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第8話『オリコを倒せ! 逆転のドリル!!』前編

 キャタピラを回転させ、突進を繰り返すヒデヨシ。

 そのどれもがかすりもせず、オリコはけらけらと笑いながらそれを避け続けた。


「ほらほらぁ、がんばれがんばれ」

「く……っそぉ……!」


 辺りを見回すと、ハリィいつのは間にかいなくなっていた。


「あれぇ? キミ、見捨てられちゃったかな?」


 オリコが挑発する。

 無事に逃げてくれたなら、それでよかった。またも掘削機械を突進させる。


「当たらないよぉ」


 黒機神が横に躱そうとする。

 それを見てから、ヒデヨシは片方のドリルを地面に突き立てて急旋回し、避けられた方向に食い下がる。

 急激にかけられた遠心力で機体が浮き上がるが、逆にそれを利用して黒機神に体当たりを試みた。


「お、っとぉ」

「まだまだぁ!!」


 さらにもう片方のドリルを目いっぱい伸ばす。

 ドリルの先が、少しだけ黒機神の胴体を掠めた。


「くふふ、やってくれたねぇ。じゃあ、ごほうびアゲル」


 オリコの眼が見開かれ、黒機神の速度が上がる。

 容赦のない三節昆アームの乱撃に為す術のないヒデヨシ。


「うわぁぁぁぁぁ!!!」

「アハハハハハ!! あぁ、楽しい!!」


 ぐるんと黒機神が一回転し、勢いのついたアームが掘削機械を打ちすえる。

 勢いを殺し切れずに吹き飛ばされ、鉱山入口の壁に激突してようやく止まった。


「う……ぐ……」


 激しい振動に意識が飛びそうになるヒデヨシ。

 輝きくんも必死にエネルギーを展開するが元の機体差がやはり大きかった。


【きばれや! ヒデヨシ!】

「うん、ありがとうっ!」


 今現在できることといえば、ドリルにエネルギーを纏わせて拡散し、シールド状の層をつくること。そしてドリル全体にエネルギーを纏わせた突進。替えが効かないが、ドリルアームの射出。対して相手の動きはそれをはるかに上回る。


「そろそろ潰しちゃおうかなぁ」


 がしり、がしりと黒機神が近づく。

 オリコの眼は、獲物を追い詰める捕食者のそれだった。


 後ろに下がり、鉱山内に逃げる。

 振り下ろされる三節昆アームをかろうじて躱しながら後退し、少しだけ広いで距離を取る。


【ここやったらミサイルは打たれへんやろ、天井崩れたら相打ちになってまうからな】


 それでも、依然危機は続く。


「くふふ、なぁんにもできない。キミも、ヒョーゴスラビア人も」

【余裕の顔しよってからに、ムカつくわぁ……!】

「特化した能力ぅ? そんなもの、弱点を増やすだけじゃない」

「そんなことない!!」

「だぁって、実際に帝国に簡単に土地を取られてるのに」


 くすくすとオリコが笑う。


「夜目の効かない鳥の地区は夜に攻めておしまい。水棲系の地区は水を汚しておしまい。ほんと、簡単」

「なんてひどいことをするんだ!」

「負ける方が悪いんじゃない。穴を掘るしか能のないさっきの子だって、逃げちゃったし。それが賢い生き方かもねえ」

「そんなことない!! 力を合わせればなんだってできる!!」


 まるで汚いものでも見るかのように眉をひそませるオリコ。


「うわぁ、いやだいやだ。弱っちいのは群れても弱いままよぉ?」


 ヒデヨシは操縦桿をきつく握る。

 これまで一度たりとも出会ってこなかった、悪意の塊。

 その姿を目の当たりにして、それでも何もできない自分にすら怒りを覚える。


 そしてもう一人。

 オリコの言葉を聞いていた人物が土の中にいた。


 土を掘るしか能がない、と言われた存在。

 ヒョーゴスラビアの鉱山資源の採掘を一手に引き受けてきた第五自治区の亜人。


 ハリィ=マッサンダーが土の中で震えながらオリコの話を聞いていた。


(……ボクは、何もできない。音に弱いし、光に弱い。少し姿を消せて、土が掘れるだけ……)


 その鉱石は今、帝国に奪われるだけの日々。

 相応の対価もなく、生活は貧しくなるばかり。


 それでも、掘るしかなかった。


 頭部にある、硬く尖った外皮で土を掘り、なけなしの鉱石を集めるしかなかった。


(役に、立てるかもしれないと思ったんだ。ボクの掘った鉱石で。ボクの、できることで)


 きつく、目を閉じる。

 逃げても、何も変わらない。けれど。


 体は震える。


「俺だって、全部のことはできない!!!」

「……はぁん? 知ってるわよぉ?」

「輝きくんがいないと機械も動かせないけど、でも!!」


 右のドリルを突き出し、高速回転させる。

 エネルギーを纏ったそれは白く輝き周囲にはプラズマが爆ぜる。


「お前は絶対に許さない!」

「言うだけなら、勝手よねぇ」


 ヒデヨシのゴーグルには、黒機神の足元に潜って隠れているハリィの情報が映っていた。


「力を合わせれば絶対に勝てる!!」

「一人で言ってもねえ。そろそろウザいから、これで終わりにしてあげる」


 極限まで溜めたエネルギードリルを、ヒデヨシは天井に向けて(・・・・・・)放った。


「ド派手ドリルキャノーーーン!!!」

【ヒデヨシ!?】

「なッ!?」

 

 天井に着弾したドリルを起点にして、崩落がはじまる。

 三節昆アームを上げて落石を防ぐ黒機神。ヒデヨシも、残ったもう一方のドリルを回転させてシールドを発生させる。


(岩が当たる音……そこに、帝国の機神がいる……)


 崩落は止まり、焦りの色を含んだ声でオリコは言った。


「く、くふふ……生き埋めにでもしようと思ったの? 残念ね、鉱山の土が頑丈で当てが外れたかしらぁ?」

「その頑丈な土を、ハリィはずっと掘ってきたんだ!!」


(そうだ、掘るのが、ボクの……)


 ハリィの震えが止まった。

 帝国の機神の位置は、石の当たる反響音ではっきり分かる。


(ボクの、――できることだ!!)


