第16話『ハンナリィ帝国の秘策! 合体、大機神!!』中編
五体合体をした極大機神の大きさは、およそ50メートルほど。
対して、カルシャナ巨像の大きさは20メートル。
まさに、大人と子どもほどの体格差がある。
それでも、カトゥーは一切臆することなく、両刃の薙刀のようなエネルギー刀を振り回す。
「小兵には、小兵なりの戦いというものがございましてな」
「いちいち憎たらしい言い方ぁ! 無駄よ無駄よ無駄よぉ!!」
オイケ・カラスマの両脚が開き、次々と弾頭が発射される。
実弾の嵐を真っ向から睨みつけ、姿勢を一段と低くして巨像は地を蹴る。
両刃の薙刀を回転させ、直撃しそうなものだけを最小限斬って落とす。
そのまま、極大機神の股を抜けるようにして脚部機神を斬りつけた。
「残・念でしたぁ! そんななまくら、効かないのよぉ!」
「先日の大機神ク・ジョーの恨みだ……くらえ!!」
ベタベヤスが操るエネルギーアームが形を変え、鞭のようにしなってカルシャナ巨像を襲う。
薙刀形態を解除し、二本の角をそれぞれ両手に持って再度、エネルギーブレードを形成。双剣としてそれを扱い、逆手に持って襲い来る黒紫のエネルギー塊をいなす。
回り込むように背面へと走り、ブレードを極大機神に突き立てて胴を登る。
幸村サナが憎々しげにつぶやく。
「あなたも、ヒデヨシ君を助ける邪魔をするのね……」
「お初にお目にかかります。拙僧、名をばカトゥー。ヒデヨシ殿の友人にて」
「嘘よ!! あなたもヒデヨシ君を殺そうとしてるんでしょう!!」
極大機神の首がぐわりと180°回転し、背中にしがみつくカルシャナ巨像を見る。
額にある暗い赤色から、巨像を穿つためのエネルギー閃が幾重にも走った。
「それはまた随分と人聞きが悪い。誰に吹き込まれましたかな?」
片角を振り回し、致命傷になりそうなものは弾くが、幾筋も走る閃光に巨像は貫かれていく。
「誰でも、ないわ! 帝国にあった古代の記録を読んだの! あのタイ・ヨーノ・トーは、危ない!!」
「なるほど、なるほど」
カルシャナ巨像の頭部が一部削られ、飛び退いて距離をとる。
額からの閃光はなおも巨像を狙って放たれ、カトゥーはまたも薙刀を作り回転させてそれを弾いた。
すぐさま角を繋ぎ合わせ、弓へと変形させて、一穿で幾本もの矢を放つ。
オイケ・カラスマはエネルギーアームの一振りで難なくそれを防いだ。
「思う所は同じであれば、拙僧の言葉も届こうもの。ヒデヨシどのを、助けてはもらえませんかな」
「だからっ! こうしてあの超機神を止めて――」
「いいえ。いいえ。ございますよ。誰も傷つかぬ方法が」
黒紫のエネルギーアームが細く伸び、巨像を狙う。ふわりと飛びあがってその上に乗った巨像は、エネルギーアームの上を疾走して極大機神に近づき、肩の合体機構の境目を渾身の力で叩き斬った。
ずどん、と極大機神の右肩が落ちる。
「そちらの持つコアとパーツ、全てこちらへお渡しいただければ」
「なッ!! ふざけるなよナーラの僧ごときが!!」
「そんなこと、できるわけないでしょぉ!?」
カトゥーの提言に、ベタベヤスとオリコが激昂する。
左肩から伸びるエネルギーアームが地に落ちた右肩を拾い上げ、再び極大機神につなぎ合わせる。
それを待ってから、脚部から先ほど同様のミサイルの嵐が降り注いだ。
「やはり、一度に一種類の機神しか動かせぬようですな」
今度はミサイルを切り落とすことなく、最小限の動きで流れるように弾の雨を躱して極大機神の足元へ近づく。
