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16話

 

 太古から続く(あめ)の一族。私はその一族らしい。

 そうは言っても、ごく一般の会社員の父をもち、祖父母もいたって普通、亡くなった母の家系も何か曰くがあったりとかそういうわけではない。

 にわかに信じがたい。


「さきほどお伝えした通り、我々は念話が使えます。秋穂様、覚えがあるのではありませんか?頭に、ある同じ声が聞こえていたのでは?」


 今村一族でも話題になったし、今調べてもらっているあの声。

 あれを念話というのだろうか。


「あの声こそが天の一族の始祖たる(みや)様であり、宮様の声が聞こえる事こそまさに一族である証なのです。」


 つまり私は天の一族でありながら、柱の一族にいるという現状。これってどうなんだろう。そして天と柱の一族の関係性ってどうなんだろう。

 今村さんからは、天の一族はおろかそもそも柱の一族って説明を受けていない。

 いずれ話そうと思っていたのか、それとも隠そうとしていたのか。


「あの、天の一族と柱の一族って、それぞれ力を持ってますけど、一緒に妖と戦ったりするんですか?」

「いいえ。柱の一族は人に仇なす妖を探し屠り、その血を集めています。そのため戦う理由があるのでしょう。しかし我々は、妖と遭遇した場合には戦うこともありますが、それだけです。血を欲するわけでもない。妖に対する考え方が違うので、共に戦うことはないです。」


 淡々とした口調での説明だった。


「なるほど。柱の一族が妖の血を欲するのはなぜですか?」

「その血を能力者に飲ませるためです。適切な時に適切な量の血を摂取した場合、さらにその力は強くなります。ただ個人差があるので、不適切な血の摂取をした場合、その者は妖となります。」


 つまり、この間襲ってきた妖は、良くないタイミングか不適切な量か、あるいはどちらもなのか、妖の血を摂取してしまったかつての人間ということなのだろう。

 たしかに人型ではあったけど、妖という人ではない存在と認識していたために、過去は人間として生きていた存在と事実に動揺してしまう。


「柱の一族の人たちが妖の血を与えて、不適合だった人たちが妖になるってことですか?それって、柱の一族が妖を生み出してるみたいじゃないですか?」

「戦闘の際、傷口に血が入り不可抗力で妖に至る場合もあるようです。しかし経口摂取による血での妖化が大多数なので、秋穂様のおっしゃるとおり柱の一族が生み出していると言っても過言ではありません。」


 妖が人を襲うから強くなりたいのか、それとも強さを求めた結果妖が生まれたのか、始まりはどうだったのかはわからないけど、悪循環に思えてならない。

 今村さんたちはこのことを知ってるのだろうか。

 知っていて身を投じているのだろうか。


「そういえば、天の一族はなぜ妖の血を欲しないのですか?」

「我々は一度宮様の血を分け与えられ、力が覚醒します。代わりのきく妖の血とは違い、宮様の血は唯一無二の血であり、その力は別次元のものなのです。仮に妖の血を我らが摂取したとしても、宮様の血が勝るので妖に成り下がることはありえないので、我々は妖を必要としないのです。」


 今までの話からすると、このまま今村一族に連なることを考えると身の危険を感じる。

 かと言って屋敷の外で暮らしていくのも不安しかない。

 そして今知ったばかりの天の一族は得体が知れないし、助けを求める気にならない。


 どうするのが一番良い方法なのか分からない。


「ウイさんはこの話をするためだけに私に会いにきたんですか?」

「秋穂様次第です。望むならばすぐにでも我々一族のもとにお連れするようにと。ただここで決断できないのであれば考える時間を与えるようにと仰せつかってます。」

「それは宮様?に言われたんですか?」

「いいえ、ナリ様とマヤ様です。」


 新しい人物がまた出てきた。

 曰く、双子であり兄がナリ様で妹がマヤ様。今の天の一族を二人で束ねているとのこと。

 柱の一族でいう今村さんみたいなポジションなんだろう。


「では私はそろそろ戻ります。我々は秋穂様に手荒な真似をしたくはないのです。ですので、お早く我らが一族のもとに来てくださることを望んでます。」

「……それって若干脅迫じゃないですか。」

「天の一族は少人数なのでみな仲間意識が強いのです。今回お会いしたことで秋穂様と私の中で念話が使えるようになりました。意思が固まりましたら強く念じてください。もちろんそうでなくともお呼びください。それと、今しばらく柱の一族と共にいるのでしたら、この話はしない方が賢明です。」


