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22話

 

「そちが知りたがっていたから。」


 確かに私はなぜ敵対する一族が所有する土地に一人住んでいたのか気になっていた。

 そして快く受け入れられたのだとしたら自分ももしかして、とは思っていた。

 そういう事情を誰かに言った記憶は無い。


「何で知ってるの?」

「疑問が多いな……ああ、良い良い。かたくなるな。」


 不機嫌にさせたか、と身を固くした私に気が付いても、ひらひらと手を振って落ち着かせるその様は、本当に気にしていないようだった。


「こちはそちの中にいる。ゆえに繋がっているから分かるのだ。そちが見聞きし感じたものは全て共有される。」


 プライバシーなんてあったもんじゃない。これは恥ずかしいことも悪巧みもできないな、なんて思っていると、宮はずっと見ていたわけでは無いと言った。


「こちという精神体を維持するのに力を使うからな。まあ、うたた寝している時の方が多い。」


 それでもなのだが、まあ、とりあえず置いておく。


「貴方は、望んで社にいたわけではないし、無理やり力を使われていたんだね。」

「いかにも。」

「ウイさんに私は天の一族だって言われたんだけど、今親友と一緒に柱の一族でお世話になってて、できればこのまま柱の人たちといたい。その手がかりになるならと思って調べてたのだけど……」


 残念なことに参考にはならなかった。


「私って本当に天の一族?普通の人間の親から産まれてたけど。」

「そちの母の中にこちがいて陽の気の中そちは育ち、生まれる時にこちが同化したゆえに、陽の気のみを持って生まれ落ちた。ゆえにそちは天の一族なのだ。本来は天の一族は一族間でしか生まれないから、柱の一族が勘違いしたのだろう。見るものが見れば、陰陽どちらか判別つくものだがな。」


 その話ぶりだと、もともと母と宮は同化していたということか。だとしたら母ともこのように会話したのだろうか。


 そしてこの力は見るものが見るとわかるというが、つまり陽の気を持ってる天の一族だと一発でバレるということだ。


「柱の一族として生きていても、判別つけば正体が知られる可能性があるってことだよね。」

「それこそ中庸の存在を生み出す道具とされるやもしれぬ。」


 正体を明かそうが隠そうが、どのみち自分の意思なく子を産む運命から逃れられないらしい。

 聞けば聞くほど非人道的に感じる。現代の考え方ではない。ここだけ古代から変わっていないのだろうか。


「宮には悪いけど、今の柱の人たちは私好きなんだよね。」

「之人、だったか?楽しそうだったな。」

「え?うん。とても良い人で、よくしてもらっている。」


 修行以外の時も、何かと目をかけてくれる優しい人だ。


「……もし私が天の一族に行ったらどうなるの?」


 ウイさんにも怖くて聞けなかったことを、目の前の宮に聞く。

 会話したのは今回が初めてだけど、彼女は嘘を言わないと何故か確信していた。


「柱の一族を根絶やしにするのを見ていることになるのは確実だな。だがまあ、覚醒した折にそちも不老不死にも似た長寿となっているから、短命な種族たる柱に身を置いたとてこのままではいられぬ。」


 初耳だった。不老不死にも似た、ということは気の遠くなるような速度でゆるやかに老いてはいく存在になっていたらしい。以前話したウイさんの声は老人とはとてもいえない青年のそれだった。古代から生きている人の声がハリツヤあるものなのだから、人間から見ればその寿命は不死に近い。

