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第5話『探せ! 残り4つのいのちの輝きくん』前編

 ヒデヨシは天蓬山を後にして、一度オーサカキャッスルパレスに戻ることにした。

 残り4つのいのちの輝きくんを探しにいくことを女王に伝えるためである。


 それに、巫女ハルカスが勝手に着いてきた挙句、修行のために観嬢仙の元に残ることも伝えた方が良いだろうと判断した。


「あの二人、大丈夫かなぁ」

【大丈夫やろ。勇者の兄ちゃんは知らんけど、巫女の嬢ちゃんは素質もあるしな】


 がしり、がしり、と鋼の足音を立てながら、カーニィで街道を歩く。

 昨日も同じ道を歩いたはずなのに、ずいぶんと静かに思えた。


「オーサカ国のみんな、ハルカスがいなくなって心配してるかな」

【大騒ぎやて言うとったからなあ】


 急いで報告をしに行こう、足早に街道を進んでいった。


 夕刻、日が沈む前にヒデヨシはオーサカキャッスルパレスへと戻り、はじめて来た時と同様、慌ただしく駆けてきたトンボリ将軍に事情を説明する。

 将軍は額に手を当てて大きく息を吐いた。


「まったく、あの巫女さまは無茶ばかりする……」

「でも、おかげでハンナリィ帝国の飛行艇を追い返せたよ!」

「それはまあ、良い事だ」

「でしょ?」


 将軍とともに玉座の間へ向かい、女王にも説明をする。

 トンボリ将軍同様、ダ=ウォーレ女王も額に手を当てて大きく息を吐いた。


「よほど、少年のことが気に入ったと見える。報告ご苦労。トンボリ将軍。後で書状を渡す故、天蓬山まで届けて参れ」

「は、御意に」

「俺、輝きくんを集めてくる!」

「4つある、と言うたな。場所の当所はあるのか」

「うん! 観嬢仙に地図もらったから大丈夫!」

「見せてみよ」


 地図には、五つの印があり、その一つはここオーサカキャッスルパレスを示していた。


「輝きくんはここにいたってこと?」

【せや。ワイは地下にあるタイ・ヨーノ・トーに万魄神として封印されとったからな】


 ふむ、と呟き、女王が地図を差し戻す。


「北にある地を目指すがよかろう。平坦な道ゆえ、数日もあれば辿りつけるはずだ」

「分かった!」


 オーサカキャッスルパレスを中心にして、北に一つ。南に一つ。そして北東と南東に一つ。それが印の場所だった。

 将軍も地図をのぞき込んで言う。


「場所を見るに、ヒョーゴスラビアとの国境近くにある遺跡だな」

「どんなところなの?」

「かつては城砦として機能していた場所だ。外敵の侵略を防ぐため、入り組んだ構造をしている」

【ああ、なんや、ウメダ要塞かいな。ワイは構造知っとるからその辺は心配せんでもええ】

「輝きくんが案内してくれるって」

「そうか、しかし油断はするなよ」

「うん」


 女王は数日分の食料を準備させると言った。

 日も暮れたので、キャッスルパレスで夜を明かし、また朝に出発することにする。


 前回と同じ部屋で、ヒデヨシはベッドに腰を降ろした。


「遺跡かぁ」

【なんや、怖いか?】

「ううん! ワクワクする!」

【せやけど、ほんまにはぐれたらアカンで。めっちゃ複雑な場所やからな】

「地図とかないの?」

【あらへん。あの要塞は日によって通路が変わりよるからな。コツを知らな抜けられんようになっとるんや】

「輝きくん、迷子になっちゃダメだよ」

【アホか。こっちのセリフや。ともかく! 明日向かうウメダ要塞は迷宮や。気ぃ引き締めていこか】

「わかった!」


 赤いジャケットを脱ぎ、ベッドの端に放り投げてヒデヨシは横になった。

 少し、異世界にも慣れてきたが、やはり幸村サナのことは気にかかる。


 それに、オーサカ国の人々がハルカスのことを心配していたように、自らの両親も、ヒデヨシのことを心配しているだろうと思うと、少し申し訳ない気持ちになった。

 目的を達成して、早く帰ろう。そう、ヒデヨシは誓うのだった。


「輝きくん、俺、がんばるからね」

【ん? おお、頼りにしとるで】


 そしてそのまま眠りについた。




