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25話


そして次の日、一人で大量の朝食を取った後、診察を受けた。異常はないということで帰って良しとのお墨付きをもらった。

と言っても身一つでここにいたから、とくに片付けるものなどはない。

病衣からもともと着ていたジャージに着替えるぐらいだ。下着はまあしょうがない。帰ったらすぐに着替えよう。


とりあえず諸々用事を済ませてくると言って夏南ちゃんが出て行ったので、その間に着替える。

綺麗に畳まれたジャージはお日様の香りがした。きっと洗濯をしてくれていたのだろう、ありがたや。

着替えなんてすぐ終わるので、昨日之人君にもらった烏龍茶を飲んでいると所用を終わらせたらしい夏南ちゃんが戻ってきた。


「着替え終わったんですね。そろそろ帰りましょうか。」


聞けば夏南ちゃんが今村家に送ってくれるとのこと。今村家からここがどの方向に位置するのかもわかっていない私には大変ありがたいことだった。

飲み終わった烏龍茶のペットボトルを捨て、ミルクティーだけを手に持ち夏南ちゃんと連れ立って帰宅する。

途中で会った篠田家の人たちにはお世話になりました、とお礼を言うことを忘れない。


舗装されていない土も石も草も剥き出し生えっぱなしの道を二人で歩く。


「ミルクティー差し入れでもらったんですか?」

「うん。烏龍茶ももらったの。」

「清田先輩ですかー?」


自分と入れ替わりで部屋に滞在した幼馴染である志信の仕業だと思ったのだろう。


「ひみつー」


実際はお忍びでやって来た之人君からの差し入れなんだけど、種明かしすると之人君が何か言われてしまう可能性が大きいので秘密ということにした。

その後差し迫る文化祭の話などしていると、通ったことのある道だということに気がついた。

そう、ここは前にウイさんと会った森の近くなのだ。つまりは、かつて宮が囚われていた社の近く。

話を聞いたから社を見てみたい気もするけど、禁止されているし、宮の力の残り香が私にどう影響するかも分からないから行かない方が吉だ。


「この間ここら辺まで散歩しにきたんだ。もっと進めば夏南ちゃんちがあるんだね。」

「そうなんです。そこそこの距離感ですよね。」

「そこを毎度行き来している夏南ちゃんもユキさんも凄いね。」

「いえ、姉に関してはご本家に住み込みで働いてるので、何か用事があれば篠田に帰ってくるぐらいです。私もわりとあっちに泊まったりするので、そんなに行き来してないですよ。」


そんなもんだ、と思えばそれまでかという結論に至った。


そうして歩いていると、あっという間に今村さんの家についた。


「ん?之人君?」


なぜか之人君が立っていた。夏南ちゃんも不思議そうな顔で之人君に尋ねる。


「いたんだ?」

「翔華から退院したって聞いて。迎えに行こうかと思ってたんだけど、出たの早かったんだね。」


今村さんから連絡がいっていたらしい。しかもお迎えにくる予定だったと。行き違いにならず、ここで会えて良かった。

というより、今学校の時間……と思ったけど、もうその類の突っ込みを入れることをやめた。


「じゃあ後は之人君に任せて良いかな?」

「いいよ。」

「よろしくね。それじゃあ香澄先輩、また明日!」


そう言って笑顔で手を振ると、走って帰って行った。この距離を走るとは、見た目からは分からないけど結構夏南ちゃんは体力があるらしい。


「おかえり、香澄さん。」

「ただいま、之人君。」


その言葉に、ここはもう私の家で、之人君は私を家族として見てくれてるんだな、と思った。

そして部屋まで送り届けてくれた。ここまで至れり尽くせり……と言う名の監視なのだろう。


「香澄さん、色々身支度とかあるだろうし、談話室で待ってるね。」


そう言って之人君は談話室へと歩いて行った。

確かに特に予定はない。借りた本もこれ以上読むつもりもない。談話室で会うことを決定的な言い方をしているあたり、何か大事な話があるのかもしれない。

そういえば、時間外の場合はシャワーのみ使えると言っていた。入浴許可はもらっているし、先程の之人君の言葉通り、とりあえず久しぶりのシャワーを浴びて着替えというか身支度を整えよう。

とりあえず洗顔とかタオルとかお風呂用の袋に詰め込む。服は……と考えたところで之人君の服装を思い出す。そういえば之人君はジャージじゃない、きれいめな私服を着ていたな。さすがにこのままジャージというのも、ということでさくっと着れるけど部屋着に見えないワンピースを選び袋に入れた。

貴重品を金庫に入れ、鍵を持つと、小走りでお風呂場へ向かった。道中会ったユキさんに、一応シャワーをする旨を伝えるとにこにこと笑って頷いていた。

之人君が待っていることをふまえて、手早くシャワーを済ませる。ちなみにその時下着を洗うことも忘れない。その後髪の毛乾かしたり、服を着替えたりして、急いで部屋に戻り荷解きする。こっそりと下着を干すことも忘れない。そして急いで談話室で待っているだろう之人君のところへ行った。そこそこ喉も渇いているので、之人君からもらったミルクティーを片手に持っていく。


「お……おまたせしました!」


そこには缶コーヒーを片手にまったりと本を読んでいた之人君がいて、私が現れたのを確認すると本を閉じた。

缶コーヒー、病室で紅茶は飲まないと言っていたけど、コーヒー派なんだ。と、どうでもいいことを思った。


「いや、そんな待ってないよ。ていうか、早くない?」

「待たせちゃ悪いなって思って。」

「退院した人ってみんなすぐお風呂行くから時間かかるのわかってたんだけど、言えば良かったね。」


一応さっきの言葉でお風呂行くのはわかってるんだろうなっていうのは察していた。ただ、待たせるのもやっぱり居心地悪いものである。それがたとえ私が誘ったわけではないとしても。

