第16話『ハンナリィ帝国の秘策! 合体、大機神!!』前編
天高く舞い上がるタイ・ヨーノ・トー。
オーサカ国近辺で戦うわけにもいかない、と街道上空を飛び、平野部を目指す。
ハンナリィ軍も侵攻の速度を緩めず進軍する。
奇しくも、3000年前の決戦の場所だと輝きくんが言った、キョ=ウバシの地で五体の大機神と超機神は相見えた。
「向こうの大機神……変な形のもいるね」
【ワイが知っとるジョー・シリーズとちゃうな……】
「手ぇ、加えよったんやろ。油断だけはしたらあかんぞ」
ジョー・シリーズは、3000年前の戦いではタイ・ヨーノ・トーと共に世界の危機へと立ち向かった総勢10体の機神群だったが、今ではハンナリィの兵器として改造されてしまっている。
タイ・ヨーノ・ト―内部、ヒデヨシの隣では、強く輝きながらその輪郭を淡くぼかしているハルカス。
彼女はしっかりと力を入れて生命の樹に向かって立っていた。
「大丈夫? ハルカス」
「うん、すっごく、力を吸われてるけど……大、丈夫!!」
相対する五体の大機神はそれぞれが20メートル級の巨体。
一体だけがやけに大きかった。
そのどれもが、青銅。
ナーラ神国を襲った大機神ク・ジョーと同質のそれ。
【ヒデヨシ。先制攻撃や。かましたれ】
「うん!!」
トーの両側に突き出た二本の腕の先端に、エネルギー収束する。
そこから光の尾を引いて幾筋もの拡散光弾が大機神群を狙う。
だが、中央にいる一回り大きな大機神がエネルギーフィールドを張り、それをすべて防いだ。
「防がれたよ!?」
「ビビらせの一発や。宣戦布告みたいなもんやな」
大機神から声が響く。
「ヒデヨシ君……そこに、いるの?」
「ねーちゃん!!」
幸村サナの声が、静かに平野に広がる。
「ダメ! 早くそこから降りて!!」
「俺、オーサカを守るんだ!!」
タイ・ヨーノ・トーを前傾させ、バーニアを全開にして突撃する。
左右の二本の腕でなぎ倒すように、五体のうちの一体をなぎ倒す。
縦に長いその大機神はすぐさま立ち上がり、胸部をがばりと開きながら多数のミサイルを撃ち出してきた。
「ずいぶんと図体のでかいのに乗ってるじゃなぁぁい? それじゃあ躱せないでしょう!!」
「その声……オリコっ!!」
【あのめっちゃ性格悪いやつやんけ】
「あいつだけはウチが泣かす! 喰らえや!!」
観嬢仙が身を赤く輝かせる。
それに呼応して、タイ・ヨーノ・トーの背面に、輪状の後輪が拡がる。さながら後光の如く。
「天蓬山……大ッ観蘭射ァッ!!」
後光の円周上からいくつもの光弾が発射され、襲い来るミサイルを全て撃ち落とす。
「どやぁ! まだまだおかわりはあるでぇ!!」
「く……っ!」
別の一体、箱型に近い、細い手足を伸ばした大機神がすべり込んでオリコを襲う光弾を弾く。
「助かったわ、ベタベヤス」
「油断はするなよ。ふざけた形をした機神だが、エネルギー量が桁違いだ」
「ベタベヤスまで!!」
「ここで貴様らを倒し、オーサカを沈めてくれる!!」
幸村サナは、一回り大きな大機神に。
オリコは縦長のそれに。ベタベヤスは箱型のそれに。
縦長と箱型はそれぞれもう一体並んでいる。
【ヒデヨシ。長期戦はマズイ。一気に決めるで】
「……うん」
五体の機神を見据えつつ飛びあがり、上空から狙いを定める。
隣のハルカスは、少し苦しそうに顔を歪めている。
確かに、長期戦は危ないかもしれない。
黄金に輝くトーの頂上にある顔が一際輝く。
観嬢仙が展開した後光も、さらに大きく開く。
