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第9話 『アリッダーでひと休み! 温泉旅館で豪華なごはん!』前編

 ウメダ遺跡からオーサカキャッスルパレスへの帰り道は、とても軽快だった。

 タマが修理、改造してくれたカーニィには、足の裏や後背部などにバーニアがつけられており、輝きくんからのエネルギーを噴射することで高速移動が可能になっていたからだった。


 これまでと比べ、その機動力は実に3倍。

 足部ブースターで少しだけ浮いた状態で、背中からもエネルギーを放出して推進力を得る。


 滑るように大地を行くカーニィに、ヒデヨシはおおはしゃぎだった。


「すっげえええ! めっちゃはええぇぇぇ!!」

【んおお゛ッ!? これ、めっちゃ疲れるやんけ……!!】


 必殺技を打っていない状態でもかなり消耗が激しく、常時これで移動するわけにはいかないと輝きくんは悟った。

 それでもヒデヨシの喜びようを見て思うところがあったのか、オーサカキャッスルパレスまでしっかりとエネルギーを放出し続けて、辿りつくころには干からびる寸前だった。


【水ぅ……水ぅぅぅ】

「うわぁ! 輝きくんがうめぼしくんに!!」

【いらんボケはええねん……水くれ……】


 オーサカの敷地内に入ると、以前のようにドゥ=トンボリ将軍がやってきた。

 今回は、兵たちだけでなくハルカスも一緒だった。


「ただいま!」

「よくぞ戻った。コア、とやらは見つかったのか?」

「それが――」


 ウメダ遺跡、そしてヒョーゴスラビアでの出来事を話すヒデヨシ。


「でも、カーニィはパワーアップしたから次こそうまくやるよ!」

「おかえり、ヒデヨシ! 私も観嬢仙さまのところで修行頑張ったんだから!」


 ハルカスが笑顔を向ける。青い瞳がきらきらと輝いていた。


「観嬢仙のところで、どんな修行したの?」

「えっとね……」

「巫女様。まずはヒデヨシを女王の元へ。それからごゆるりとお話しくだされ」

「えー、もう。分かったぁ」


 謁見の間まで行き、女王クイーン=ダ=ウォーレにも先と同様の話をする。

 女王は少し顔を曇らせたが、何よりもヒデヨシが無事でよかったと労をねぎらった。


 ハルカスが夕食を共にしたいと提案し、キャッスルパレスの一室、来賓の歓待に使われる広間で食事が行われた。


 女王と将軍は今後の話し合いのためいなかったが、ハルカスの他にナァンバーンと観嬢仙がいた。


「兄ちゃん! 久しぶり!」

「少年! 見違えたな!」

「えー? 数日しか経ってないよ?」

「ほっとけほっとけ、アホの言うことはウチらには分からん」


 勇者とハイタッチして二言、三言交わす。

 その後ろではハルカスと観嬢仙が会話していた。


「あ、そうだハルカス。観嬢仙のところでどんな修行したの?」

「そうそう、すっごく大変だったんだから!」


 ハルカスが話そうとすると、ナァンバーンがガタガタと震え出した。


「アレは、二度と嫌だ……。二度と嫌だ……」

「なんやねん、あれくらいで。根性あらへんなあ」

【おいおい、何させたんや? その兄ちゃん、いちおう才能はあるんやろ?】


 観嬢仙は輝きくんの呟きにこくりと頷く。


蓬莱(ほうらい)と組手させただけやで」

【蓬莱て……あの、あれやろ? 笑顔見せとかな襲ってくる生きモンやろ?】

「何それ怖い」

「せやで。蓬莱山に売るほどおるから、一か所にまとめて、そこに放りこんだった」

【まとめてて……10体くらいか?】

「551体」

【551の蓬莱!? あほちゃうか!? 死ぬやろそんなもん!】

「生きとるやろ。そこにおるやんけ」

【こわぁ……やる方も怖いけど、こなした兄ちゃんもこわいわぁ……】

「兄ちゃん、やっぱりすげえや……」

「私は別の修行だったけど、そっちも大変だったんだってばー!!」


 その副作用とでもいうべきか、ナァンバーンは蓬莱の名を聞くと条件反射で笑いだす体になってしまったが、それでも実力は大幅に上がったという。

 そうこうしている内に、料理が運ばれてきた。


「さぁさ、続きは食べながら話しちゃあどうだい?」

「ホーリェさん!」


 キャッスルパレスの食堂で働くその人物が山盛りの料理を運んできた。

 めいめい、テーブルについて食事をはじめる。


 それは一般的なオーサカ食であり、つまるところ山と積まれたお好み焼きだった。

 食べながら、ハルカスが頬を膨らませる。


「私の修行の話も聞いてよー!」

「ごめん、なんだかタイミングが合わなくて……どんなことしたの?」

「感覚を鋭くさせる訓練! 五感を閉じて、そのまま過ごしたの!」

【そら大変そうやなあ】

「でしょう? 何も分からなくて大変だったんだから!」

【あれ? 嬢ちゃん今、ワイに返事したか?】

「ばっちりしたよー! いのちの輝きくんの声が聴こえるようになったの!」

「すごいや! ハルカス!」

「へっへーん、褒めて褒めて!!」


 胸を張るハルカスと、無邪気にはしゃぐヒデヨシ。

 観嬢仙の表情は少し曇ったが、輝きくんだけがそれに気づき、しかし何も言わなかった。


