表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/38

第1話『少年オーサカ、異世界に立つ』後編

 ぴょこぴょこと跳ねる赤い球体。

 ヒデヨシはサナを見て、サナはヒデヨシを見た。


【なんや自分ら、ノリ悪いのう。もっとこう、テンション上げていこうや】


 半眼になり二人を見ながらテレパスを飛ばしてくる赤い球体。

 すこしの間を置いて、サナが質問を投げた。


「この異世界に私たちを連れてきたのは、あなたってこと?」

【せや。そんでさっきも言うたけど、ここはオーサカ国。ワイの名は“いのちの輝きくん”言うねん。目上やから、さん付けで呼んでや】

「元の世界に帰る方法はあるの?」

【名前にツッコめや。シリアスか。さん付けしたら、いのちの輝きくんさんになるやんけ】

「ねえ、帰してくれるの?」

【もちろん、国を救ってくれたら帰したるがな】


 それはつまり、事実上の拒否権がないことを意味していた。

 サナは荷物の中からマルチゴーグルを取り出し、自身に装着した。赤い球体の周りは緑に光り、敵対心がないことを表している。


「国を救うって、楽しそうじゃん!」

「ヒデヨシ君! ここは未知の異世界なのよ! 危ないの!」

【おお、ヒデヨシ、えらい! お前はえらいやっちゃで】

「え、そう? うぇへへ……」

【なんせ名前がええ。オーサカヒデヨシ。完璧や。完の璧や! お前さんやったらきっとオーサカ国を救ってくれるに違いあらへん】

「ちょっと、勝手に話を進めないで!」


 サナは他にも機器類を乱暴にいじるが、救難用の信号も出せず、元の世界との連絡は一切取れなかった。


【パパッと救って、チャッと帰ったらええがな。そない手間とらせんて】

「でも、危険かも知れないじゃない……」

【頭でっかち、胸でっかちのねーちゃんやのう。ヒデヨシを見習えほんまに】

「い、今、胸の話は関係ないでしょう!?」


 その時、辺りの葉がガサガサと鳴りはじめる。

 次の瞬間、木々を抜けて浮遊するポッド状の機械が数機現れ、彼らを取り囲んだ。


「なんか茶碗っぽいのに乗った人が出てきたけど……?」

【あかん!! ハンナリィ帝国の奴らや!】

「ヒデヨシ君、逃げるよ!!」


 現れた者達の周囲には、敵対心を示す赤い光。ゴーグルから読み取ったその情報を元に逃げる判断をしたサナと赤い球体の言葉はほぼ同時だった。

 手を引かれてヒデヨシは少しよろめく。浮遊機械に乗った人物たちはすぐさま追いかけてきた。彼らはどこかと通信している様子で、木々を躱しながら距離を詰めてくる。


【これでもくらえやッ!】


 赤い球体が跳びあがり、目を見開いて強く発光した。急な閃光に浮遊機械の操縦が止まる。

 その隙を突いて脇の茂みから森の奥へと二人は逃げる。


【こっちや! 隠れ場所がある!】


 追い立てられるままに走り、二人は苔むした遺跡のような場所に辿り着いた。どこにも入口はなく、小さな石造りの小屋が立っているだけに見えた。


「ここ、に……隠れるの?」


 息を切らしてヒデヨシが言う。赤い球体は跳ねて壁に近づき、白く光る。石壁は音を立てて開き、地下への階段が現れた。


【行くで!】


 地下は殺風景な石畳だけの広間だったが、なんとか人心地つくことができた。

 リュックから非常食と水を取り出し、サナとそれを分け合う。天井近くの壁の隙間から陽が差しこんでおり、周囲はそれなりに明るかった。


「ありがと。あーもー。いろいろ起こりすぎて、逆に何も考えられないー」

「とりあえず、あれが敵?」

【せや、あれがハンナリィ帝国。オーサカ国に攻めてきとる奴らや。あ、ワイにも水ちょうだい】

「水、飲むんだ……。でも、どうすりゃいいの?」

【まず、オーサカキャッスルパレスに行くんや】

(キャッスル)宮殿(パレス)かはっきりしてよね……。じゃあ、最初からそこに転移してればよかったんじゃないの?」

【手元が狂った】

「手なんかないじゃない! この目玉たこ焼き!」

【そもそもヒデヨシだけ連れてくるつもりやったんや! それを仲良ぉ手ぇなんか繋いどるから巻き込んでしもたんやないか!】

