第8話『オリコを倒せ! 逆転のドリル!!』後編
なんとかオリコを撃退し、目的の鉱石を手に入れたヒデヨシ。
しかし、バンパク鉱の使われている四足機神をどうやって運ぶかが問題だった。
ドリルがめり込んだ四足機神は駆動部が大破しており、自立して動くことはできなかった。
掘削機械も戦闘の影響で片方のキャタピラが歪み、おまけに両アームのドリルもない。
【いっぺん、アッカシ―に戻らなあかんな】
「歩いて戻ったら、どれくらいかかるかなあ」
「今からだと、夜明けくらいになると思う、よ」
「そんなに!?」
【来る時は全速力でかっとばしてきたからなあ】
すでに日は落ちており、辺りはうす暗がり。
これは、夜を明かす流れだなと自然に考えた後で野営の選択肢があまりにも自然と出てきたことに対してヒデヨシは笑った。
「急に笑って、どうしたの?」
「ごめんごめん、異世界に、慣れてきたんだなぁと思ってさ!」
【せやなあ。ほとんど外で寝とるからな。今日は周りに木もあるし、焚火でもしよか】
「きみ、異世界人なの?」
「うん。何日か前に、この、いのちの輝きくんに呼ばれて来たんだ」
肩口に乗る、三つ並んだ赤い団子状の球体を指して言う。
はりぃは目をきょろりとさせてヒデヨシと球体を交互に見た。
「ボク、ヒョーゴスラビアの外も知らないや。ねえ、きみの住んでた場所のこと聞かせてよ」
「もちろん!!」
ハリィが光に弱いというので、焚火を起こすのはやめておいた。
ドリルのない掘削機械のライトを夜空に向けて、わずかに伝播する光の下で二人は語り合う。
鉱山入口の山肌からは、月白色の光が一筋、夜空に向かって伸びていた。
○ ○ ○
朝、壊れた掘削機械の座席で目を覚ますと、街で会った虎型の獣人と、同じく猫科の姿の武装した獣人が姿を現した。
「無事か、ボウズ。夜空に明かりが出てたってんで、何かあったかと来てみたが……」
「ランディさん!」
「お、ハリィじゃねえか。無事か!?」
虎型の獣人、ランディ=バースォカダは状況が飲み込めなかった。
壊れたヒョーゴスラビアの機械と、見た事もない四足の機械。しかもドリルが刺さっている。
何があったのかとヒデヨシにたずねた。
「ハンナリィ帝国の奴らがきて……」
話を終えると、猫科の獣人たちの間にざわめきが起こる。
それは「こんな子どもが」「生産系の能力で勝つなんて」といったどよめきであり、それはしばらくして、ならば帝国にももっと対抗できるのではないかという希望に代わっていった。
「ナァンバーンに勝っただけのことはあるな、ボウズ!」
「でも、ハリィがいなきゃ勝てなかったよ」
「そんなら、ハリィ。お前さんも大したもんだぜ」
肉球のついた手で、もにもにとハリィの頭を撫でる。
帝国は、決して勝てない相手でないのだ。
そして、四足機神を運びたいのだとヒデヨシは伝える。
大きさ、およそ2メートル。その金属の塊を運ぶには、ランディたちでは少々力不足だった。
「ちょいと待ってな。おい! 誰か街に戻って運搬用の機械とってこい!」
「ありがとう!」
四足機神と掘削機械を回収し、一行は港町アッカシ―へと戻った。
○ ○ ○
港町で、再びタコの頭をしたアカシャと話をする。
「あの、俺、貸してくれた機械壊しちゃって、ゴメンなさい!」
「構わん。それよりも、無事でよかった」
「俺、これからあの四本足の機械をウメダ遺跡まで運ぶんだけど……」
「ああ、ランディを守りに付けよう。いつまた、帝国が襲ってこないとも限らぬ」
「でも、それじゃ街には?」
「君とハリィが教えてくれたのだ。我々でも、互いに力を合わせれば勝てると」
目を細めて、触手をヒデヨシの方へ伸ばしてくるアカシャ。
ヒデヨシも笑って「うん!」と握手をした。
「ふふ……」
「どうしたの?」
「我々には、このような習慣はなかったが、なかなか悪くないと思ってね」
「そっか!」
もう一度、強く力を入れて握り返す。
建物を出ると、ヒデヨシの三輪カーも街道に用意されていた。
その前に、ハリィが立っている。
「ねえ、ヒデヨシ。ぼくもウメダに行っていいかな」
「もちろん!」
ランディの他にも頭数をそろえ、それなりの人数で一行は港町アッカシ―をあとにする。
道中、幾度か休憩を挟みつつ、順調に行軍は進んだ。
「勇者の野郎にあったら言っとけ。次のケンカは俺が勝つってな」
「ケンカしたの?」
「おうよ、実力試しみてぇなもんだ。ありゃあ良いケンカだったぜ」
「ケンカに、良いケンカと悪いケンカがあるの?」
ランディは頬から伸びた数本の猫ヒゲをひくひくさせてから、大きく笑う。
「ぐぁははは! そのうちボウズにも分かるさ!」
「ふうん。ケンカはダメだって学校で言われてるけどなあ」
納得がいかないという顔をしながらも、ランディが楽しそうに語るのを見て、そういうものなのかもしれないとヒデヨシは考えた。
