第6話『輝きくんが二人!? ウメダ遺跡、大浮上!!』後編
クレバスに橋をかけるように、こちらの岸とあちらの岸に二本の塔が高くそびえ、その間を回廊が繋いでいる。
それまで地下に埋まっていた部分が全て地上に現れ出たため、最下層付近にいたヒデヨシ達は地上付近にいた。
ゴーグルマップを頼りに外へ出ると、機神カーニィが沈黙していた。
「輝きくん!」
【よっしゃあ! イケるで!!】
走って機神に飛び乗る。ぎこちない動きでカーニィは動き出す。
取れた右アームのせいでバランスをうまく取れずよろめくが、機体自体はなんとか動く。
「これならなんとか戦えるよ!」
残った左アームだけでは砲門も作れず、ジャイロを形成することもできない。かなり機能は制限されるが、身一つで逃げるしかなかった
ヒデヨシにとっては、それでも心強かった。
塔を見上げる。
高さ30mほどの塔と塔を繋ぐ中間通路に、四足の機神がいるのが見えた。
「あんなところに……」
【ヒデヨシ、あれ使え!!】
「どれ?」
【向こうに落ちとるあれや!】
輝きくんの視線の先には、取れた右アームが転がっていた。
腕からちぎれてすっかり曲がってしまったアームは、元には戻りそうにない。
【どうせ壊れたんや! ブン投げたれ!】
「そっか! ブーメランだね!」
アームの先端、二股に分かれたパーツの片側を挟み、振りかぶるように構える。
輝きくんからボディを通してエネルギーを送られたアームの欠片は、バチバチと余剰エネルギーを弾けさせる。
「ド派手カッターーーー!!」
思い切り振り抜き、カーニィから投げ出されたVの字型のアームの一部は高速回転しながら中間通路目がけて飛んで行った。
円盤状に輝くエネルギー体は中間通路を切り裂き弧を描いて遠くの地面へと突き刺さる。
中間通路がぎしりときしみ、二つに割れる。
「よーし!」
【やったか!?】
しかし、四足の機神は崩れていく中間通路を駆け抜け、塔の壁面にその足を突き刺した。
垂直な塔の壁面を、四つの足を突き刺しながら上がっていく。
「うわ、壁歩いてる!」
【けったいなやっちゃな! しかし上に行かれたら手が出せん!】
「どうするつもりなんだろう」
塔の最上部まで登った四足機神から、ゲッソーがこちらを見る。
カーニィの操作パネルの一部が光り、軽くノイズが走って通信チャンネルが開かれた。
『機神ヲ通シテ失礼スルヨ、ヒデヨシ。今日ハココマデにシテおク』
「その声、ゲッソー!!!」
『マサかウメダ遺跡ガ復活スルトハネ……』
「白い輝きくんをどうするつもりだ!!」
『帝国ノ大陸統一ノタメ、有効ニ使ワセテモらウヨ』
四足機神が青白く輝き四つの足の接合部からエネルギーを放出して飛び去っていった。
「ゲッソー!! ゲッソー!! お前は許さないぞ!!!」
操作パネルに向かって叫ぶが、もう返事はない。
そして上空、眼下に粒のように見えるヒデヨシを見下ろしてゲッソーは仮面の下でくすりと笑う。
がちゃりと仮面を外し、大きく息を吸う。
仮面を外したその下には。ヒデヨシと共に異世界に来て、ハンナリィ帝国にさらわれた幸村サナの姿があった。
「はぁ、息苦しかった。簡単に騙されてくれたねー」
ウメダ遺跡に入る前に戦った機神に乗っていたのは、彼女ではなく服装だけを被せた別人だったが、ヒデヨシはまったく疑う素振りを見せなかった。
四足の機神はそのままハンナリィ帝国へと戻っていく。
○ ○ ○
塔から、タマ=ツクリンが出てきて、ヒデヨシに声をかける。
「おう、それ、おめの機体け」
「タマ! うん、でも壊れちゃって」
「そがな程度、直してやるけ」
「ほんと!?」
【ツクリン族は機械系にめっちゃ強いんや。まだおってくれてほんまに助かった】
カーニィから飛び降りて、あらためてヒデヨシはタマに礼を言う。
ヒデヨシを見上げ、タマは笑った。
「ウメダを動かせたんば、おめのおかげだ。こちらこそ、ありがてえ」
遺跡を守っていたツクリン族は、ウメダの封印が解かれた時は遺跡を動かすようにと、数千年前から言われていたのだと言う。
長年、代を重ねてウメダ遺跡を管理してきたが、徐々に数が減り、今では自分一人しか残っていないとタマは言った。
もじゃもじゃのひげを揺らして、数千年の約束を果たせた事に想いを馳せる。
「動かして初めて整備せにゃなんねえ場所も分かったで、まだまだやることはある」
「そっか。でも、このウメダ遺跡って、何なの?」
