アルパカの夢
「やーいやーい」
「あるぱーかあるぱーか」
きゅうりとニンジンのたくさん入ったビニル袋を見せつけられて、僕は馬鹿にされています。
こんな奴らから野菜を買うことなんてないのに。僕は強く思いましたが。
『君はね。野菜を買わないといけないよ』
亡き母の声を思い出します。
町内会から村八分のようにされ、それでも僕は野菜を買わないとお家に帰れない。
そういうルールなのです。世界の。仕方ないのです。
おばあちゃんも待っています。たぶん。知らんけど。
「お前なんかなー」「どうしてやろうか」
道端の端に追い詰められます。
怖い。またやられる。
「あいつらみんな勝手に死んだ」「いい気味だ」
お前ら町内会が追い詰めたからだろう! みんな殺されたんだ! 僕は怒りでおかしくなりそうでした。
しかし僕にはやり返す力もない。野菜は買わないといけない。
「なんでお前だけ生きてるんだ」「こいつもやっちゃおうか」
「「そうしよう」」
きゅうりとニンジン、そしてなぜかタマネギも投げつけられます。
僕は悔し涙を流しながら、お代の小銭と、アルパカの絵をせめてもの抵抗で投げつけ返しました。これが僕のすべてだ!
投げつけられたきゅうりとニンジンを一つずつ拾い上げ、汚れたそいつらを抱えて、逃げるようにして自宅の前へ。
しかしまだ終わりません。二人は追いかけてきます。
「どこへ行くんだー」「あるぱーか」
来るな。お家へ帰るんだ。安心の場所へ!
願いは叶いませんでした。玄関の前に先回りされてしまいます。
「帰るのかよ」「逃げるのかよー」
うるさい。やめろ。どいてくれ。
お前たちに家に入れるかどうかなんて、試す資格なんかないんだ。
ここに野菜があるんだ。帰してくれ!
願い空しく、無理に腕を掴まれ、どこかに連れていかれようとしたときでした。
突然飽きたのか、何かの時間が来てしまったのか。なぜか二人は、ふらふらと僕から離れていきました。
お家への道は、もう誰にも邪魔されていません。
ほうぼうのていで、僕は家に滑り込みました。
おばあちゃんは、やっぱりどこにもいませんでした。
僕だけです。そもそも僕だけでした。
疲れ切った僕は、とりあえずきゅうりとニンジンを握りしめながら、ソファにかけます。アルパカもいます。
テレビを付けました。ぼーっと眺めていると、
「では次のニュースです。お 前 は 本 当 に そ こ に い る の か?」
アルパカが消えました。
さっき投げつけた絵も、きっと消しゴムで塗りつぶしたように、なかったことにされました。
それはいい。また描けばいいのですから。
でも。
手元から、手に入れたはずのきゅうりとニンジンも消えてしまいました。
僕は頭を抱えました。
ああ。僕は許されざる禁忌を犯した。
あいつら、幻の野菜を売っていたのです。
僕は、本当は野菜を買っていないのに、お家に帰ってきてはいけないのに、帰ってきてしまったのです。
世界が、ガラガラと音を立てて崩れました。
暗闇の中で、僕は誰にも認識すらされずに、このまま消えていくのかもしれませんでした。
でも悔しかった。裏切ったのはあいつらだ。
殺してやる。あいつらみんな殺してやる!
僕は涙を流しながら、拳を固く握りしめて、心の底から強く思いました。
殺してやる!
改めて心の内で叫んだとき、暗闇の世界がパズルピースがほどけるように壊れていき、気付けば僕は家の前に立っていまいた。
本当に僕はこれから奴らを殺しにいくのでしょうか。決心と良心がぶつかり合い、そして――。