「私のせいだって言うの!?」


 サナと球体の間で言い争いが始まり、ヒデヨシは思わず笑った。

 なぜ笑うのかと問われ、ヒデヨシは言う。


「なんか、目玉とケンカしてるねーちゃん見てたらおかしくって」

「……まあ、相手は目玉だもんね。どうみても」

【おいこら、しっかりご丁寧にいのちの輝きくん言えや】

「うるさいな。どうせ手も足も出ないんでしょう」

【ウマいこと言うたつもりかコラぁ!】


 穏やかな時間は、長くは続かなかった。

 開けた地下の広場に、地響き、轟音と共に天井を破ってずどん、と何かが落下する。


【なんやぁっ!】


 土煙の中から、巨体の影。

 およそ2メートルほどの、人型をした黒い塊だった。手足が異様に長く、頭にあたる部分には何もない。真っ黒の、首なし人形がきりきりと立ち上がって、キュイン、と駆動音を鳴らした。

 天井に空いた穴からは、さきほどの浮遊機械と、それに乗ったハンナリィ軍がわらわらと降りてくる。


「ようこそ、この世界へ。異世界人諸君」


 一回り大きな、赤い浮遊機械が、首なし人形の上にドッキングし、そこに乗っている男が鷹揚に声を上げた。


「我が名はハンナリィ帝国、第一師団長、オタ=ベタベヤス! 異世界からの客人を迎えに上がった」

【何が迎えや! 誘拐しにきた、の間違いやろが!】


 サナが一歩前に出てヒデヨシを庇うように立った。

 そして即座に返答する。ゴーグルから見える男の情報は、赤く警戒色を発していた。


「お断りします」

「では無理やりお連れしよう。全機、行け! 殺すんじゃないぞ!!」


 浮遊機械の群れが迫る。

 二人と一球は広間の奥の通路へと走った。


 通路を進んだ先は、行き止まり。

 けれど、そこには一機のパワードスーツが埃を被って佇んでいた。


【ヒデヨシ! 乗れ!】

「こ、これに!?」


 四肢のついた、大きな箱。そう形容できる、ずんぐりとした胴体。胴から上が開け広げになっており、そこにシートが設置されていた。ヒデヨシがよじ登って入れる程度の大きさのそのパワードスーツは、昔、みかん箱に手足をつけて遊んだ工作ロボを思い出させた。

 シンプルな機体の外見とは裏腹に、ヒデヨシの視界に操作パネルがずらりと並ぶ。


「無理だよ! 免許持ってない!」

【いらんボケかますな! ワイに任せぇ!】


 赤い球体が機体の操作パネルに張り付き、輝きだす。

 それに呼応して、機体も赤く染まっていく。


「ヒデヨシ君! 大丈夫なの!?」

「サナねーちゃん、たぶんいける! どいてて!」


 輝きはヒデヨシにも纏わりつく。不思議な高揚感と全能感が彼を満たした。


【いったれヒデヨシ!】

「うん!」


 鋼のきしむ音を響かせて、機械の腕を大きく振り上げる。

 ハンナリィ軍がにわかに浮足立った。「動いたぞ!」「師団長に報告しろ!」「機神が復活した!?」


「ほんとに大丈夫なの!? 両腕、パンを掴むトングみたいだけどー!!」

【こういう機体なんや! 水差すなや! 土木汎用重機カーニィ・ドウラックの勇姿をみさらせ!】

「蟹がどうしたのー!?」


 歩行の振動と轟音でサナにはあまり内容が伝わらなかったが、機体はスピードを上げてハンナリィ軍の浮遊機械に向かっていく。腕を振るい、また体当たりをしながら向かってくる敵を相手取る。

 ヒデヨシの感覚通りに機体は動き、一機、また一機と浮遊機械群を蹴散らしていく。


 先ほどの広間に戻ると、男が目を見開いて機体とヒデヨシを見た。


「古代機神が……動いているだと!?」


 そして高らかに笑いだす。


「くくく、クハハハハ!! 素晴らしい! 素晴らしいぞ! やはり異世界人は機神適性があるのだな! 是が非でも連れて帰るぞ!」

「やっぱり悪いヤツっぽい! ド派手にぶっ飛ばしてやる!」

【やったれやったれ!】


 黒い人型がぐいと前傾姿勢をとる。溜めて、地を蹴り、一瞬で間を詰めてくる。

 そのまま勢いに乗せて放たれた黒い右腕を、ヒデヨシは重機の二本腕を十字に組んでガードする。そのままぐいと腕を押し返して相手機体の姿勢を崩し、振り上げた腕をハンマーのように落とす。