   ○   ○   ○




 翌朝、支度をして玉座の間にいくと、すでに将軍は天蓬山に向かっていた。

 兵の一人に案内されて、キャッスルパレスの食堂の奥、大きな厨房に向かい旅の最中の食料を渡された。


 ずしりと重たい食料を渡してくれたのは、ヒデヨシの母と同じくらいの年齢の、恰幅の良い女性だった。


「キミが異世界から来たっていう少年かい?」

「うん! 俺、大阪ヒデヨシ! よろしく!」

「ああ、よろしく! 私はこの食堂で働いてるホーリェ。ちょっと頼みがあってね」

「どうしたの?」

「キミが持ってる食べ物、ちょっと分けてくれないか? 料理の参考にしたくてね」

「もちろんいいよ」


 リュックから、スティックタイプの非常食を取り出してホーリェに手渡す。


「ありがとう。どれ、さっそく……」

「ナァンバーン兄ちゃんはおいしいって言ってくれたよ!」

「……なるほど、こりゃ確かに。手軽で食べやすいし、保存食の固めたパンよりいいね」


 ホーリェは礼を言ってヒデヨシと握手を交わした。

 

 キャッスルパレスの外でカーニィを起動し、一路北へ向かう。

 地図によれば、ウメダ遺跡までは丸一日ほどかかるらしい。道中に人が住む場所はないというので、どうやら今日は野宿かとヒデヨシは考えた。


「それじゃあ、出発!」

【張り切っていこかー!】


 川にかかる橋をいくつも越えながら、カーニィは平地を進んでいく。

 その足取りはとても軽かったが、ウメダ遺跡には大きな困難が待ち受けていることを、ヒデヨシは知る由もなかった。




   ○   ○   ○




 辺りが薄暗くなってくる頃に、川の多かったオーサカ特有の地形は見られなくなり、平坦な平野部に差し掛かった。

 地平線の向こうに夕日が沈んでいくのが見える。


 ヒデヨシは生まれて初めて地平線を見た。


 これも、異世界にこなければできなかった体験である。


「すっ……げぇ」

【あ? 何がや?】

「俺、地平線って初めて見た」

【あぁ、なるほどのう。ヒデヨシの世界は、えらいごちゃごちゃと建物が多かったからなあ】


 境界線の下にすっぽりと全てが沈むまで、ヒデヨシはじっとそれを眺めていた。


「そういえば、町の外って危なくないの?」

【ん? ハンナリィ帝国がたまに来るくらいやな。あとはまあ、野生の獣とかやけど、めったに現れん】

「そうなんだ」

【縄張りにでも入らんかぎりはな。ヒデヨシの世界でも、よっぽどのことがないと街中にクマとか出ぇへんやろ?】

「あー、なるほどね。じゃあ、安全なんだね」


 少し大きめの岩陰に機体を留める。

 辺りは完全に平地で、先日のように木を拾ってきて火を起こすようなことはできそうになかった。


 涼しい風がヒデヨシの頬をなでる。


「夜、寒いかなあ」

【ワイに任せえ。新しい力の出番や】


 団子状に連なった、いのちの輝きくんのフォルム。

 操作パネルに張り付くと輝きくんは光り始めた。


 いつもはオープンカー状態になっていた機体の上部に、エネルギーの膜が形成される。


【エネルギーを形状変化させて維持できるようになったんや。これで快適な空間をお届けや】

「すっごく便利! ありがとう、輝きくん!」

【おう、感謝せえ感謝せえ。真面目な話、アームにエネルギー流して戦えるようにもなったから覚えときや】

「うん、分かった!」


 戦術の幅は広がった。

 できるようになったことを共有し、操縦者の発想にさらなる発展を期待する。

 ヒデヨシにはその才能があった。


「あ、じゃあさ、ジャイロ状態の時にそれをやったら、高速回転するカッターみたいにできるかな!」

【お、ええやんけそれ!】

「あとは……泡出す時にエネルギーも一緒に出してショットガンみたいにするとか!」

【お前天才かヒデヨシ! かっこええで!】


 それは、キャンプの夜にテントの中でする夜話のようだった。

 機神カーニィの操縦席で、少年と団子状の球体の話は夜更けまで続いた。

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