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第4話『観嬢仙はどこに!? ハンナリィ帝国再び!』後編

 機神を操り、ハンナリィ帝国と戦う勇者ナァンバーン。

 機体速度では大幅に相手に勝るものの、肝心の攻撃は都度、相手に防がれてしまっていた。


「くくく、オーサカ国の機神、この程度か」

「まだまだぁ!!」


 ハンナリィ帝国第一師団長、オタ=ベタベヤスは余裕の表情を崩さず、勇者の攻撃をかわし続ける。


「そろそろ、頃合いか……」


 それまで避けに徹していた首なし機神は地に降り立ち、腕をがしりと震わせた。

 両の腕が三節昆のように奇妙にくねりながら、ベタベヤスの機神は地を蹴り走る。


 地に降りた事を好機とみて影式が爪を振るうが、アーム部分を絡めとられるように動きを封じられる。


 至近距離で組み合ってはいるが、影式のアーム爪は封じられている。

 その時、首なし機神から首が生えた。いや、首というには何も装飾の無い黒い塊。それが、頭のあろうべき場所に胴体からせりだしてきたのだ。


「この地にいるという観嬢仙のために用意した装置だが……まあいい、貴様も我が帝国に忠誠を誓うがいい」


 真黒の顔が小刻みに震え、気味の悪いノイズが影式を、そして操縦席のナァンバーンを襲う。

 少し離れた場所のヒデヨシにもその音は聞こえた。


「うわ、なんだあの音!?」

「気持ち悪い!!」

【精神干渉系や! 兄ちゃん、逃げぇ!】

「ナァンバーン兄ちゃん! そこから逃げてー!!」


 影式のブースターが火を噴く。

 急上昇してその場を離脱するが、引き換えに左右のアームが引きちぎれて地面に転がる。


【ヒデヨシ! 風!!】

「うん!」


 カーニィのジャイロを前面に展開し、豪風でノイズ音を消しとばす。

 飛びあがった影式はカーニィの背後へと降り立った。もぎ取られた腕の付け根から、バチバチと火花が出ている。


「兄ちゃん、大丈夫!?」

「まだちょっと頭の中が揺れやがる……助かったぜ少年!」


 窮地に陥った一行の頭上に、いつの間にか人影が浮いていた(・・・・・)

 ふわりとした衣服を風になびかせながら、ヒデヨシ一行を、次いでハンナリィ帝国の機神を見る。


「自分ら、人の山で何しとんねん。うるさぁてかなわんわ」


 すらりと長い手足を惜しげもなく露わにして、こぼれそうな胸元を隠そうともしない。長く伸びた髪はひとまとめにして後頭部に高く結い上げられていた。その妖艶な雰囲気の外見から、古代オーサカ語で彼女は言葉を発する。