動く、ということにばかり気を取られたが、そもそも、どういった目的で作られた建造物なのだろうかとヒデヨシは気になった。
【空中要塞やな】
「ご先祖さまからは、空を飛ぶ城やあ聞いとる。ま、機能のほとんどは死んどるけ、今から直すけんども」
「そんなすごいものだったんだ……」
それより、とタマがカーニィに触れる。
「これ、直さんでええんけ」
「直す直す!」
【めっちゃ助かるわほんまに!】
ひげもじゃの中に手を入れて、ずぼ、と工具類を取り出す。
だが、あちこち見て、タマの顔が険しくなる。
「えらい古い機体やの。駆動系にもガタがきとる」
「……直せない?」
「素材が足んね」
タマは頭を掻いた。
「カーニィシリーズに共通して使われとる鉱石がここにはねえけ、困った」
「どこにあるの? その、カーニィの材料って」
「古代の鉱石やあて、今はどこにもねえ」
「そんなぁ」
そこで、ぽん、と手を打つタマ。
「回廊の間の大広間に一機、昔の機体があるけ、そっから拝借すべ」
「あ、それなら……」
それはゲッソーが先ほど乗って去ってしまったものだ。
どうしたものかと二人で頭を抱えていると、輝きくんが言った。
【寄り道になってまうけど、ヒョーゴスラビアに行こか。昔はそこで鉱石集めとったんや】
「ヒョーゴスラビア……」
「んあー、廃坑になっとるけんど、一機分くらいなら残っとるかも知れん」
「行ってみるよ。ぜったい材料持ってくるから!!」
「頼んだ。乗り物ば、やるから使え」
倉庫のような場所で、三輪駆動の乗り物を譲り受ける。
「うわあ! 車だ!! 使っていいの?」
「わぁは整備せにゃならんけ、おめに頼む」
「いいのかな、俺、免許ないけど……」
【小さいこと気にしたらあかんて。そもそもヒデヨシ、重機の免許も持ってないやんけ】
「そっか、今さらか」
意気揚々とオープンカータイプのその三輪に乗り込み、操縦部に輝きくんが張り付く。
カーニィ同様、輝きくんを動力として動かすことが可能だった。
クレバスの先、つながった街道の向こうを目指す。
空に向かって突き立つウメダ遺跡を振り返り、ヒデヨシは大きく手を振った。
○ ○ ○
カーニィの歩行よりも、三輪カーは速かった。
前に二輪、後ろに一輪がついたタイプのもので、街道をスムーズに進んでいく。
「ねえ、ヒョーゴスラビアってどんなところなの?」
「せやなあ。めっちゃ色んな見た目のもんが多い」
「色んな見た目?」
「どない言うたらええかなあ。あ、あいつ。ワイとヒデヨシが初めて会うた時に、ワイを囲んどった奴ら!】
「……猫?」
【ネコ、いうんか。あれが大きゅうなって二本足で立っとる感じ】
「へえぇ!」
【色んな動物やらの力を使って進化してきたさかいな。他の動物の力を持ったもんもぎょうさんおるで】
「そうなんだ」
様々な獣人の国。それがヒョーゴスラビアだと輝きくんは言った。
その体の特性で住む地区が分かれているので、ヒョーゴスラビアは多くの風習を持った地域に分かれているのだという。
その身体能力を活かし、鉱石類の採掘に力を入れている地域が、かつてあった。
そこを目指すらしい。
【アーケノベ鉱山っちゅうんやけどな。オーサカ国以外の国でも、ここで採れる鉱石にお世話になったんや】
軽い予習のような地理の話に、ヒデヨシは学校の授業のようだと思った。
そして、元の世界では今頃自分の扱いがどうなっているだろうと考える。捜索願が出されているかもしれない。
やはり、一刻も早く目的を達成して、元の世界に戻りたい。
ヒデヨシは強くそう思った。
【まずは、国の中心、港町アッカシーに向かうで】
「王様とかいるのかな」
【いや、ヒョーゴスラビアに王はおらん。それぞれの地区の代表が話し合いでなんでも解決するんや】
「へー。いろんな国があるんだね」
無事にカーニィ修理の材料が手に入りますようにと願いながら、人生初の車の運転にテンションが上がるヒデヨシだった。
景色は、前から後ろに風と共に流れていく。
次話予告!
新たな国、ヒョーゴスラビア!
獣人たちが暮らすその国で、ヒデヨシはカーニィを修理するための材料を探す。
けど、なかなか見つからない……。どうする、ヒデヨシ!
「ヒョーゴスラビアの人って、怖くない?」
【見た目がちょっと違うだけや。あんまり気にするもんちゃうで】
「そっか。輝きくんも、変な見た目だもんね」
【ワイは元の姿に戻ったら超絶かっこええんやぞ!!】
「えー。ほんとかなあ」
第7話
『アーケノベ鉱山大探検! 探せ幻の鉱石!』
次回もド派手にオーサカだぜ!




