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19話

 

 隣の椅子に腰を下ろした燈織さんを見てみる。良くも悪くもどこにでもいるような見た目だ。何も知らないまま会ったら、裏の仕事をしているなんて想像もつかない。


「聞いてるだろうけど、当主だと表立ってできないことをやるのが(くら)という一族。そしてその一族をまとめ、当主に付き従うのが俺なの。わりと勘違いしてる人多いんだけど、暗の一族自体が当主に従ってるわけじゃないんだ。当主から命を受けて、その重要度で一族の中で仕事を割り振ったりしてるのが俺で、企業でいう中間管理職みたいなものなんだ。」


 それでいうと、社長と部下というよりか、当主は取引先で暗はその下請け企業であり、取引先とのやりとりをする営業が燈織さん、ということだろうか。暗殺とか引き受けるあたり、わりと危険度が高い下請け企業ではあるが。


「反社会的とはちょっと違うんだけど、今村が相手にしている対象が全うじゃないから、まあこんな役割も必要になってくるわけ。」


 にこにことそう言ってのけるのだから、きっと燈織さんも全うじゃない。さすがに初対面の相手にそれは冗談にも取れないし失礼にあたるから言えないが。


「それはそうと、君の指導係として之人がついてるんだってね。」

「はい。よくしてもらってます。」

「覚醒も早かったって聞くよ。こうして見てみると力の流れがとても安定している。之人の教え方は確かに上手いけど、君の素質も良かったのだろうね。たった一日でこうもできるのは、そうそういないよ。」


 確かに之人君は先生として申し分ない。自分も褒められているのだが、先生である之人君が褒められたことの方がよっぽど嬉しい。

 生徒である私の成長度合いが先生たる之人君の評価にも繋がるなら、精進したい所存である。


「ありがとうございます。これからも頑張ります。」

「やり過ぎない程度にほどほどにね。」


 ふと、燈織さんの視線が私の膝に置かれた本に行く。


「その本、天の一族について調べてたの?」

「はい。他にも力を持つ一族について気になったので、之人君におすすめの本を選んでもらいました。」

「あの子読書家だもんね。之人が君のために選んだのなら間違いないだろう。」


 さっきから気になっていたのだが、燈織さんはとても年長者じみた言い回しをする。見たところそんなに年は離れていないはずだけども、実はというやつだろうか。まあ、今それを話題にできる私ではないので、そのうち之人君に聞いてみよう。

 そんな之人君は読書家らしい。やっぱりな、と言う感想である。


「あの社の存在も聞いたんだね。」


 社にいたという天の一族について書かれた本も持っていたからだろう。少しピンポイントすぎる興味だろうか。


「奏季さんに教えてもらいました。ずっと前に天の一族の方がそこにいて、亡くなってもなお力は残り、それを封印し続けてるって。」


 そういう話を聞いたからなんとなくついでに調べてみたいのだというニュアンスで答える。


「そうだね。結構封印するのも大変で、奏季がぼやいてたよ。ただ三樞はあの力がいつかは使えるかもしれないから、封印できるうちは封印するって考えみたいだね。そんな日くるのかなって思うけど。ああ、この話上の人たちには内緒だよ。」


 結構言うなぁと思って聞いていたら、案の定アウトな話らしい。上というのは、燈織さんから見て上の存在ということだろうか?そうなると、とりあえず今村さんと三樞にはだめってことだろう。

 そもそもここの人たちは天の一族についてよくは思っていないのだから、関連事項は話題にしない方が吉で、聞かれたら答えるぐらいに留めておくのが良いのかもしれない。


「まあでも、君は知っておくべきだよ。」


 変わらない声音なのに、何となく含みを感じる。私が、天の一族ということを知ってるのだろうか?

 冷たい塊を飲み込んだかのように、体が一気に冷え込み、うまく口が回らない。


「さて、そろそろ送ってくよ。本はそれだけでいいの?」

「あ、はい。」


 先程の空気が一変する。この人には底知れない何かを感じる。さすが当主直属といったところか。


「重いでしょう、部屋まで持ってくよ。」

「いえ、さすがにそれは悪いので……」

「いいのいいの。君の時間もらっちゃったし、お兄さんが迷惑料ってことで持つよ。」


 まさかのお兄さん呼びにびっくりしてつい本を渡してしまった。

 その笑顔とお兄さん呼びは、奏季さんとはまた違ったタイプで正統派な感じでいいと思います。


「さて、行こうか。」

「はい。お願いします。」


 いつの間にか先立って歩き扉を自然な動作で開けて待っててくれる。とてもジェントルマン。之人君もそうだけど、この人もそうなのか。こんな純和風の家なのに、英国の風を感じる。

 恋愛経験値がとても低い私にはなかなかハードルが高いお宅である。


「そう言えば秋穂ちゃんと一緒にきた、今奏季預かりになってる志信って子、幼馴染なんだってね。」

「はい。」

「ごめんね、こんなわけわかんない状況下なのに、一緒にいさせてあげれなくて。」

「あ、いいえ、大丈夫です。」


 成長度合いも違うし、マンツーマンで教えるとなるとこうなってしまうのは仕方がない。社交辞令でもなく本音である。


「あ、もうちょっとで学園祭があるんだって?」

「……あ。」


 すっかり忘れていた。

 昨日の事件うんぬんではなく、本当に単純に忘れていた。

 それぞれのクラスや部活や有志で催しをするのだが、うちのクラスからは特に何も出さないことになった。部活の方をメインにしたい子や有志で出し物を頑張りたい子が多いのと、どっちでも良いよという意見が見受けられたためこうなった。そうなるとほとんど活動をしてない部活に所属し、有志でも参加しない私なので、すっかり忘れてしまったというわけだ。当日はお客さんとして楽しみたいと思います。


「夏南ちゃん生徒会だからわりと忙しいみたい。」


 そう言えば、夏南ちゃんと志信は生徒会だった。それは確かに忙しいだろう。


「ちなみに奏季も行きたいって言って、君の幼馴染がすごく冷たい目で見てたって当主が言ってたよ。」


 見なくてもその場が手にとるようにわかる。志信のあの絶対零度の眼差しを引き出せるのは、現時点でおいて奏季さんが間違いなくナンバーワンだろう。


「ああいう人が集まる場所って色んなのがやってくるから、当日は誰かしら就くことになると思うけど、楽しめる時に楽しんでおきなよ。」

「……色んなのですか?」

「そう、色んなの。まあ覚醒して間もないだろうから、対処はこちら側でやるんだけど、とりあえず個人行動は避けてもらいたいかな。おいおい当主から説明が行くと思うよ。」

「わかりました。」


 確かに、学園祭は外部の人も招くから、色んな人が入りやすい状況ではある。怖いのは嫌だし、何かあるとわかっていて個人行動なんて絶対にしない。


 そんな話をしていると、自分にあてがわれた部屋の前に着いた。話しながらだったけど、多分次からは一人で行き帰りができると思う。

 そう話すと、燈織さんは「無理なら之人を使えばいいんだよ」とさらりと言った。そう何度もお願いするのは気がひける。


「之人夜ご飯前には解放されると思うから、それまでゆっくり読書できるはずだよ。それじゃあ」


 本を渡すと、燈織さんは廊下の奥へと消えて行った。


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