 それでは、と言って大きく羽ばたくと、ウイさんは舞い上がり青空の彼方へと消えていった。


 とても暗い話だ。しかも天の一族に早く来いと催促もとい脅迫を受けてしまった。

 直接言葉にしてはいないけど、天の一族は柱の一族に良い感情を持っていないようである。

 そういうのが透けて見えるので、自分が天の一族だとか、聞こえてる声は天の一族の始祖なんて今村さんたちに言うのも憚れる。敵認定されたら怖い。


(もうほんと、どうしたら良いの……)


 そんな話を聞いた後で今村邸に帰るなんて、わりと怖かったりする。

 怖いけど、他に帰る場所もない。


(それに、志信もいる。)


 大切な幼馴染を置いていくことはできない。


(帰ろう。)


 もと来た道を歩く。

 来た時とは違ってとても気が重いし、足取りも重い。

 気分は行きよりも帰りの方がどんよりしてる。秋晴れの清々しいこの青空も真っ青になるくらい、それはもうどんよりしてる。

 真っ青というか、お先真っ暗である。


(私って何なんだろう……)


 それなりの距離を歩いたので、森を出て壁沿いの砂利道に戻っていた。

 とぼとぼ歩いていると、前方にここ数日で幼馴染レベルで行動を共にする存在が見えた。


「香住さん」


 朝見たあの黒いジャージ姿のままの之人君だった。

 朝食の後でみんなと別れたけど、あれからそこそこ時間が経っている。之人君は、休日はラフな服装派なのかもしれない、なんてつらつら考えていると、あと何歩かという距離感のところに之人君が立っていた。


「之人君、どうしたの?」

「出かけてて帰ってきたらちょうど香住さんが見えたから声かけてみた。」

「あ、そうなんだ。」


 とりあえず並んで帰ることになった。

 散歩しようと思って森まで行ってきた旨を話す。もちろんずっと奥にあるだろう社なんて探してすらいないことも。

 そして当然のことながら、ウイさん関連の話は伏せる。


「森って凄い広いよね。奥にあるっていう社なんて探そうとすら思わなかったよ。」

「ははっ。そっか。」

「ちなみに之人君はどこに行ってたの?」

「奏季さんが志信のことで動けないから、ちょっとした仕事。」


 奏季さんができないため、之人君がしなければいけなかったという仕事。おそらくは狩人関連なのだろう。

 ちょっとした と言って内容については掘り下げて話してこなかったため、これ以上は聞かないでおくにかぎる。


「奏季さん、清田の家に清田を迎えに行ったみたいで、昼にはこっちに帰ってくるみたいだよ。」

「そっか。」

「あとお昼食べた後は、稽古つけるって奏季さん言ってたな。平日だと学校もあってなかなか時間取れないから、休日は貴重だしさ。」

「それじゃあ私たちも稽古するの?」

「うーん……」


 之人君は顎に手を当て少し考えた素振りを見せた後、ちらりとこちらを見下ろす。


「上からさ香澄さんの今後についての指示がとくに無いんだよね。まあ、覚醒はしてるしコントロールもそこそこ出来てるから、修行はいったん保留かな。」


 私が何かしらの干渉を受けていて、それがどういった類のものなのか、という具体的なことが分からない限りは指示が出せないんだろうな、なんて考える。


「じゃあ指示があるまでは修行がないって考えてて大丈夫?」

「そうだね。」

「それなら午後から宿題しようかな。」

「あ、俺も一緒にいい?こっち来たばっかで、教科書も前のところと違うし、教えてほしいんだよね。」


 思うに、之人君は私の指南役兼監視役なんだろう。だからこそ、特に用事がない限り行動を共にするのではないだろうか。今のところ、力を持つ者と思われているからこうやって優遇してもらっているけど、実際には天の一族でありその力なのだと発覚したら……。いまいち、天の一族と今村一族の関係性が分からないし、慎重に考えなくてはいけない。志信のことも考えないといけないけど、場合によっては身の振り方を考えなくてはいけない。


「あ、一人で勉強したいタイプ?」


 なかなか返事をしない私を心配してか、そう提案してくれる。


「そんなことはないよ。私でわかるところなら教えるし、一緒に宿題しようか。」

「ありがとう。」


 そう言って之人君は綺麗に笑う。

 日が浅いこともあって、之人君は私に対して丁寧に接してくれるし、負の感情をぶつけることもない。

 この笑顔が消える関係にはなりたくないな、とぼんやり考えながら今村邸の門をくぐった。


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