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14話

 

 目覚ましのおかげなのか、環境が変わったからなのか、予定の時間に起きることができた私は、ただいま備え付けの洗面台にて歯磨き中。ご飯食べてからもするけど、寝起きって何だか口の中が変な感じがするから磨いちゃう。前髪だけ濡らして一応全体的に櫛で梳かして、一つに括る。そして動きやすい格好と言われたのでジャージを着用。

 そうこうしているとなかなか良い時間になったので、部屋を出た。


「おはよう、香澄さん。」


 黒いジャージを着た之人君がいた。


「おまたせ、之人君。」

「いや今来たところ。行こうか。」


 促されるままに肩を並べて歩く。

 こんなに朝早く起きたのは何年ぶりだろう。季節柄まだ肌寒いけど、空気が澄んでいてとても清々しく感じる。


「清田は道場でやるみたいだから、念のため俺たちは違うところでやろうと思ってる。」


 志信には私が覚醒したとは言えないし、見えないところで違う訓練をするということで、道場とは正反対のところに向かっているとのこと。

 なんかさ、こういうお屋敷って馴染みのない造りだからみんな同じ部屋に見えるし、廊下も同じところをぐるぐる歩いてるみたい。

 びっくりするほど道順覚えられない。そういうと、之人くんは苦笑いしながら行き帰り一緒だから安心してと言ってくれた。

 つまり明日も早朝からお迎えしてくれるということですね、ありがとうございます。


「ところで、香住さんって何か部活とか入ってる?」

「家庭科部。部活が強制だからとりあえず入ったの。」

「インドアだから?」

「そう。」


 運動部に入る体力も気力も無い。そもそも部活にすら入ることをしようと思わなかったのに、入らざるを得なかったから加入した。とりあえず籍を置いてる幽霊部員がほとんどだから実際顔を出すのは十数人。そんな人たちと、週に一回の活動でお菓子を作ったりするのはなかなか楽しかった。

 今の会話で之人君も分かったと思うけど、部活ですら運動をしてない。そういった体を動かすことに携わるのは授業でのみ。運動音痴もここに極まれり、といったところだろう。


「っていうか、もしかして部活強制って知らなかった?」

「まだ言われてなかった。明後日にでも説明されると思うよ。」


 今日は土曜日。学校が始まるのは、明後日の月曜日からなのだ。


「前の学校は何部に入ってたの?」

「帰宅部。」

「宮野森にはないんだよねー」


 他にも色々つらつらと話しながら歩いていたのだが、やっと目的の場所に着いたらしく、一つの部屋の前で止まった。

 見た目何の変哲もない、普通の和室である。

 他の部屋と変わらなく感じるので、わざわざこんな遠いところじゃなくてもと一瞬思ったけど、私が分かってないだけで何か違いがあるし理由もあるのだろう。


「はい、到着。ここでやるよ、入って。」


 入ってみると、そんなに大きくはない和室だった。

 そして之人君が部屋の中央で正座をし、同じように向かいに座るよう言うので、言われるがままに動く。


「まずは説明だな。今君は自分の力孔を閉じることができず、力はだだ漏れ状態。力は有限だからガス欠になって衰弱してくし、最悪命を落とすケースもある。」


 えっそんなこと昨日言われませんでしたけど、命の危機ですけど。


「それを避けるために、昨日から俺の力を君の力孔に流して、君の力が外に出ることを防いでるってわけです。」

「昨日から?今までずっとってこと?」

「そう。」


 昨夜だけの話かと思ったら、なんと今に至るまでずっと力を注いでくれてるとのこと。

 それってどうなの?寝てる間もやってくれてたってことでしょ、何それ。常時力を使ってるってことだよね、規格外すぎる。


「なんか……ごめん。私の先生になったばっかりに。」

「謝らなくていいよ。俺にとって疲れることじゃないし。」


 私の先生、とっても優しい。


「とは言っても、力技で応急処置だからさ。やっぱり香澄さんに頑張ってもらいたいわけ。」

「うん、頑張る!」


 これ以上先生の負担にならないためにも、そして自分のためにもやるしかないでしょ。


「じゃあ、はい。」


 之人君はそういうと、両掌を私に差し出してきた。


「上に手を重ねて。で、俺がもっと力を強く注ぐから、外部からの力を遮断するイメージで力孔を閉じてみて。」


 頭より体で覚えろスタンスらしい。

 言われるがままに手を重ねると、今まで何ともなかったのに、急に身体中が痛くなる。立てないほどの激痛ではなく、地味な痛さ。細い棒のようなものに刺されるような、そしてその場所が妙に熱い。これが之人君の注ぐ力なのだろう。


 これを遮断するイメージはできるけど、そこからが多分うまくいってない。そもそも力の使い方が分かってないから、閉じるも何もない気がする。

 諦めモードに突入するところで、なんだか痛みがだんだんと強くなってきた。座ってはいられるけど、苦痛に顔が歪んでいくのがわかる。額に汗が浮かぶのも感じる。

 とってもきつい。それでもどうもできない。



 ーーできぬのか。

 ーー魂の記憶を消した代償か、愚かなり。



 またあの女の人の声がする。

 私に会話する力はなく、あの声が独り言のように脳内でこだまする。



 ーーこちがひとつ、解放してやろう



 その瞬間、何かが弾け飛んだ感覚を覚える。そして私はこんな簡単なことなぜできなかったのか、と思うほどに唐突に力孔の閉じ方を理解した。というか、その感覚を思い出した。

 その通りに外部からの力を遮断するように閉じていく。

 さきほどの痛みも熱さも感じない。


 そして女の人の声も聞こえなくなった。


「凄いよ香澄さん、完璧。」


 さっきまで意識外だった之人君の存在が急激に思い出される。

 完璧、ということはうまくいったのだろう。


「君の力も今までで一番安定しているし、何も言うことはないよ。なんか、急にスイッチが入ったね。」

「そのことなんだけど……また同じ女の人の声があったの。解放してやろうって。だからなのかな?」

「それは……他に何か言ってた?」

「魂の記憶を消した代償かって。」


 そう言うと、之人君は少し考え込んだ後とても真剣な顔をして重ねている私の手をぎゅっと握った。


「何か思い当たることある?」

「ないよ。」


 断言する。何もない。

 むしろ何もなくて分からなすぎるくらい。


「……頭悩ませるようなことばっかりでごめん。」

「謝る必要はないよ。これも含めて後で翔華に報告だな。」


 報告多すぎてすみません。でもこれ不可抗力なの。

 私がだんまりとなっていたため、元気づけるように之人君はさっきの真剣な顔を一変させ柔らかい笑顔を見せた。


「さて、そろそろ良い時間だし朝食食べに行こうか。」


 その言葉と共に少し強く握られていた手が離される。

 それが少し物足りなく感じたのはきっと先程の会話からくる不安なのだろうと考え、之人君と共に部屋を後にした。


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