 地面を突き破り、弾丸のようにハリィがその身を回転させながら黒機神を狙う。

 回避の隙を与えず、オリコの乗る黒機神の肩口を穿ち射抜く。


 三節昆アームの片方、そして肩にあったミサイルの発射口がごとりと落ちる。


「なん、ですってぇ!?」

「ボクの国から出ていけ! 帝国め!!」

「こ・の、ゴミめぇぇぇ!!」


 残ったもう一方の三節昆アームで滞空していたハリィを弾き飛ばす。


「ぎゃあッ!!」


 その一瞬のやりとりで、わずかに生まれたオリコの隙。

 ヒデヨシから意識をそらしたその瞬間に。


 掘削機械に残されたもう片方のドリルアームに、ありったけのエネルギーを込めて黒機神目がけて撃った。


「いっけええええ!!!」

「しまッ……!!」


 迫りくるドリルを叩き落とそうと咄嗟に操作するが、ハリィに落とされたアームは足元に転がってその操作を受け付けない。

 ドリルに蓄積されたエネルギーが、閃光と共にオリコを襲った。




   ○   ○   ○




 急激な光源に、ハリィとヒデヨシは目を覆う。

 徐々に明るさが収まってくる。


「……やっつけた?」

「眩しい、眩しいぃ」


 ハリィは再び地面に潜る。

 ヒデヨシが視線を向けた先には、想像と違う状況が映っていた。


「不甲斐ナイデスネ、オリコ」

「あんた、新入り……!」


 黒機神の前に、四足の機神。その胴体にドリルは刺さり、オリコの乗る機体に攻撃は届いていなかった。

 そして四足の機神には、ヒデヨシが良く知る仮面の人物。


「……ゲッソー!!」

「オリコ、帝国命デス。撤退セヨ、ト」

「はぁ!? あのゴミ共に虚仮にされたまま帰れないんだけどぉ!」

「命令ニ背クノでスカ?」


 憎々しげにオリコはゲッソーを睨む。


「新入りのくせに、気に入らないわぁ……!」

「ソノ新入リニ負ケタノハ誰デショウカ」

「――ッ! ああ、もう! ムカつくわね! 帰還すればいいんでしょう!?」


 片腕だけ残った黒機神ががしり、と動く。


「待て! ゲッソー!!」

「ドリル、両方トも撃ッタ状態デ、何カデキマスカ?」

「……!」


 ゲッソーは四足機神からふわりと跳びあがり黒機神の肩に乗る。


「マタ会イマショウ」

「ちょっと! どうしてこっちに乗るのよぉ!」

「アの機神ハモウ使エマせン。アナタガ受ケルハズノ攻撃ヲ代ワリニ受ケタカらデス。感謝シテクダサイ」

「ふん、手に入れたばかりの機神が壊れていい気味だわ」


 胴体にドリルがめり込み、煙を上げる四足機神を乗り捨てて、帝国の二人、オリコとゲッソーは立ち去ろうとする。


「くそっ……」

【やめえ、確かに今はなんもできん。ここだけの話、エネルギーもほとんどからっぽや】

「でも、ハリィの採ってくれた鉱石が……」

【悔しいけど、しゃあない】


 操作パネルを、がん、と叩く。

 オリコが振り返って鋭い眼でヒデヨシを睨んだ。


「次は有無を言わさず潰してあげるから、覚えておきなさい」


 ヒデヨシも負けじと睨み返す。

 黒機神はゲッソーを肩に乗せて鉱山から去っていった。


 ハリィが地面から顔を出す。

 たっぷり時間をかけて、彼らがもう戻ってこないことを確認してから、輝きくんが笑いだした。


【ふっふっふ……】

「どうしたの? 輝きくん」

【ふはははは!! アホやあいつら!! おい、やったでヒデヨシ!!】

「だからどうしたの?」

「ボクの鉱石、取られちゃってゴメン……」

【大丈夫や! ここにあるがな!!】


 輝きくんはドリルの刺さった四足機神にぴょん、と飛び乗る。


「……あー! ほんとだ!!」


 ウメダ遺跡でタマが言っていたことを思い出す。

 遺跡に眠っていた四足の機神にも、修理に使う鉱石が使われていると。


 ゲッソーが乗って去ってしまったその機神は今、壊れた状態で目の前にある。

 結果的に、ヒデヨシはバンパク鉱石を手に入れることができた。


「この機械に、欲しかった鉱石が使われてるの?」


 ハリィが不思議そうにたずねる。


「うん! ありがとう! ハリィが帝国の黒いヤツを壊してくれたおかげだよ!」

「え、えへへ、そうかな……」


 舌をちろちろと出して照れくさそうにハリィは言う。


 ヒデヨシは「うん!」と力強く頷いた。

 鉱山の入口からは、西日が穏やかに差しこんでいた

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