「オーサカの機神め、なんてエネルギーだ……」
「ちょっと新入り。アレなんとかしなさいよ」
ベタベヤスとオリコの額に汗が流れる。
大気が歪む程のエネルギーがハンナリィの大機神を狙っている。
「……ヒデヨシ君!!」
一回り大きな大機神が飛び立ち、タイ・ヨーノ・トーに無防備で近づいていく。
「ヒデヨシ君!! 私は、君を助けたいの!!」
「ねーちゃん……!」
タイ・ヨーノ・トーが、溜めたエネルギーを、凝縮してから一気に放つ。
黄金の顔から弩級の光線が平野を、空を穿つ。
周囲の音を全てかき消すほどの轟音。
しかし、サナの乗る大機神は一切動かなかった。
光線は横を掠めて、大地を削る。
【ヒデヨシ……】
「……ごめん……! 俺……」
無意識のうちに、サナを庇って照準を外してしまった。ヒデヨシはまだ心のどこかで迷っているらしかった。
ハルカスが、がくりと膝をつく。
息荒く、苦しそうに胸を抑えている。
彼女の輪郭が淡く明滅を繰り返している。
「ヒデヨシ君を、消させはしない……!!」
地面に降り立つサナの大機神。
「合体して、ここであのオーサカの機神を止める」
「よかろう」
「仕切ってんじゃないわよ新入りのクセに」
五体の機神が集まり、サナの大機神を中心にして組みあがっていく。
縦長の二体が脚部に。
箱型の二体が肩に。
そして肩部から暗紫のエネルギーアームがばちりと形成される。
「……極大機神、オイケ・カラスマ、発進……!!」
タイ・ヨーノ・トー内部で驚きが生まれる。
【合体しよったぞ!?】
「あんな機能あったかぁ!?」
それは、サナがウメダ遺跡の設計データを元に、大機神に合体機構をつけたもので、正真正銘、ハンナリィ帝国の秘策だった。
タイ・ヨーノ・トーが出力不足で降下し、背中の後光が小さくなっていく。
「ごめん、俺が、俺がビーム外しちゃったから……」
「とりあえずハルカスを寝かせぇ! ウチが気張ったる!!」
消えそうなハルカスを横にして、観嬢仙が懐から取り出したシィ・カセンベをがり、と齧る。
「くっそ不味いなコレ!! おらぁ! 動けぇぇぇ!!」
ごう、とバーニアが再噴射し後光から次々とエネルギー弾が射出される。
極大機神、オイケ・カラスマのエネルギーアームが前に出され、ぐんにゃりと形を変えてシールドを形成する。
すべてそのシールドに吸収されて、さらにオイケ・カラスマのエネルギーが上乗せされて返ってくる。
次々と被弾し、地響きをさせて地に墜落するオーサカの大機神。
静かに、オイケ・カラスマが近づいてくる。
エネルギーアームを振り上げ、巨大なハンマーを形成。邪悪に輝くそれを、今にも振り下ろさんとしたその時。
遥か遠方より光の矢が飛来し、オイケ・カラスマのエネルギーアームを直撃した。掻き消えるアームをそのままに、矢の飛んできた方向を見る。
「……なにぃ!? お前は……ッ!」
ベタベヤスが苦々しい声で叫ぶ。
大機神ク・ジョーを撃ち抜いたその光を放った主が、視界の先に立っていた。
「カトゥーっ!!」
ナーラの守り神、カルシャナ巨像。
その角を弓状に組み立て、そこから放たれた破魔のエネルギー矢。
「助太刀いたす。我が友を手にかけさせはしませぬ」
オイケ・カラスマが巨像を振り向き、そちらへと狙いを定めた。
トー内部では、誰もが力なく膝を落とし、絶体絶命の状態だった。
唯一の希望、カルシャナ巨像が角を薙刀状に形成して走り出す。
巨像と極大機神が激突する音が、周囲に響き渡った。