 黒い機体は地面を転がりそれを避け、一瞬遅れて弾けた石畳の破片を受けるにとどまった。


「ククク、恐ろしいパワーだが、これならどうかな!」


 黒い機体は立ち上がり、左腕から光弾を次々と発射した。

 両腕を上げてガードするが衝撃までは殺しきれずに仰向けに倒れる。


「うわああぁぁ!!」

【なかなかやりよる……!】


 急いで起き上がり二機は距離をとって再び対峙する。


【ヒデヨシ、必殺技や】

「え、なにそれ」

【ええから叫べ! ノリで合わせたる!】


 よく分からないが、そう言われたらできそうな気もする。

 高揚感に任せるままに、ヒデヨシは叫んだ。


「ひっさぁぁぁつ!!」


 両腕を前に突き出す。

 片腕、二本ずつのパーツが合わさり、体の前で大きな砲門をつくった。


「スーパー!!」


 高密度のエネルギーが砲門に充填され、余波がバチバチと弾けて爆ぜる。


「ド派手キャノーーーン!!!」

【思っとったより数倍ダサい……!】


 放たれる閃光。

 黒い機体が回避行動をとるより前に、周囲を光線が呑み込んでいく。


「ちいぃッ! なんというパワーだ……!」


 しかし、浮遊機械はすんでの所で首なし人形から離脱した。

 相手の機体が激しく爆発する。


 腕の構えを解き、余波と余熱をカシュウゥゥ、と一気に吐き出す。

 赤い機体は力なく、がこん、と項垂れた。


「……やっつけた?」

「ふははは!! 今回は見逃してやろう! しかしこいつだけでも頂いていくぞ!」

「あ!! サナねーちゃん! ねーちゃんを離せ!!」


 浮遊機械に、サナが囚われていた。


「油断したな! 異世界人! しかしこのベタベヤス、受けた屈辱は忘れん! 決着は必ずつけてくれる! さらば!!」

「ねーちゃん!!」

「ヒデヨシ君! 」


 機体のレバーを力任せに動かすが、赤い機体は沈黙したままだった。


【あかん、エネルギー切れや……】

「くそ! くそッ!! 動けよーッ!」


 飛び去っていく浮遊機械を睨み、ヒデヨシは叫んだ。




   ○   ○   ○




 石畳に、サナのつけていたマルチゴーグルが落ちていた。

 ぶかぶかのそれを首から提げ、ヒデヨシは涙を拭う。


【ヒデヨシ……】

「ねーちゃんを取り返しに行く」

【今はまだ無理や。それに、殺しはせん言うとったやろ。手ぇ貸したるさかい、まずは準備や】


 拳を強く握りしめ、ヒデヨシは頷いた。


【そうと決まれば、まずはオーサカキャッスルパレスに行くで】

「分かった。絶対、ねーちゃんを助けて元の世界に帰る……!」


 大阪ヒデヨシ、彼の異世界旅行は波乱に満ちた始まりだった。

 強く口を引き結び、リュックを背負う。首に提げたゴーグルが天井からの光を反射してきらりと光った。

次話予告!!


ハンナリィ帝国に攫われたサナを救うための方法を探すために、オーサカ国へ向かったヒデヨシといのちの輝きくん!

オーサカキャッスルパレスで出会ったのは、オーサカ国の女王、クイーン・ダ=ウォーレだった! 機神を動かしたヒデヨシの力に目を付けた女王は、手助けの条件として機神の力試しを提案してきた!


「あの機械、土木用って言ってなかった? 機神? なにそれ」

【その辺りもちゃんと順番に話したるさかい、安心せえ。それより、ワイのこと球体とか目玉って言うのやめんか?】

「だって名前、長いもん」

【愛称でもええわ、この際。その辺も次回決めよか】



第二話『女王、将軍、謎の少女!?』

次回もド派手にオーサカだぜ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