ナァンバーンに会って、同じことを聞いてみたいような気もした。
やがて、目の前にそびえる二本の塔が見えてくる。
「うおっ、なんだありゃあ。あんなもん、前まで無かったぞ」
「あれがウメダ遺跡だよ! 地下に埋まってたんだ!」
「はー……すげえな……」
塔の前までたどり着き、ウメダ遺跡を整備すると言っていたタマ=ツクリンを呼ぶ。
少しの間を置いてから、ばたばたと遺跡の中からタマが現れた。
「とってきたんけ! 鉱石!!」
「うん! 石は無理だったけど、四つ足のやつは手に入れた!!」
ヒデヨシはピースサインでそれに応えた。
○ ○ ○
ランディ達はヒョーゴスラビアに引き返したが、ハリィはまだ残っていた。
ウメダ遺跡、そしてその周りに広がるクレバスを見て、目を輝かせる。
土を掘る彼ら種族にとって、地層の見えるクレバスは魅力的な地形なのかも知れない。
「いんやぁ、遺跡の整備はあんまり進んどらん。どうにも、鉱石が足りん」
「あ、あの、ボクが採って集めましょうか!?」
「おめ、ヒョーゴスラビアの穴掘り族でねか。そりゃあ、ここいらにある鉱石を掘ってくれたら助かるべな」
【加工は大丈夫なんかいな】
「取った石は加工できるの?」
「そら心配ねべ。炉があるけ」
「そっか」
ふんす、と鼻息を鳴らしてタマは工具を取り出す。
四足機神を見る間に解体していくタマの姿はとても活き活きしていた。
「材料さえありゃ、すぐに直してやるけ、ちょい待っとれ」
「ありがとー!」
【いやあ、ようやくカーニィ復活やな!】
数時間の後。
修理を終えたカーニィの機体は、やけに懐かしく感じた。
乗っていなかったのはたった数日だが、それだけヒデヨシがカーニィと過ごしてきた時間が濃いものだったのだと分かる。
両腕の、パンを挟む様なトング型のアーム。
ずんぐりとした、赤い胴体。
ぽん、とカーニィの足を叩いて「また、よろしくな!」とヒデヨシは言った。
「ちょこちょこ変えたけ、動かしてみ」
【お、新機能お披露目やな!】
「わかった!!」
「これが、ヒデヨシの機神……すごいなあ」
操縦席に乗り込み、輝きくんが機体にエネルギーを走らせる。
ほのかに輝く機体が、駆動音を立てる。
「まんず、動きやすく。胴にブースター取り付けたけ、移動に役立てろ」
「おおお」
「そんで、腕のパーツじゃけど、取り外し可能にしたけ」
「おおおおお!」
試しに、右アームの先端を、左アームで掴むように取り外してみる。
「ド派手ブーメランがいつでも出せるね!」
【ほぇー、さすがツクリン族】
「あ、もしかして……」
再度先端パーツを取り付け、両アームを上に。ジャイロを形作った後に、右アームを外す。
展開されたジャイロはそのままに、先端部分のない右アームだけが自由に使える形になった。
「おおおおおおお。片手が空いた!!」
【ほほー。しかしそれでどないするんや?】
「……さぁ?」
とりあえず、坑道の幅が広がったことだけは分かった。
「ほんで最後じゃけんど」
「まだ何かあるの!?」
ヒデヨシの目が輝く。
「泡を出す機能があったべ。それはそのままに、物を格納する場所をつくったけ、荷物でも入れろ」
「これかな?」
がぱん、とカーニィの胴が開く。そこには、ヒデヨシがちょうどしゃがんで入れるかどうか、といったくらいの空間があった。
【ええな! 食料やら何やら、ここに入るやんけ!】
「すっごいや! ありがとう! タマ!!」
「また壊れたら直してやるけ、持ってくるとええ」
「分かった!!」
新たな機能をつけて、パワーアップしたカーニィ。
封印されていた輝きくんのコアに関しては残念ながら帝国に奪われてしまったが、気を取り直して次の場所に向かおうと気合いを入れなおした。
「じゃあ俺、オーサカキャッスルパレスに帰るよ!」
ハリィが首をくいっと曲げて舌先を出す。
「ボクはここで鉱石を採って、遺跡の修理を手伝うね」
「うん! 頑張って、ハリィ!」
赤い古代機神、カーニィ=ドウラックは再びオーサカへの帰路につく。
次なる輝きくんの封印目指して、意気揚々と街道を進むのだった。
次話予告!
オーサカキャッスルパレスに戻ったヒデヨシは、ハルカス、ナァンバーン、観嬢仙らと再会する。
次に目指すのは、南の穀倉地帯、アリッダーの国! 次こそ輝きくんのコアを集めることができるのか!?
「カーニィ、パワーアップしたね!」
【こら調子ええで! 一気にコア集めといこか!】
「アリッダーってどんなところ?」
【カンサイ大陸の中でもいっちゃん、農水作物の収穫量が多い土地や】
「おいしいものあるかな!?」
【お、とっておきのやつがあるから楽しみにしとき】
第9話
『アリッダーでひと休み! 温泉旅館で豪華なごはん!』前編
次回もド派手にオーサカだぜ!!