 そのような存在なのだから、このままの環境でいられるはずもない。ひとところにいること叶わず、人の営みの中で定住することはもはやできないだろう。

 ということはつまり、柱の一族にこのままいたとして、仮に陽の気と判断されなかったとしても、この素性はばれるということ。


「選択肢なのに事実上一択だよ…。」


 選択肢といえば、あの追体験の最後で宮は究極の選択をしていたな、とふと思い出した。

 かつてヒナキという子との関係に絶望して、でも大好きだから恨めなくて、結果ヒナキと自分を精神体として一族から抜けた。

 抜けたって思ったけど、ウイさんは宮を感知しているようだし、宮は結局天の一族のままなのではないだろうか。ヒナキはどうなったのだろう。まだ精神体のままなのか。


「ねえ、ヒナキはどうなったの?貴方みたいに誰かの体の中で同居してるの?」

「……さあな。」


 とてもそっけない返事だった。さすがにこの話題は入り込みすぎたか、と反省した。


 かつてのヒナキが宮のことをどう思っていたかは分からないが、急にあんなことされたら普通恨むものだと思う。それは宮もわかっていたはず。それでもあのようなことをするとは、愛とは恐ろしいものだ。


「さて、もうひと眠りするとしよう。そちは戻るが良い。」


 その言葉が合図となり、私の世界はまたもや暗転した。












 規則正しい機械音が響いている。

 ゆっくりと目を開けると、まるで病院のような白い天井と、横にあるのは数字と英語が映し出されたモニター、そして私はどうやらベッドに寝かされているようだった。


 最後にいたあの紅葉だけが色を作る世界、あれは何だったのだろう。

 宮と初めて対面したけど、彼女は精神体だと言っていた。ということは、あれは私の精神の世界とかそういうものなのだろうか。


 色々考えている折、ふと腕に違和感を感じる。見ると点滴がされている。病院みたいなところで点滴をしていて、なんかモニターも動いている。

 事故にも重篤な病気にもなった記憶はない。はてどうしたものか、と首を捻っていると、がちゃりとドアが開いた音が聞こえる。ドアを開けてやってきたのは夏南ちゃんで、私が目を覚ましているのを確認すると目を大きく見開いた後にかがみ込んできた。


「香澄先輩!目が覚めたんですね!どこか痛いとか苦しいとかないですか!?」

「あ、うん。大丈夫。」


 その間にも夏南ちゃんは私の顔色や瞳や確認し、モニターの数値を確認すると、私の心臓の上で両手をかざす。その両手からは優しく淡い光が出る。何か能力を使っているのだろう。


「はい、オッケーです。」


 そう言って彼女は両手を下す。すると光は消え去った。


「数値も問題ない、顔色も自覚症状も悪くない、今中を探ってみましたけどこちらも異常はないです。」


「中を探った」と言われどきりとしたが、いつも通りの夏南ちゃんの様子にほっとした。ばれてはいないようだ。


「とりあえず翔華様に報告してくるので、少し待ってて下さいね。」


 にこりと笑って部屋を出た。

 少し待ってて、ということはここの近くに今村さんがいるのだろうか。それとも電話なりで連絡してくるから待っていてということなのか。

 あんな話をした後だ。柱の一族の人たちに会うことが少し怖い。

 そんな風に考えていると、案外早くに夏南ちゃんが戻って来た。


「翔華様今から向かうとのことです。」


 少しだけの猶予にもほっとしてしまう自分がいる。


「私、自分の部屋で寝ていたんだけど、ここどこ?」


 まずは何があったのか状況確認がしたい。

 訪ねると、夏南ちゃんは一拍老いた後に神妙な顔つきで話してくれた。

 修行から戻って来た志信が私の部屋を通った時にアラームが鳴っていてその時は何も思わなかったのだけど、その後で私にプリントを渡しに来たところまだアラームが鳴っていることに違和感を覚えドアをノックするも反応がないということで部屋に突入したところ、眠っている私を発見。しかし何度読んでも起きない私に違和感を覚え、今村さんに相談、そしてそこから夏南ちゃんに連絡がいき、治癒に特化した篠田家にあるこの部屋に運ばれたとのこと。

