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04. 薬草を摘みに(1)

 受けている依頼は初級ポーションをニ十個。

 それ以外にもおばあちゃんが体調を崩してから閉めっぱなしの店に並べる商品も作らなきゃいけないし、新しい商品を取り扱うための調合練習もしなくちゃならない。

 というわけで、


「私は薬草を摘むために森に行くけど、二人はどうする?」


 朝食をとりながら二人にそう尋ねると、ユユちゃんが「うちも行きたい!」と手を挙げた。

 ルディもユユちゃんも、昨日買ったスカーフを首に巻いてくれている。もちろん私も。

 でもお揃いのものを身につける意味を聞いてしまったせいで、スカーフに目を向けるたび少し照れくさい気持ちになる。


 ユユちゃんをちらっと見たルディが、うーんと唸りながら首をひねった。


「今日は仕事探しに行こかなって思うてたんやけど、二人が森に行くならオレも行こかなあ」

「仕事?」

「あーやんに世話になりっぱなしってわけにもいかんし、オレとユユの食い扶持くらいは自分で稼がんとな」

「そんなの、気にしなくてもいいよ」

「ええわけあるかい。でも二人が森に行くならオレも行くわ。あーやんはいつもどのへんで薬草探してるん?」

「森の入口をうろうろするだけだよ。少ないけど、探せば生えてるから」


 私は見たことがないけれど、森には魔物と呼ばれる生き物が出るから奥には行かないようにって、小さい頃からおばあちゃんに聞かされてきた。

 だから町に近い森の入口までしか入ったことはない。頻繁に薬草を摘んでいるから、私が小さい頃に比べて見つかりづらくなってるんだけど。


 ルディとユユちゃんが顔を見合わせる。


「ちょっと入ったとこにな、薬草がいっぱい生えとる場所があるんや。薬草摘むならそこ行かへん?」

「えっでも、魔物が出たらどうするの?」


 ずっと森で暮らしてきた二人は、もしかして魔物と戦えるんだろうか?

 そう期待した私に、二人は笑顔で同時に答えた。


「怖いから逃げる!」


 ……不安だなあ。


「うーん……」


 迷ったけれど、二人の言う場所に案内してもらうことにした。

 魔物は怖いし、小さい頃からの言いつけを破るのは後ろめたい。

 でも薬草がたくさん生えている場所の存在はすごく魅力的だ。だって森の入口でしか摘めないままだと、いつか十分な薬草を集められなくなる可能性があるから。

 薬師として生きていくには、材料の安定的な確保は絶対条件だ。

 それに森に住んでいた二人に案内してもらえるなら、安全に摘みに行けるかもしれないと思って。


 でも――二人の感覚は私とは全然違うんだって、すぐに思い知らされることになった。



   ◇



 二人にはまた狼の姿になってもらって一緒に町を出た。そこまではよかったんだけど、


「えっ、そっち!?」


 森に入って早々に、二人は道からそれた。

 人の腰あたりまである高い茂みを抜けて、橋のかかっていない小川を越え、苔が本来の色を覆い隠した大きな岩の向こうへ。踏み固められていない地面は落ち葉や小枝でふわふわしていて、滑りやすい。

 二人は四つ足でひょいひょい進んでいくけれど、私はそうはいかない。ついていくのが大変で、息が切れる。

 ぜえぜえと息を吐いていると二人とも気遣ってはくれたけど、道はなかなか険しかった。


 でも幸い魔物には出くわさずにすんだ。

 ルディもユユちゃんも、時折耳をピクリと動かしたり周囲の匂いをかいだりして進む方向を変えていたから、魔物に会わないようにうまく避けてくれたんだと思う。


 二人について歩くのは大変だったけれど、案内してもらえた場所には本当にたくさんの薬草が生えていた。


「すごい、こんなに……!」


 開けた場所に薬草が群生している。これだけあれば初級ポーションはいくつ作れるんだろう?

 しゃがんで眺めてみると、かじられた葉もあった。ルディたちは怪我をしたときはここにある薬草を使っていたのかな?


 何度もここに来るのは大変だし、籠いっぱいに詰めて帰ろう。

 持ってきた籠を地面に下ろし、薬草に手を伸ばす。できるだけ質のいいやつを選んで採りたいけれど、見分けるのは難しい。


「うーん、これかなあ……」


 一つの葉に手を伸ばしたら、ルディが私の腕の裾をくわえて引っ張った。


「え? 何?」

「ガウッ」


 私の腕を引いて、私が摘もうとしていた薬草とは別の株を示した。


「……こっち?」

「わふっ」


 何度も頷くルディ。ルディに示された葉を試しに摘んでみる。違いはほんの少しだけど、緑が濃くて葉が生き生きして見える……ような気がする。

 商業ギルドでルディに薬草の匂いをかがせてみたのはただの思いつきだったんだけど、もしかして匂いで質の良さがわかるのかな?


「キャーウ?」

「ガウ」


 ユユちゃんとルディが何か話している。内容はさっぱりわからなかったけれど、ユユちゃんも足元の薬草の匂いをかぎ始めたから、匂いの違いでも話していたんだろうか?


「キャウッ!」


 ユユちゃんが私を見て声を上げる。尻尾がぱたぱた揺れているのは、いいのを見つけてくれたってことかな?

 薬草を踏まないように気をつけながら移動して、ユユちゃんが鼻先で示してくれたものを摘む。

 たくさん太陽の光を浴びて育ったんだろうなと想像できるような、力強い葉だ。


「ありがとう、いいのを探してくれたんだよね」

「キュ!」


 ユユちゃんが得意げに鼻先を持ち上げて、尻尾をぶんぶん振っている。ふわふわの毛をなでると、ユユちゃんは私に体を寄せてきた。あったかくて、ちょっとくすぐったい。

 ルディが私たちをじっと見つめていることに気がついて、そちらに目を向ける。


「ルディもありがとう」

「わふっ」


 やわらかい声で吠えたルディが、尻尾を一度だけぱたんと揺らした。

 狼だって聞いたけれど、二人とも可愛くて、やっぱり犬にしか見えないなあ。


 二人が選んでくれた薬草を摘んでいると、持ってきたかごはすぐにいっぱいになった。中級ポーションの材料になる青い木の実も見つかったし、一回の採集でこれだけ得られれば大収穫だ。

 依頼の初級ポーションを作るだけじゃなくて、中級ポーションの調合練習もできるかも。


「ルディもユユちゃんもありがとう。これだけあれば十分だから、今日はそろそろ帰ろっか」


 そう、二人に声をかけた時だった。

 二人が同時に耳をぴくりと動かして空を見上げる。つられて顔を上げたら、空高くに黒い鳥が飛んでいるのが見えた。


「ガウッ!」


 ルディが短く吠えた途端、二人がぱっと身を翻して走り出した。

 ユユちゃんはまたたく間に茂みに飛び込んで姿が見えなくなる。ルディはユユちゃんが飛び込んだ茂みの前で立ち止まってこちらを振り返った。


「えっ、まっ、待って」


 二人とも速い。慌てて追いかける。

 でも私が走り出す頃には大きな羽音が真上に迫っていた。


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