「静かやて言うからココの山もろたのに、話がちゃうやんけ……誰が騒いどんねん。あ゛ぁ゛!?」


 眼光鋭く、宙に浮かぶ女性はヒデヨシを見た。

 ヒデヨシと、隣にいたハルカスは揃ってびくりと肩をすくめ、風の向こうのベタベヤスを同時に指さした。


「おぉん? お前は風で防音してくれとるんか。お利口さんやなあ。ほな、あっちか。空気読まんボケは」


 するすると降りてきて、カーニィの前に浮かぶ。


「ちょいそのまま風吹かしといてや」


 振り向かずにそう言うと、そのまま渦に自分から飲み込まれていった。

 ヒデヨシがあっと声を上げるより前に、彼女は風の渦に乗って螺旋を描きながら超高速でハンナリィの機神に近づいていく。


 接近に気づいたベタベヤスが回避行動に移ろうとする前に、彼女は手刀で黒機神の手、足、首を全て斬り落とした。


「なッ……!?」


 何が起こったか分からないベタベヤスだったが、即座に機体から操縦席ポッドを緊急離脱させる。

 次の瞬間、黒機神は爆発し、ノイズが収まったことを確認してヒデヨシはアームを閉じた。


「な、何者だっ!!」


 浮遊するポッドからベタベヤスが叫ぶ。

 彼女は口を強く引き結んだままポッド付近まで宙を滑り、そして一瞬だけにこりと笑ってから。


 ベタベヤスの乗ったポッドを蹴り上げた。かぁん、と高い音が響き、飛行艇の方向へ飛んでいく。


「まずは自分が名乗れや」


 ふん、と鼻をひとつ鳴らして、荒れた大地の上を滑るように飛びながら再びヒデヨシたちの目の前まで彼女は来た。


「お、大阪ヒデヨシ、小学五年生です!!」


 名乗らねば蹴られると思い、反射的に名乗りをあげる。彼女はきょとんと眼を丸くしてから、くすくすと笑った。


「ええ子やな。みたとこ、異世界人やんか。そっちの二人は……オーサカ人やな」

「オーサカ国巫女、ハルカ=ルカ=ハルカスと申します。観嬢仙さま」

「なんや、うちのこと知っとるんかいな」

「俺様は勇者ナァンバーン! 美しいレディ! 助けてくれてありがとう!」

「こっちのアホはほっとこか」


 観嬢仙は一つ溜め息を吐いてから、ふと上空を見上げる。

 未だ、ハンナリィ帝国の飛行艇はそこに佇んでいた。


「ヒデヨシ、見て!!」

「なんだアレ!?」


 上空の飛行艇に変化があった。

 機首の下部が開き、そこから巨大な砲門が現れる。


 砲門は、天蓬山の頂上を狙っているようだった。


「別に山の一つや二つなくなっても構わんのやけど……寝るとこなくなるんは嫌やなあ」

「見ろ! すでにエネルギーチャージが始まってるぞ!」


 頭を掻きながら観嬢仙は言った。


「自分ら、うちに何か頼み事しに来たんやろ? あれどないかしてくれたら、話くらいは聞いたるわ」

「ほんと!?」

「ほんまほんま。うち、嘘は嫌いやねん」


 がしゃり、と一歩前にカーニィを歩ませる。

 ヒデヨシは飛行艇を睨みつけた。


「どうするの? ヒデヨシ」

「こっちも、必殺技だッ!」


 飛んでいくには時間がないだろうし、ナァンバーンの機体も両腕がなくボロボロである。

 エネルギーには、エネルギーをぶつければよいと、両アームを合わせ、砲門を形作る。


 小声で、座席の下に隠れている赤い球体に「やろう、輝きくん」と声をかける。

 心底イヤそうな目線を送られたが、それしか方法がないと悟り、赤い球体はカーニィに力を流していく。


【バレへんように黙っとったのに……】

「でも、なんとかしないと山が消される」

【後でなんか聞かれたら、嬢ちゃんの力を借りたってことにしといてくれ】

「私も手伝うね! ありったけ、出しちゃうんだから!」

「ありがとう、ハルカス!」


 合わせたアームの先。

 白く輝くエネルギーが辺りの大気までもを震わせる。


 観嬢仙の眉がぴくりと上がった。


「ひっさぁぁぁつ!!」


 プラズマ上に爆ぜる余剰エネルギー。


「スーパー!!!」


 そして、飛行艇から放たれる炎のような閃光。それを真正面から迎え撃つ、機神の一撃。


「ド派手キャノーーーーン!!!」

