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第3話『万魄神登場! 動け、巨大機神タイ・ヨーノ・ト―!!』後編

 日が暮れ、巫女ハルカスと共に簡単な食事を済ませる。オーサカ国の一般的な料理だと少女が言ったそれは、穀物の粉を水と混ぜ、そこに卵と、野菜を刻んだものを入れて熱した鉄板の上で丸く焼いたものだった。どうみてもお好み焼きであり、甘辛いソースをつけて食べるのだと言われて食べてみれば、やはりどう味わってもお好み焼きだった。

 オーサカキャッスルパレス内に用意された部屋で、ヒデヨシは返してもらったリュックを置く。赤いジャケットもその上に投げ捨て、備え付けてあったベッドに横になった。


【明日は移動やからゆっくり休むんやで】

「うん。どれくらいかかるのかな」

【こっから天蓬山やったら……カーニィで半日くらいやろ】

「飛んでいくの?」

【あれは疲れるからナシや。ま、ハンナリィ帝国の奴らもおらんやろ。知らんけど】


 そう言って赤い球体はベッドから跳ね降りて壁の前まで行った。横になったまま、ヒデヨシは顔だけをそちらに向ける。


【ちょうど地図があるさかい、教えといたろ。ここが現在地や】


 地図の中央左寄り。海に面した領土の真ん中にぺちりとぶつかる。


「オーサカ国って、海が近いんだね」

【せや。ぎょうさん川が集まって、その上に城があるのは見たやろ? 川に沿ってそのまま下れば、半日くらいで海に出る】


 その海岸沿いに、オーサカ国は二つの国と隣接していた。北側に接しているヒョーゴスラビア、そして南側のアリッダーがある。

 さらに海と反対の東側にナーラ神国があり、その上にハンナリィ帝国が記されていた。


【100年ほど前までは、シ・ガ共和国っちゅう国があったんやけど、ハンナリィ帝国が潰しよったから今はあらへん】

「……」

【ヒョーゴスラビアも、北の一部が奪われとる。あいつらの狙いは、このカンサイ大陸の統一やろうなあ。そうさせへんためにも――】

「……」

【いつの間にか寝とる。……まあ、えらい一日やったからのう】


 知らぬ異世界で騒動に巻き込まれ、疲れていたのだろう。説明の途中でヒデヨシは眠りに落ちていた。

 けれども、ヒデヨシの旅はまだ始まったばかりである。異世界初日の夜は静かに更けていった。




   ○   ○   ○




 翌朝、オーサカキャッスルパレスの入口までトンボリ将軍が見送りに来た。


「チビすけ、気を付けていくのだぞ」

「ありがとう、将軍!」

「観嬢仙さまは気難しい方だと聞いている。くれぐれも、失礼のないようにな」

「分かった!」

「分かりました、だ。まったく、大丈夫だろうな……」


 しかし、ヒデヨシは内心、いのちの輝きくんの知り合いならばなんとかなるだろうと楽天的に考えてもいた。それよりも、ハルカスの姿がない事が気にかかった。


「ハルカスは?」

「それが今朝から姿が見えんのだ。巫女の仕事もあるというのに……」

「ふぅん」


 いのちの輝きくんの封印を解いて戻ってくればまた会えるだろう、と思い直し、ヒデヨシはカーニィのアームをぶんぶんと振って挨拶をした。

 よく晴れた空の下、赤いジャケットの袖をまくり、意気揚々と天蓬山へと向かう街道をヒデヨシは歩きだした。


 鋼の足音ががしりがしりと街道に響く。

 ハンナリィ帝国から離れるように海側に移動しているので、帝国兵は現れないだろう、というのが輝きくんの意見だった。


 いくつかの川を渡り、日も高くなってきたところで休憩を取ることにしようと街道沿いの木陰にカーニィを止め、腰を降ろした。


「別に俺、疲れてないよ?」

【ワイが動かしとるんやから当たり前やろが。ワイの、ワイによる、ワイのための休憩や。水くれ、水】

「あ、そっか、ごめん」

【うむ】


 水を吸ってぷるぷると震える姿を見て、ヒデヨシは犬みたいだと思ったが、なんとなく口にすることはやめておいた。


「他の機神もあるって言ってたけど、どうやって動いてるのかな」

【巫女の嬢ちゃんみたいに、古代オーサカの血を引くもんは精神力で動かせるで。めっちゃ疲れるけどな】

「そうじゃない場合は?」

