに向かってきてくれたということなのだろう。


「助けっていうのは語弊があるなぁ。実はさ今回の騒動は三樞からの命令があったからなんだよね。裏切者がいるから、君と志信を囮にして誘き出して処理せよって。之人と奏季だけじゃなくて俺も出動させるくらいだから、上はこの件に関して重く見てるみたいだね。」


 ちょっと前に之人君からそんな話を聞いた。あの時は連絡があるまで待ってて、と言われたのだが、連絡も無く渦中にひっぱりこまれた。

 ということはみんなもしかしてここら辺で張っていた?だから来るのが早かった?

 というか今思えばあれだけ誰を伴って外出するよう言われてたのに今日に限って志信と私の二人で出かけることを許可された。そして忘れていたけど、前に教えてもらった時、私と志信が何も知らないまま手伝ってもらうと言われたけど、それは今回のことなのでは?

 憮然とした表情でいると、まあ君の気持ちもわかるよ、と言った。


「三樞のお考えはとてもじゃないが我々とはかけ離れているからね。」

「それ言っていいんですか?」

「だってここには秋穂ちゃんしかいないし。」


 つまりやばいやつに聞かれてないからいい、ということか。


「さっきその三樞が重く見てるっていたんだけど、」


 唐突に話を切り出される。

 そこはかとなく言外に貶していた三樞が重く見ている事態ってどんなことなんだろう、むしろ本当に重いのか?と思ったけど、そこは伏せる。


「裏切者がさ、天の一族と手を組んでるみたいなんだよね。」


 まさかの爆弾発言でした。


「天の一族?」

「そうそう。ちょっと前に君は天の一族のこと調べてたでしょ?能力目覚めたばっかでここにきて一族のこと調べてるから、もしかしたら協力者なんじゃって一瞬上も迷ったみたい。」


 確かに調べてたけど、私はその人の協力者じゃない。そして協力者じゃないけど、今村さんたちからしたら別の裏切者っていう位置付けかもしれない。というか上もってことは上以外の誰かも疑ってるってことだよね、誰だろう、やっぱこの燈織さんかな。だからこうして話してるのかな。


「ただ裏切者と君と接触が見られないってことで、一応は警戒が解かれたんだけど、まあ能力的に低いし志信と一緒に囮にされちゃったってわけ。」


 されちゃったで済ませないでほしい。

 志信なんてけっこうな接近戦してるから一歩間違えば怪我では済まなかったはず。かくいう私も、接近戦こそはしてないけど、敵はその気になれば私を殺せるようなタイミングはいくらでもあった。

 さっきだって引っ張られるのではなく、あの場でざくっといかれたらもうそれで終わりだった。


(あれ?)


 そう、殺せるような位置に私はいた。なのに、敵はそうはしなかった。何故だろう。

 むしろ連れて行こうとしてたのでは。


「もしかして、私を連れていこうとしてる?」


 裏切者は天の一族と通じてるという。ということは、私が天の一族と知っているのではないだろうか。そして私を一族に連れてくるように言われているのではないだろうか。


 肌がざわざわと泡立つのを感じる。


「私狙われてる?」

「じゃないかなって俺は思ってる。あの場にいた之人もそう思ったんじゃないかな。」


 こともなく燈織さんはそう言った。

 つまり之人君に私も裏切者であり協力者であるゆえに命は狙われなかったのだと疑われているということ。

 でも違うよと胸を張って言えないのが苦しい。


「あのあと色々あったけど、天の一族の本読んだ?」


 そういえばあの本を読んだ後に眠りについたんだっけか。でも読んでるは読んでるので、肯定する。


「あの本さ、なんか今村に良いように書かれてるよね。」


 自分の一族の本なのだからそうなるのは当然だろうとは思う。だけど燈織さんの言葉から察するに、もっと別視点での客観的な書き方をしてほしかったのだろうか。

 例えば天の一族視点のものとか?

 そう考えるも、すぐにその考えを打ち消す。さすがにそれはまずいだろう。だって今回の騒動の発端は天の一族と内通していたからというもの。それだけ天の一族を危険視している。


「社にいた宮様だって、快く力貸すわけないじゃんか普通。何かの力でもって、強制的に従わせてたんじゃないかって思っちゃうよねぇ。」


 断定的な言い方に違和感を覚える。まるで事実を知っているかのような言い方だ。でもまさか、そんなわけはないだろう。だって、この人は今村であり、柱の一族なのだから。


「……天の一族のこと詳しいんですか?」

「そうだね。今村の中では最も詳しいよ。」

「あの本の真偽がわかるくらいですか?」

「その言い方だと、あの本に偽りが有ると知ってるみたいだね。」


 にやり、と燈織さんの目がさらに細く三日月のようになった。


「もちろん、何が本当で偽りなのか知っているよ。」

「それはなぜ知ってるんですか?」


 質問が多いねぇと言われるが、本当はもっと矢継ぎ早に聞きたいのを我慢して、それでもそこそこ言葉を選んで聞いているのだ。

 ただ燈織さんは気分を害したわけでも、こちらを疑うような素振りを見せるわけでもなく、本当に面白そうに答える。


「体験したから知ってるの。」

「た、たい、けん?」


 私の反応を面白がってるのが聞かなくてもわかる。

 私の場合宮の話と追体験でそこそこ知ったのだが、もしかしておなじような追体験をしたと?つまり、彼も宮の干渉を受けてる、ということなのだろうか。

 そうなると燈織さんも天の一族となるが、ウイさんは燈織さんについて何も言わなかった。


 そして燈織さんはさらなる爆弾を投下した。


「俺はあの時代に生きてたの。」


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