【ダっサいけど、もうその名前でええわ……】


 光の柱が突きあがり、飛行艇のそれとぶつかる。

 二つの水流がぶつかるのと同様に、弾け飛んだエネルギーは薄い膜となって広がっていく。花火が燃え尽きるようにちりちりと空中で消えていくエネルギーの残滓。


 出力の差は、ヒデヨシの方が上だった。

 飛行艇のエネルギー砲を押しやり、砲門を貫いて損傷させる。


 そこでエネルギーは底をついた。

 息を切らすハルカスと、座席の下で萎びている輝きくん。


 ナァンバーンはぽかんと口を開けてヒデヨシを見た。

 カーニィが排熱と共に姿勢を解く。


「少年、すごいな今のは……」

「俺のひっさつわざ! でも、これやるとしばらく動けなくなるんだ」


 飛行艇が向きを変え、場から去っていく。どうやら撃退は成功したようだった。

 ヒデヨシとハルカスは顔を見合わせてぱちんと手を合わせる。


 ふわりと観嬢仙がカーニィの操縦席の前に浮かんできた。


「ヒデヨシ言うたな、自分。今の一発、どないして撃った?」

「え、えっと、ハルカスの力を借り、て……?」


 ぐい、と顔を触れそうになるまで近づけて、観嬢仙は声を低くして目を見開いた。


「うち、嘘は嫌いやねん。もういっぺん聞くで。どう、やって、撃った?」


 心なしか、観嬢仙から怒気が漏れているような気がする。観嬢仙からは不思議な甘い香りがしたが、それを気にする余裕はなく、また彼女の圧に耐えられるだけの胆力は、ヒデヨシにはなかった。


 震えながら座席の下に転がっている少し萎びた赤い球体を取り出して、視線を逸らしながら差し出した。


「ご、ごめんなさい、本当はこの、いのちの輝きくんの力で……」

「ごめんなさい……」


 ハルカスもとばっちりで怯える。


「それ、貸してみ」

【あっ……】

「あ……はい……」


 心なしか震えているいのちの輝きくん。

 つまみあげて「おい」と観嬢仙はすごんだ。


「何か、うちに言うことあるんちゃうか?」

【あ、はい、その、え、っとやね……】


 右手で、球体をぐいと握る。


【あー! すんません! すんません! ただいま! ただいま戻りました!! あかん! 潰れる! 死ぬ!】

「3000年も帰ってこんと……ほんまこのドアホ! どこ行っとってん!」

「え、えー? あの……?」

「万魄神さまが、観嬢仙さまと、え?」

「すまん! 俺様にはなにがなんだかわからんぞ少年!」

「俺も分からない……」


 観嬢仙は胸の谷間にいのちの輝きくんを押し込み、唖然とする三人を見た。


「ハンナリィ帝国の奴らどないかしてくれたし、約束は約束や。話、聞いたるわ。うちの家にいこか」

「う、うん。ありがとう」




   ○   ○   ○




 天蓬山の頂上には、観嬢仙の家があった。家というよりはただの小屋に近く、その造りは簡素なものだった。

 荒地の山の頂上に、今にも崩れそうな小屋。こんなところで生きていけるとは、とても思えなかった。


「お邪魔します」

「邪魔するんやったら帰ってー」

「えっ」

「……すまん、今のは冗談やねん」


 小屋の中には何もなく、四人は床に腰を降ろした。


「ほんで、なんでこんなとこまで来たん?」

「オーサカ国がピンチだって、いのちの輝きくんが……」

「私は、巫女としてその手助けを」

「俺様はノリで」

「よお分かった。そこの金髪はしばらく黙っとれ」


 観嬢仙が指をすっと上げると、どこからともなく布が宙に現れてナァンバーンの口を塞いだ。


「うちのこと話す前に、そっちの知ってること全部教えてや。3000年、ほとんど引き籠ってたからあんまりよぉ分かってへんねん」

「では、ハンナリィ帝国の侵略について、私からお話しします」


 ハンナリィ帝国は、カンサイ大陸の統一を掲げて各国を侵略し、その領土を広げているとハルカスは言った。

 すでにシ・ガ共和国は滅び、ヒョーゴスラビアの北部も一部が奪われている。近年は、オーサカ国を含めて様々な場所に眠る遺跡や古代の遺産を求めて各地に出没し、それぞれの国と小競り合いをしている状況だという。


