01. はじめまして、獣人さん(1)
――そうだ。明日が納期だから、商品を作らなきゃ。
おばあちゃんが息を引き取って、独りになってから四日。
重い体を起こし、おばあちゃんの遺した店を再開しようとしたその日に侵入者が現れた。
しかも商品や材料みたいな、ささやかながらも換金できるものが置いてある売場や作業場ではなく、キッチンに。
「お兄の嘘つきっ! 何が空き家や、普通に人がおるやんか!」
キッチンの床に粉まみれになって転がった女の子が、ジタバタと手足を動かしてもがいている。
このあたりでは見かけない浅黒い肌に、少し青みがかった白い髪。まだ幼さの残る顔立ちと小柄な体から見て、私より年下だろう。
女の子の上で同じく粉まみれになって倒れた男の人は、情けない顔で頭を押さえていた。
「痛い痛いっ。ユユ、頼むから暴れんといてーや」
男の人も肌と髪は少女と同じ色。おにい、という呼び方は聞き慣れないけれど、他人の空似ではないだろうし、兄妹かな。
店舗兼住居のキッチンに、見知らぬ侵入者が二人、しかもうち一人は長身の青年。対するこちらは女一人。
普通に考えれば即逃げて通報するところだけれど、目の前に広がった光景に、私はつい呆然としてしまった。
「……なにやってるの、あなたたち」
だって、倒れた二人があまりにもどんくさかったから。
作業場で仕事を始めようとした直後にキッチンで物音と話し声がして、おそるおそるキッチンを覗いたら、今まさに何かを作ろうとしていた二人と目があった。
私が悲鳴を上げる前に、二人が怯えた顔で『ギャー!』と叫んだ。
慌てた二人があちこちぶつかって転び、その拍子に小麦の入っていた袋や鍋やボウルをひっくり返し、今に至る。
男の人が床に転がったまま、困ったような笑みを向けてくる。
「いや、えーとな、そのな、オレら、住むとこないし、お腹すいたし、この家全然明かりつかへんし、空き家ならご飯作って食べてもええかなって思うてな」
「お兄は弁解する前にどいて! 無駄にでかいから重いねん!」
「でもユユ、オレ、腰抜けてしもて動かれへんのや……」
「このヘタレ兄!!」
なんで侵入された側じゃなくて侵入した側が腰を抜かしてるんだろう。
女の子がなんとか抜け出そうとしているけれど、男の人が重いようで移動できていない。
男の人は細身とはいえ身長は高そうだから、小柄な女の子にとっては重いんだろうな。
えーと……。
こういう場合、どうすればいいんだっけ。
重い頭で考える。困ったな、うまく頭が回らない。
泥棒なら捕まえなきゃ――違う、誰かに助けを求めなきゃ。
でも助けを求めるって、誰に?
いつでも私を助けてくれたおばあちゃんは、もうどこにもいないのに?
頭のてっぺんから徐々に体温が下がっていく感覚があるのと同時に、目の前が暗くなった。
「えっ!? あんた、大丈夫!?」
なんだろこれ――ああ、そうか。私は間違えたんだ。
私が最初にするべきだったのは、おばあちゃんが生前に受けた仕事にとりかかることじゃなかった。
ここ二日くらい、私、ほとんど何も食べてなかったんだっけ。
仕事の前に何か食べなきゃいけなかったんだ。
そんなことに気がついてももう遅い。
頭や体が受けた衝撃を、どこか他人事のように感じた。
