喉が渇く。私の喉が限界を迎えそうだったので、もらったミルクティーをがぶ飲みした。安定の大手メーカーなだけあって美味しい。


「あ、昨日の。」

「ごちそうさまです。私このシリーズの紅茶好き。」

「ストレートもレモンも?」

「うん。」


お茶っ葉の味が好きなのかな。ミルクティーもストレートもレモンも、どの味も好きで、その時の気分で選んで買う。


「自販機に三種類あって結構迷ったけど、そういえばミルクティー好きな子多いなって思い出してそれ選んだんだ。」


これを買うまでにそれなりに葛藤があったらしい。

そして好きな子というからには多分女の子なんだろうけど、女の子のことを把握してるのに少し驚いた。


「とにかく喜んでもらえて良かったよ。」


良い笑顔でそう言っていた。


とりあえず之人君の向かいの椅子に腰掛ける。ちょっとバタバタしていたから、ゆっくり腰を落ち着けたかった。


「あの日、」


さっきとは打って変わってとても真面目な顔つきで之人君は話し始めた。


「あの書庫で、燈織さんに何か言われた?」


急にそれまで忘れていた燈織さんの名前が出てきて驚いた。

あの時、しかもちょっとしか会ってない人である。


「燈織さんって、人当たり良いように見えるし、口がうまいから。奏季さんもそうだけど、本質が違うっていうか……燈織さんの場合、本心がわからないんだ。底が見えないって言うか、何考えてるかわかんない。あの時燈織さんに君を任せたけど、もしかしたら何かあったんじゃないかって思って。」


あの日ちょっと会話をした感じでは、正統派な良い人というイメージしかなかった。

ただ之人君からはそうは見えてないからこうして心配してくれてるのだろう。私よりも長い期間付き合っている之人君にしか見えない面があるのかもしれない。


「みんなに教えてもらったこととかの再確認みたいな内容だったよ。あと文化祭に奏季さんが行きたがってるとか、ほんとそんなかんじ。だから悪いことを言われたわけじゃないよ。」


一応燈織さんのイメージの払拭を図る。何か悪意を持って言われたわけではないのだ。

そんな私の意図が通じたのか、之人君はまだ腑に落ちないような顔をしていたが、わかった、とは言ってくれた。


「そうそう、文化祭だけど、一緒に行動することになるよ。」

「それ燈織さんも言ってた。色んな人がくるから、誰かつくことになるって。」

「聞いてたんだね。そういうこと。あと清田には翔華がつくんだって。」


一瞬同じ生徒会の夏南ちゃんがつくかと思ったけど、恐れ多くも今村さんがその役目をしてくれるらしい。

之人君もそうだけど、同じクラスというのが一番自然だからなんだろう。


「てか、このクラスは模擬店とか出さないんだね。」

「部活とか有志の方に力入れる子多いから、クラスではやらないことになったの。」

「なんか翔華が、そういうの参加すると企画とか生徒会とのやりとりがあって大変だったろうから助かったって言ってたよ。」


今村さんはクラス委員。当然やるとなったら大変だっただろう。しかも今私と志信という新参者が入ってきたタイミングだから、本当に目が血走るぐらいヤバいことになっていたと思う。そう考えると、今村さんの負担が少なくなって良かった。


「ただ生徒会の志信とか夏南ちゃんは大変なんだよね。」

「でもわかってあの二人は生徒会やってるんだろうし。」


そう言われるとなんとも言えない。私は曖昧に笑うしかできなかった。


「実はさ、ここも結構忙しい事態が起きてるんだ。」


それは私が原因不詳で眠ったことと関係があるのだろうか。そう問うと、そうじゃないよと返された。


「どうも裏切り者がいるみたいでね、それを泳がせて炙り出し中なんだよ。」

「えっ」


それはこんな所で聞いて良い話なのだろうか。


「俺けっこう耳良いからさ、周りに誰もいないのわかってて言ってるから大丈夫だよ。」


之人君の身体能力、高すぎると思う。

それに周りにいないとしても、それを私に話して良いかっていう疑問があるのだが。

というかむしろカマかけられてる?疑われてるの私?


「それはつまり、私が容疑者だってことかな。」


言ってから後悔する。これは直球すぎるし、そうだよ、なんて言われてもどうもできないじゃない。終わったな。

最後の手段でウイさんを呼ぼうとしたが、それは未遂に終わった。


「いや違う。でも君と清田はまだそんなに接触してないから、このまま教えずに少し手伝ってもらうことになりそうなんだ。」


違う人間ときいてちょっと一安心。

私たちがそんなに接触していない人間、ということは知ってはいるけどそんなに交流していない相手ということになる。

そしてその人を炙り出すために何も知らぬ存ぜぬでいてほしいと。

囮捜査にでも使われるのかしら。


「これは三樞と翔華が決めたことで、俺たちは拒否できないんだ。ごめん。」


それはそう。だって組織にとって上が決めたことは絶対だから。だから謝らなくていいのに。


「でも絶対守るから。」

「そっか……うん。期待してるね。」


いずれその時になったら指令が下るという。

これは私がその指令が下る前に足抜けすると、志信にだけ負担がいくのではないだろうか。そう考えると、今抜けるのは得策じゃない。だからもう少しここにいよう。


そうやって、ここにいる理由を作ってしまう私になんだか笑えた。


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