 ウメダ遺跡やヒョーゴスラビアでのことをヒデヨシが話す。


「ランディっていう人が、またケンカしたいって言ってたよ。兄ちゃん」

「ふははは! 今の俺様は無敵だぞ! 影式も修理してもらってるからなおさらだ!」

「ねえ、いいケンカと悪いケンカってあるの?」

「あるさ! やりあった後にお互い笑えるのがいいケンカだ!」

「ううん……やっぱりよくわかんないや」


 その夜、ヒデヨシはベッドに横になるなり深い眠りについた。

 ずっと、気を張っていたのだろう。気の許せる相手と過ごして、数日の疲れが一気に出たのだ。


 ヒデヨシが起きない事を確認して、輝きくんは部屋を抜け出して誰もかれも寝静まった場内を跳ねていく。


 城のテラス。

 夜風が静かに吹くその場所に、先客がいた。


【おう、ここにおったか】

「コア、一個奪われたんやて?」

【せやなあ。まあ、取り戻したらええやろ。タイ・ヨーノ・トー動かすだけやったら、三つもあったらいけるて】

「あんた含め、全部で5つのコア。……5人分の……()

【わかっとると思うけど、ヒデヨシにそれ言うたらあかんぞ】

「そうやな……。ほんで、気になることがあるんやけど」

【ワイもや。巫女の嬢ちゃんのことやろ】


 輝きくんが青い目をぐりん、と観嬢仙に向ける。

 観嬢仙は目を伏せ、少し間を置いてから言った。


「たぶん、あの子、人間ちゃう(・・・・・)

【やっぱりか。こないだ、カーニィに乗せて戦った時、妙に違和感あったんや】

「詳しくは分からんけどな。昔の遺産との適性が高すぎんねん」

【可能性としては、後天的な改造か? 嬢ちゃん、いつから巫女やっとったか覚えてへん言うとった】

「……あとは生まれる前から……いや、あくまでも憶測やから、確定するまではなんも言わん」

【もちろん、誰にも何も言わん、のつもりでええな?】

「せやな。ウチも今後は同行するわ。そしたらはっきりするやろ」


 一陣、風が吹き付けた。

 それ以上、二人は何も言わなかった。


 二人の密かな密かな会話は、誰にも聞かれることなく夜空に消えていった。




   ○   ○   ○




 翌朝、女王から、オーサカの南にある国、アリッダーへ行くようにと告げられる。次なる封印の地はそこだった。

 勇者ナァンバーン、観嬢仙も同行することになった。トンボリ将軍は、女王の命を受けて、浮上したウメダ遺跡に視察に向かう事となった。


「女王様! わたしも! わたしも行きたいです!」

「ならぬ……と言っても勝手に行くのであろう?」


 ハルカスがぴょこぴょこと手を挙げ、女王は溜息をつく。


「巫女よ。そなたはオーサカ国、唯一の巫女である。くれぐれも、無事に帰るのだ」

「はぁい!」

「先日から国中の機神の結晶にエネルギーチャージしておったからな、こうなるとは思っていた」


 玉座から立ち上がって両手を挙げる。

 それは以前にも見た、宣誓のポーズだった。


「機神群が動力切れになる前に、必ず帰ってくるのだぞ」

「分かりました! 女王様!」


 こうして、ヒデヨシ、ハルカス、観嬢仙、ナァンバーンは農水産の交易量で大陸随一を誇るアリッダーへ向かう。


 キャッスルパレスを出る前に、食堂で働くホーリェが道中の食料を渡してくれた。

 ヒデヨシが渡したスティックタイプの非常食を参考に作ったというそれは、携行にとても便利そうだった。


「アリッダーに行くんなら、ひとつ頼まれてくれないかい?」

「どうしたの?」

「あそこの国には、幻の果実ってのがあるらしいんだ。料理の幅が広がると嬉しいから、見つけたら持って帰ってきておくれ」

「幻の果実……うん、探してみる!」


 輝きくんコアを探すついでに、おつかいも頼まれ、平和な出発だった。


「そういえば、ハルカスと観嬢仙はどうやって移動するの?」

「えっへへー。わたしも機神に乗るんだ! 観嬢仙さまとの修行で、エネルギー結晶なしで動かせるようになったから!」

「オーサカ国にあった古い機体やけどな。ウチはハルカスのに乗っていくわ」


 エネルギー結晶が取り付けられず、使用できないとされていた古代機神に、ハルカスは乗るという。


 城の外に、それは置いてあった。


「これが私の機神!」


 丸みを帯びた胴に、逆間接型の長い二脚の足。アームはなく、影式と同じくすっぽりと操縦席に乗り込むタイプのものだった。


「わぁ! カーニィよりも背が高い!」

【お、これはレアもんやのう】

「移動には最適や思てな。偵察によく使われとったやつやろ、確か」

「あ、名前! 名前まだ決めてなかった!」

「輝きくん、あれの名前、なんていうの?」

【ええっとなあ、確か、クラブ=ダ=チョーンやったと思う」

「そんなカッコ悪い名前、いや!!」


 名前は道中で考えることになり、とりもあえず、と一行は南を目指す。

 アリッダーとオーサカ国の境目には、二つの国を隔てる山がある。そこを通る交易路を使っていく計画だった。


 カーニィ、影式、ダ=チョーン(仮)。三体の機神は、水の都オーサカを後にして歩き始めた。

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