 その侵略からオーサカ国を守るため、機神の力が必要なのだと、強くハルカスは言葉を切った。


「なるほどなぁ。さっきのもそのハンナリィ帝国がうちを狙ってやってきたわけやな」

「そして、万魄神さまのお告げにより、オーサカの名を冠する者がこの国を救う、とあったのです」

「ほいで、どないしてヒデヨシはこの国に来たんや?」

「俺のいた世界に、いのちの輝きくんが来てたんだ。それで、連れてこられた」


 一緒にこの世界に来た幸村サナのこと、ハンナリィ帝国に彼女が攫われたこと、取り返して元の世界に帰りたい事をヒデヨシは伝えた。


「ん、状況は分かった」


 輝きくんを取り出し、床に転がす。そしてぷにぷにとつつきながら言った。


「うちはあれや。このアホンダラが “帰るまで待っててくれ” 言うから気合いで寿命伸ばして待っとったんや」

【いや、ホンマ申し訳ない】

「3000年やぞ、3000年。うら若き乙女の命をなんやと思とんねんほんま」


 盛大に溜息。


「ほんでまだ人型に戻ってないし。必ず戻る言うたんちゃうんか、えぇ?」

「輝きくんってもともと人間だったの!?」

「せやで」

【せやで】

「ええええ!? 聞いてない……」

【言うてないからな】


 ぴょん、とヒデヨシの肩に飛び乗る輝きくん。


【その辺の詳しい話はまた追々したるわ。しょうもない昔話やからな】

「それより、うちはどないしたらええんや? ピンチなんやろ?」

【各地にワイを分割して封印したやろ。あれ、解放して元に戻らなあかんねん】

「……また、タイ・ヨーノ・トー動かすんか?」

【せや。それしかあらへん】


 観嬢仙はヒデヨシを見て、それから巫女を見た。

 もごもごと何かを言っているナァンバーンはあえて見なかった。


「昔話は、今はせんでええやろ。結論から言うたるわ。全部で5つ、同じもんがある」

「いのちの輝きくんが、5つってこと?」

「万魄神さまが、そんなに……」

「せやな。コアの数は5つや。あとは、コアどうしをつなぐパーツが6つ。合わせて11」

「コア?」

【ワイ、しゃべったり動いたりできるやろ? そういう中枢機能をもったやつがコアやねん。パーツは純粋にエネルギーの塊やと思てくれたらええわ】


 観嬢仙が立ち上がり、壁にかかった戸棚の中から赤い球体をふたつ持ってきた。


「これがパーツやな。ほれ、こうしてくっつけると――」


 目玉のあるコアの左右に、赤い球体が二つくっつく。

 団子のように三つ並びになった輝きくん。


「わ、すごい」

【これで、純粋にパワーアップや。ま、そんだけやけどな】


 指をパチンと鳴らす観嬢仙。×印のついた地図が空中に現れた。


「それ持って、残りのコアも集めに行ったらええわ」

「ありがとう! 観嬢仙さま!」

「ああ、巫女とそこのアホは残り。ちょっと修行つけたるわ」

「え、あ、ありがとう……ございます」


 少し。ハルカスの顔が引きつった。ナァンバーンは何かもごもご言っている。

 コア集めは、ヒデヨシ一人でいくことになりそうだ。


 状況をオーサカ国に伝えてからコア集めに行く、と話を決めて、その日は小屋の床で眠りについた。


 観嬢仙は、窓から一晩中、複雑な表情で星を見ていた。

次回予告!!

輝きくんのパワーアップのために、一人で旅をすることになったヒデヨシ!

最初に向かったのは、ヒョーゴスラビアとの境にあるウメダ遺跡! そこに現れたのは、仮面を被った謎の人物!

いったいぜんたい敵か? 味方か!?


「情報がいっぱいだったね……」

【やることは変わらんやろ。ガンバルで】

「うん、そうだね。ねえ、人間だったときは何て名前だったの?」

【気が向いたらそのうち教えたることもあるかも知れんしそれなりに前向きに善処して検討したる】

「それ教えてくれないやつじゃん」


第5話

『探せ! 残り4つのいのちの輝きくん』

次回もド派手にオーサカだぜ!

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