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【完結】町の薬師ですが、獣人(わんこ)兄妹を拾ったので、家族になりました  作者: 夏まつり@「私の推しは魔王パパ」発売中


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02. 眠れぬ夜は、毛皮を抱いて(1)

 人間が犬に化ける。

 目の前で起きた光景を受け入れられなかった私は――現実逃避をすることにした。

 よし、三人順番に湯浴みをしよう。まだ明るいこの時間なら水浴びでもよかったけれど、混乱した頭には温かさが必要だ。そんな気がする。


「温かい水なんか浴びたら、オレら、スープの具になってしまわへん!?」

「い、嫌やっ! 温かい水怖い!」

「大丈夫だから頭と体を洗って!」


 という押し問答はあったけれど、二人も浴室で体を洗ってくれた。

 湯浴みを終えると、汚れと一緒に別の何かも洗い落とせたようで、なんだか久しぶりにちゃんと呼吸ができた気がする。


 次は今度こそ現実と向かい合う――のではなく、もう一度別の現実逃避を選んだ。

 考えなきゃいけないことの全てを棚上げして、仕事をしよう。納期が明日に迫ってるんだから。


「あーやんはここで仕事すんの?」


 作業場までついてきたユユちゃんが、キョロキョロと室内を見渡している。

 小さな引き出しがたくさんついた棚や、蒸留用の器具、商品を詰めるためのガラスの器、どれも森で暮らしていたユユちゃんには見慣れないものばかりなんだろう。


「そうだよ。落とすと割れるものがたくさんあるから、勝手に触らないでね」

「うん」


 湯浴みをしてきれいになったユユちゃんの髪はすごく柔らかくて、ユユちゃんが近くに来るとつい頭をなでてしまう。ふわふわした髪の感触が気持ちいい。

 頭をなでると、ユユちゃんは毎回くすぐったそうに顔をほころばせる。へにゃっと笑う表情がすごく可愛い。


「あーやん、オレも入っていい?」


 ルディと名乗った男の人は、廊下から部屋の中に顔だけ入れて、やっぱりキョロキョロとしている。ルディの髪もユユちゃんみたいにふわふわなのかは気になるけれど、さすがに男の人の髪に触る勇気はない。

 名前がわからないと不便だから、お互いに名前だけの自己紹介を終えた。でもなぜか二人とも私のことを「あーやん」と呼ぶ。

 一文字多いよと指摘はしたけれど、直らない。言いづらいのかな。


「入っていいよ。でも、置いてある物には不用意に触らないでね」

「うん。あーやんは何の仕事をするん?」

「薬師だよ」

「?」


 ルディとユユちゃんが揃って首を傾げる。さすが兄妹、タイミングも角度も一緒だ。


「簡単に言うと、薬草類を組み合わせていろんな薬を作る人のこと」


 といっても私は薬師の免許をとったばかりだから、初級ポーションしか販売できないんだけど。

 薬師が新しい商品を取り扱うためには、その商品を定められた数かつ一定品質以上で作って、免許を取らなきゃいけない。

 薬は作り方を間違えると毒にもなりかねないから、勝手には販売できないようになっているのだ。


「薬草って、怪我したときに貼るやつやろ? そのまま使(つこ)たらあかんの?」

「そのままだと効果が薄いし傷しか治せないから、煮詰めたり組み合わせたりして、効果の高い薬や違う効果の薬を作るんだよ」

「へー!」


 ユユちゃんが目をキラキラさせて私を見上げてくる。

 すごく尊敬してもらえた気がするけれど、私はまだ一種類しか販売許可を受けていない駆け出しの身だ。ユユちゃんの視線はちょっと眩しすぎる。


「作るとこ見たい! なあ、()よ作ってや」

「うん、ちょっと待ってね」


 蒸留器具に、水と、刻んで計量した薬草を入れる。しばらく水をやっていなかった薬草はしなびてしまったけれど、使えないほどじゃない。

 新しく薬草を採りに行く時間はないから、今回はもうこれでいこう。

 器具に小さな火を(とも)したら、微弱な魔力を流しながら蒸留する。


「わあ……!」


 小さな光が生まれた蒸留器具を見つめて、ユユちゃんが歓声を上げる。

 蒸留中は薬草の持つ癒やしの力と魔力が反応するから、キラキラしてとても綺麗なんだよね。

 ただ――


「やっぱりイマイチかな……」


 薬草がしなびていたせいか、光が弱い。出来上がったポーションも色が若干くすんでしまった。

 鑑定は得意ではないけれど、さすがにわかる。最低のDランクだ。

 ポーションの出来は素材の薬草の品質と蒸留時の環境で決まる。蒸留はちゃんとやれたと思うから、この品質は薬草の問題だ。

 

「こんなにキレイなのにあかんの?」

「うん……もっと質のいい薬草を採りに行けたらいいんだけど」

「薬草って採りに行くん?」

「そうだよ。うちでも少しは植えてるけど、森に採りに行くことが多いかな」


 とはいえ森には魔物も出るので、入口付近に自生している薬草を摘むだけだ。奥にまで入ったことはない。 

 森には何度も行ったのにこの兄妹に会うことがなかったのは、ユユちゃんたちの生活圏とは違ったからなんだろう。

 机の上で身を乗り出していたユユちゃんの肩を、ルディがつかんだ。


「ユユ、質問ばっかして邪魔したらあかん。あーやん、ごめんな」

「ううん、大丈夫。でも今日中に十個作らないといけないから、退屈させちゃうかも。私の部屋にある本なら読んでていいよ」


 私はそう言ったのだけど、


「あーやん、うち、お手伝いしたい!」


 ユユちゃんが目をキラキラさせながら片手を大きく上げたので、お願いすることにした。

 調合は免許を持っている私じゃないとだめだから、頼めるのは器具を洗ったり出来上がったポーションを箱に詰めたりすることくらいだけど。

 それでも助かる。特に器具を洗うのって地味に面倒なんだよね。うちにある器具は三セットだけだから、十個作るためには何度も洗わなきゃいけない。


「……よかった、思ったより早く終わった」


 二人が手伝ってくれたおかげで、暗くなる頃には無事に十個作り終えることができた。

 最後の一つに栓をしてユユちゃんに渡すと、木箱に持っていってくれる。あとは明日、依頼元の商業ギルドに持っていけば終わりだ。


「お疲れちゃん」


 ルディが後ろから声をかけてくる。

 そういえば疲れたな。サナさんとジュドさんが買ってきてくれた食料を受け取った以外は、ずっとここで調合をしていたからかな。


「んっ……」


 体をほぐそうと、両手を上げて大きく伸びる。全身を伸ばしきった瞬間、視界が暗くなった。


「あーやん!」


 両肩を強くつかまれ、目を瞬く。ふらつきが落ち着いてから顔を上げると、気遣わしげな顔をしたルディが私を見下ろしていた。


「大丈夫? さっきも倒れたんやし、無理したらあかんよ」

「あっ、えっと、うん。支えてくれてありがとう」


 背中に固い胸板を感じ、慌てて身を離す。

 びっくりした。男の人の胸って固いんだ。驚きすぎて動悸がする。

 ユユちゃんが私のスカートをつかんで、不安そうな顔で見上げてくる。


「大丈夫だよ。たくさん手伝ってくれてありがとう。一緒にごはん食べようか」

「……うん」


 笑いかけてみたけれど、ユユちゃんの眉尻は下がったまま。

 サナさんのシチューはとっても美味しいんだってことをたくさん説明して、説明しているうちに私のお腹が鳴って、ようやくユユちゃんが笑ってくれた。



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