【ワイみたいな、エネルギーの塊でも使うしかあらへんわな。今、オーサカで使とる機神はほとんどそれで動いとる】

「なるほど」


 がさり。

 葉の茂る枝が揺れ、何かがすとんと落ちてきた。


「そしてそのエネルギー結晶に力を充填するのがわたしの役目なの!」

【巫女の嬢ちゃん!?】

「ハルカス!!」


 白いマントにフードを被り、青い瞳でまっすぐにヒデヨシを見て、笑顔でピースサインをしてみせた。ヒデヨシも二カッと笑ってピースサインを返す。


【笑とる場合か。嬢ちゃんおらんかったら、オーサカの機神が動かんようになるやないか】

「あ、そっか。ねえ、ハルカス。オーサカの機神が動かなくなるんじゃないかって、輝きくんが」

「全部の結晶に充填してきたから、5日くらいは大丈夫! オーサカの国を救うんだもん! 巫女の私も一緒に行かないと! ね!?」

「う、うん」

【押しの強い嬢ちゃんやのう……】

「トンボリ将軍に行ったら絶対止められちゃうから、夜の間に仕事を終わらせて、日の出前からここで待ってたの!」

「それで見送りの時にいなかったんだね」

「そうよ。でも、一晩中仕事したから疲れちゃった……無事に会えたし、ちょっと休むね……」


 そう言って彼女はカーニィに乗り込み、座席に座って操作パネルに突っ伏して寝息を立てはじめた。


【自由か】

「自由だね」


 しばらく待ったが起きる気配が無い。彼女が起きるまで待つといつになるか分からないので、狭い座席にむりやりもぐりこみ、ハルカスを押しのけるようにしてヒデヨシは座席に座った。

 カーニィの振動にも、彼女はまったく目を覚まさなかった。


【大物になるのう、この嬢ちゃんは】




   ○   ○   ○




 まだ日は高く、座席に詰め込んだリュックから保存食を取り出して口に放り込む。オーサカ国では朝食という習慣がなく、昼過ぎと夜の一日二食の生活様式だった。

 健康的な小学生5年生男子としては朝はしっかり食べたいのだ。


 ヒデヨシは、寄り添うように眠るハルカスをちらりと見てから、少し照れくさそうに進行方向の先をまっすぐ向いてカーニィを動かしていた。


 カーニィの足音にまぎれて、聞きなれない音が聴こえてきた。

 高い笛のような、何かが高速で飛んでいるような風切り音。


 後ろを振り返ると、一機の黒い機神がこちらに近づいてきていた。


「何か飛んできた!?」


 ヒデヨシは咄嗟にゴーグルを装着し相手の情報を見る。

 示されたのは黄色。疑いの色。明確な敵意ではないが、味方でもない。


【うお、高所作業用のホバー機能ついた重機やんけ】

「つまり機神ってことだね!?」


 黒い玉子のようなフォルムの下部にブースターが三基。左右から二本のアームが蛇腹状のパイプで繋がって伸び、アームの先にはそれぞれ四本の爪が等間隔についている。

 高速で飛来したそれはカーニィを追い越し、爪を地面に突き立ててがりがりと減速しながらターンした。機体上部がハッチ状に開き、そこから一人の男性が姿を現した。


 金の髪を逆立て、深緑に染められた革鎧を身に着けている。


「俺様は勇者! 勇者ナァンバーン様だ! オーサカ国から攫われた巫女姫を探して……い、る……」


 カーニィの座席ですやすやと眠るハルカスを見て、男の動きが止まる。そしてわなわなと震えて言葉を続けた。


「貴様が巫女姫をさらったのか!! おのれ許せん! 俺様の機神、“影式”でぶちのめしてやろう!」

「ち、違う違う!! 起きて! ハルカス! あの人誰ーッ!?」

【とりあえず、やるでヒデヨシ!】


 いのちの輝きくんとカーニィの機体がシンクロして輝き、ヒデヨシの意のままに動く状態に変わる。

 黒い機神、影式はホバリングを維持したまま両アームの爪を開いた。


 影式が傾き、スピードを上げてカーニィに向かってくる。

 巨大質量の塊を正面から受け止めるには分が悪いと、ヒデヨシはガードの姿勢のまま機体を横にずらしてかわそうとした。


 しかし影式のアーム範囲は思っていたよりも広く、爪の先がカーニィのアームを捉えた。引っ掛けるように体制を崩しにかかる影式に対して、カーニィは右足を踏み込み四股を踏むような形でこらえた。