角を頭部に戻して、極大機神に掌を当てて法力を込めた。
「破ァッ!!」
地に付けた足を起点に、全てのエネルギーを集約して寸頸を放つ。法力が爆ぜ、極大機神の左脚部が吹き飛ぶ。
がくりと姿勢を崩しその場に頽れるのを確認して、飛び退いて距離を取る。
そのまま離れて、タイ・ヨーノ・トーの前で極大機神を見据えて立つ。
「ありがとう、カトゥー!!」
「なんのなんの。拙僧、やるときはやる男ですゆえ」
「大丈夫か!」
「もちろんですとも、観嬢仙どの。さて……」
再び角を外し、双剣として構える。
オイケ・カラスマは片腕で体を支えながら、もう片方のエネルギーアームをこちらへと向ける。
その先端は尖り、鋭い一槍へと形を変えていく。
「まとめて串刺しにしてくれるぞ……!」
【くそっ……まだ動かれへんっちゅうのに……】
勝負どころとみて、ベタベヤスがあらん限りのエネルギーをアームに集中していく。
極大機神のエネルギー源は、ウメダ遺跡でサナが奪っていった輝きくん、そしてキョ=ウバシに眠っていたそれの、二つのコアである。
異世界人である幸村サナを通して機動と兵装に回していたエネルギーを、全て集中する。
「ヒデヨシ君。今、その超機神を壊してあげるから……!!」
「ねーちゃん! お願いだからやめてよ!!」
「ふははは! もう遅い! 喰らえッッ」
どう、と射出される槍状の暗紫。
タイ・ヨーノ・トーは動かない。
けれど。
「あとは頼みましたぞ。ヒデヨシどの」
「カトゥー!?」
「己の、為すべきことを、成すのですぞ」
カルシャナ巨像は一切引かずに槍を受ける。
わき腹を貫かれながらも、勢いの衰えない槍をがしりと掴む。
「やめえ! お前さん、死んでまうぞ!!」
「拙僧、もとよりこれが狙いでございましたゆえ……!!」
双剣状の角を槍に突き立てる。
「貴様ァ……!?」
「そも、同質の力なれば。当方が使ったとて問題ありますまい?」
カルシャナ巨像にヒビが入る。
強大なエネルギーが体中を巡る。それは、とうてい耐えられるものではなかった。
【やめぇ! お前さんの巨像が……!】
「いやはや、一世一代の見せ場にて……! 退くわけには、まいりませぬ……な!!」
ヒビは体中に巡る。
きしり、と甲高い音が一つ。
「お受け取り召されよ! 我が角! 我が命!!」
カルシャナ巨像が崩壊し、それと同時に暗紫の槍が翡翠色に変わり、突き立てた二本の角を中心に渦巻いていく。
「カトゥーーーーッ!!」
二本の角はエネルギーを纏って、タイ・ヨーノ・トーから突き出た左右の二本の腕、その根元近くに突き刺さる。
超機神、タイ・ヨーノ・トーを翡翠色のエネルギーが包む。
不定形の、エネルギーアーム。極大機神オイケ・カラスマの武装であったそれを纏い、超機神は再び動き出した。
「くそッ、あのアホんだらぁ……」
【せやけど、これで動ける……ッ】
後光状のエネルギーも再び輝き、トーの頂上の顔も光を放つ。
「俺の……為すべきこと……」
カトゥーの最後の言葉を繰り返し、ヒデヨシは立ち上がって生命の樹に触れる。
ヒデヨシの意思に呼応し、爆ぜるように大小さまざまな光が樹に実る。
「迷ってちゃダメだ!! あのハンナリィの機神を、止める!!」
光り輝く腕を手に入れ、超機神タイ・ヨーノ・ト―は再び宙に浮かぶ。
その翡翠色の輝きで形成された拳を硬く握りしめ、オイケ・カラスマと視線を合わせる。
戦いは、佳境に入ろうとしていた。




