一話
12月24日、クリスマスを直前に控え、街は華やかになっている。まだまだ初々しい高校生同士のカップルが手を繋ぎながらデートをする姿も多く見られる。寒い中サンタのコスプレをしてビラを配るバイトの子、クリスマスそっちのけで仕事に励んでいるサラリーマン。
...そう、ごく普通の光景だ
彼らにはなんの罪もない。しかし、その幸せそうな面を見ていると苛立ちを隠せない
また一組、また一組と男女が夜の街に消えていく...
「最近の高校生は猿ばっかだな...」
冷え切った缶コーヒーを握りしめながら俺はぼやく。
そんな仲睦まじい姿を見ていられず俺は思わずその場から立ち去る。
むかついた時に行くところは一つしかない。
チリンチリーン♪
「いらっしゃいませ〜♪」
青年は店に入るなり、カウンター席にそそくさと着いた。手慣れた様子の店員が水の注がれたグラスを持ってこちらにやってくる。俺の表情を見て何かを察し、ご注文がお決まりになりましたらお呼びくださいと言い残し厨房に戻っていった。
俺が常連でなければこんな対応はしてくれなかっただろう。
「台湾まぜそば、並のニンニク抜きで」
「かしこまりました〜。少々お待ちください♪」
俺も今日は眺められる側だったはずなのに...なんで一人でまぜそばなんか食ってんだろうな。
あいつ...今頃なにしてんだろ...
『遼多くんとは付き合えないかな...』
思い出したくもない言葉が脳裏によぎる。元々分かっていたことだが、いざ言葉にして言われてみればそれは鉛より重かった。告白した次の日から冬休みだったことが不幸中の幸いである。振られた翌日に万が一にも顔を合わせることがあれば俺は天に召されて転生することだろう。
「(でもなにがダメだったかわからないんだよな...)」
「お客様、お待たせいたしました〜」
「あ、ありがとうございます」
うん、俺の心が死んでいてもこのまぜそばは最高だ。食べている時だけ荒んだ心が洗われるような気がして度々訪れて食している。切り刻まれたニラやネギ、焼豚にも味が染み込んでおり箸が止まらなくなる。
しかし、それは食べている間に限った話。食後に訪れるなんとも言えぬ虚無感が遼多を襲う。
「...なにがダメだったか教えてくれないか、薫子」
食べ終え、店を出たところで彼は空に向けたそんな独り言を投げかける。
クラス1の美少女。西城薫子のことを想いながら...
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