「影式の爪で切り裂けないだと!?」

「あーっ! ちょっと傷がついた!!」

【あの爪、厄介やのう……!】


 距離を取った影式が再び宙を滑る。先ほどよりも速くなっている。


【浮いとるから泡も効かんし】

「と、とりあえず動きを止めないと!」


 腕を前に出し、アームを合わせる。そしてそのまま四方にアームの先を広げ、ジャイロの形を作った。

 回転を始めたアームが大気に渦をつくる。


「これで、どうだ!!」


 豪風が影式を巻き込む。姿勢を崩した黒い機神は宙を舞い、上空に逃げてなんとか姿勢を立て直した。

 後を追うようにアームから放たれる風の角度を変えて、カーニィは影式を狙う。


 だが、所詮風でバランスを崩しているだけなのでこちらから攻撃ができるわけではない。

 現状を打開するにはもう一手、何かが必要だった。


「ド派手キャノン、撃つ!?」

【あの速度や。たぶん避けられてまう。そしたらエネルギー切れでこっちの負けや】

「うーん……ハルカスのことを知ってたから、倒しちゃったらマズい気もするし……」


 影式が上空から様子をうかがう。


「こしゃくな機神め……エネルギー消費と俺様への負担が大きいが、これで決めてやる!!」


 両腕を機体内部に引き込み、卵型の機体に開かれた爪だけが張り付く形態をとる。

 卵の背面が開き、円錐状のドリルが機体上部に出現。帽子をかぶるようにドリルが設置され、影式は高速回転を始めた。


 ドリルの先端がカーニィを捉える。


「影式奥義! 勇者暗黒穿孔覇斬!!!!」


 バーニアが爆ぜ、風を切り裂き、迫るドリル。


【あれはアカン!! 跳べ!】

「うん!!」


 その場で跳びあがり、ジャイロを下に向けて滞空時間を維持する。

 ギリギリのところでドリルの特攻を避け、影式は地面を抉ってしばらく進んでからようやく止まった。


 アームを解き、ずずん、と落下着地するカーニィ。

 その衝撃でようやくハルカスが目を覚ました。


「う、ん……? 着いたのー?」

「ねえ、ハルカス。あれ、何か知ってる?」


 目をこすりながら抉られた地面の先を見る。


「ナァンバーンの機神じゃない!」

「やっぱりオーサカ国の人だったんだね」

「ヒョーゴスラビアに行ってたはずなのに。いつ帰ってきたのかしら」

「なんか、巫女姫を誘拐したとか言われちゃったよ」

「とりあえず、事情を聞きましょう」


 影式に近づき中を覗いてみれば、ナァンバーンは目を回して気を失っていた。




   ○   ○   ○




 ヒデヨシとハルカス、そしてナァンバーンは日が暮れた街道沿いで焚火を囲んでいた。


「いやぁ!! すまん! 俺様としたことが早とちりしたようだ! 許せ、少年!」

「大丈夫だよ兄ちゃん。怪我もなかったし!」

「お、そうか! 元気で良いヤツだな! あと、この食い物は初めて食ったが美味いな!!」


 からからと笑いながらヒデヨシの非常食を皆で分けて食べる。

 ナァンバーンの話によれば、ヒョーゴスラビアへの交易輸送を終えて帰ってきたら城が騒がしかったらしい。


「誘拐されたかと思ったが、まさか家出だったか巫女姫!」

「違うもん! オーサカの危機を救う旅なんだから!」

「なら仕方ないな! 俺様も着いていってやろう!」

【またえらい……ひょうきんなやっちゃなあ】


 三つめの非常食を齧りながらナァンバーンは言う。


「正直な所、帰りのエネルギーが無い。大技で使い切った。あと、無断で飛び出してきたから帰りにくい!」

「んもー。そんなことだろうと思った」

「ねえ、兄ちゃん。どうして勇者って呼ばれてるの?」

「そりゃあ、俺様が天才、かつ最強だからだ! オーサカ国で誰よりも機神の扱いが上手いからな!」

「あ、ヒデヨシ、誰も勇者なんて呼んでないの。自称よ、自称」

「えっ」

【なるほど、アホの類やったか】


 大きく口を開けて呵々とナァンバーンは笑う。


「いずれ誰もが俺様を勇者と呼ぶ! だから先に名乗るのだ! 時代は後から俺様についてこい!!」

「なんか……かっけぇ……」

「実際に実力は将軍よりも上なのが厄介なのよ。騒がしいから基本的には国の外に向かう仕事に回されるの」

「俺様の名声を大陸中に届ける布石だな!」

【ほんまアホやなあ。まあ、悪くないタイプのアホや】


 影式にエネルギー補充が必要だったが、ハルカスはオーサカでのエネルギー補充でその力のほとんどを使い果たしており、しばらくの休息を必要とした。

 今日のところは野営をして、明日の朝に影式にエネルギーを補充、その後で天蓬山へと向かうことにした。


 ヒデヨシの荷物の中からマットを広げ、それをハルカスに提供する。


「わたし、外で寝るの初めて……!」

「俺様と少年ヒデヨシで交互に見張りだ。いけるか、少年!」

「任せてよ。いざとなったらカーニィもあるし!」


 男と男は親指を立てて拳をつけた。


【ヒデヨシが変な方向にテンション上がっとる……それより……】


 輝きくんは先ほどの戦闘を思いだしていた。

 ヒデヨシとハルカスを機体に乗せた状態での戦闘は初めてだったが、何か違和感を感じたのだ。


【何かこう、ちょっとちゃう感じがしたんやけど……気のせいやろか……】


 違和感の正体は掴めぬまま、今の所は判断できる材料もない、と機神のシートの奥に潜り込んで目を閉じた。

次話予告!


新たな仲間、勇者(自称)ナァンバーンと共に天蓬山へと辿り着いたヒデヨシたち!

けれど、肝心のオーサカ観嬢仙が見当たらない! しかもそこにハンナリィ帝国が現れて大ピンチ!


「ナァンバーン兄ちゃん、カッコイイね」

【やめとけ、アレは目指したらあかんカッコよさや】

「そうなの?」

【具体的には盛り上がり所で犠牲になるタイプや】

「よく分かんないや」


第4話

『観嬢仙はどこに!? ハンナリィ帝国再び!』

次回もド派手にオーサカだぜ!

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