 夏南ちゃんの能力を使って原因を探ろうとするも、その力を跳ね返してしまうようで、詳細がわからないまま傍目には寝ているだけの状態が一週間ほど続いていたとのこと。


「え、じゃあ私って一週間寝てたってこと?」

「正確には一週間と二日です。」

「ちなみに今日は何日?」

「十月三十一日の月曜です。今月も終わりますね。」

「あ、うん、そうだね。」


 普通に世間話になってきたところで思いとどまる。

 わりと長期間寝ていたのはこの際おいておく。きっと宮が関係しているのだろうから。

 それよりも気にすべきなのは、今日が平日月曜で、普通に学校がある日ということ。


「あの、夏南ちゃん学校は?」

「秋穂先輩の治療を翔華様より仰せつかってるので、行ってないです。」


 単位は――と一瞬脳にちらついた。


「もしかして倒れた日からずっと?」

「はい。何があるかわかりませんから、最も得意とする私がずっと控えてました。」


 治癒能力に最も秀でている夏南ちゃんがこうして学校を休み、ただただ寝ているだけの私の傍にいたと。しかも当主の今村さんの命令で。

 確かに命令なら仕方がない。職務は全うしなくてはいけないから。

 でも一応夏南ちゃんも高校生なのだから、誰か他の人間をつけるように今村さんに言ってほしかった。

 そもそも私がこんなことにならなければ、そんな心配する必要もなかったのだけど。


「長い間学校休ませてごめん。」

「大丈夫ですよ。ここではこういうことが多いので、学校とのやりとりは基本今村がやるので心配いりません。もちろん、秋穂先輩のことも今村が処理してます。」


 と夏南ちゃんが言うので、これ以上言わないことにした。


「あれ、ということは、今村さん早退してこっちに向かってるの?」

「はい。」

「あー今村さんにも悪いことしたよー。」

「大丈夫ですよ、翔華様はあそこで学ぶべきものなど本来は無い方ですから。」


 学年一位の成績を常にキープしてきた今村さんは確かにそうなのかもしれない、とこちらは別の意味でこれ以上言わないことにした。


「第一発見者の志信にもお礼言わないと。」

「あの清瀬先輩が血相変えて翔華様のところに駆け込んだみたいです。奏季君も、何かと秋穂先輩のことを聞かれたみたいですよ。大事にされてますね。そのうちに声かけてあげて下さい。」

「うん。そうだね。」


 その後早退してここにやって来た今村さんも、ひどく心配してくれていたようで私と夏南ちゃんにあれこれ説明を求めた。

 と言っても寝ていた私に経過報告はできないので、ほとんど夏南ちゃんがしてくれたため、私からはほんの少しの自覚症状説明だった。

 私と最後に話したのが今村さんだったからか、責任を感じているようで謝られた。あの時何か気が付けば、と後悔しているらしい。

 今村さんが悪いわけじゃない。もしかそこに他の誰かがいたとしても同じ結果だった。だから気にする必要はない。むしろ、長い間寝こけて申し訳ないと謝るのは私の方なのである。

 報告を受けてすぐに今村さん本人が私を見てくれたみたいだけど、彼女の力を持ってしても何が原因なのか探れなかったらしい。夏南ちゃんと同じように、その能力が跳ね返されてしまったとのこと。


「でも秋穂先輩が起きたときは普通に能力使えましたよ。」


 こうなると、宮の力で跳ね返したのではないだろうか。

 だから宮が眠り、私が起きたときには夏南ちゃんの力を受け入れ、能力による内部の診察を受け入れられたのでは。


 夏南ちゃんの言葉を聞き、今村さんは右手を私の額に翳す。ほんのり温かく感じる。


「あ、ほんと。」


 今村さんも能力を使えたらしい。


「現状、どこか変わった様子が見られないね。」


 探れば探るほど、ただただ寝てた疑惑がみんなに広がっている気がする。色々と説明できないゆえに歯がゆい。


「うーん。香住、覚醒して能力扱えるようになったばかりだし、もしかしたら身体と気がうまく馴染めなくて眠りについちゃったのかもね。」

「確かに、香住先輩情人なら最低でも一週間かかるところを二日で習得ですもんね。」

「今のところそれが濃厚かな。上にはそんな感じで報告しとくよ。香住は念のため今日もここに泊まっていきな。」

「はい。」


 ということで、本日もう一泊することになりました。

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