第6話『輝きくんが二人!? ウメダ遺跡、大浮上!!』前編
ゴーグルに映し出されるマップを確認しながら、制御室を目指す。
改めて、このウメダ遺跡がいかに巨大で、いかに複雑かがよく分かった。
地図から確認できたこのウメダ遺跡のおおまかな形は、二本の塔が地下に埋まっているようなもので、それぞれの深さはおよそ70mほど。
制御室はちょうど片側の塔の中ほどにあり、そこからもう片方の塔に続く通路があるようだった。
二つの塔の最深部は大きな回廊で繋がっていることも分かった。
Uの字型になっている遺跡なのだと、ヒデヨシはマップを見て初めて理解した。
「制御室は……こっちか!」
そこへ向かう途中で、リュックを置き捨ててしまったホールにも立ち寄り、荷物を回収する。
目的の制御室には、誰の姿もなかった。
「ゲッソー、どこ行ったのかな……」
制御室から先へ続く通路、マップによれば、二つの塔を繋ぐ中間通路への扉が開いていた。
最後に聞こえたのが叫び声だったこともあり、何かあったのかと慎重にそちらへ向かう。
進むと、外からの空気の流れを感じた。
どうやら中間通路はクレバスを貫いてもう一方の塔へ繋がっているらしかった。
大地の裂け目から、空を見上げることができた。
吹き抜け状のその中間通路に、ゲッソーが倒れている。
「ゲッソー!」
慌てて駆け寄り、肩を揺らす。
「ウ、うウ……」
「しっかりしてゲッソー! 何があったの!?」
「遺跡ノ防衛者ニ襲ワレマシタ……」
「防衛者?」
「遺跡ノ最深部デ眠ッテイるハズノ機械デス……誰カガ動カシタノカモ」
「ハンナリィ帝国かな……」
ウメダ遺跡の入口で、ハンナリィの機神と戦闘になったことを思いだす。
先にこのウメダ遺跡に来て、何かしていたのかも知れない。
「アイツハ、ボクヲ襲ッタ後、向コウノ方へ……」
崖面に伸びる通路の先。もう片方の塔への入口をゲッソーが指さす。
「遺跡ノ最下層……神殿部ニ、防衛者ヲ止メル装置ガアルハずデス」
「それじゃあ、見つからない様にそこまで行けばいいんだね」
「ハイ。デスガ、トテモ危険デス」
「でも、また襲ってきたらもっと危ないよ」
力強く頷き、ゲッソーに肩を貸す。
「……アリガトウゴザイいマス」
二人は、もう片方の塔の中へと進んでいった。
クレバスの中空にぽつんとかかるその中間通路に、谷間を抜ける風が一迅、強く吹き付けた。
二人が中間通路から去った数分後。風に飛ばされて、三つ並び団子状の赤い球体がぽてり、と通路に落ちる。
【っはーーー!! 死ぬかと思た! 死ぬかと思た!! 高速回転してゆっくり落ちへんかったら死んどった! マジで! 割とマジで!!】
目をくりくりと動かして、降り立った通路を見る。
【運よく中間通路に降りれたんか。……誰が通路展開したんや? 普段は収納されとるはずなんやけど……】
何はともあれ、ヒデヨシと合流しなければ。
ぴょこぴょこと跳ねながら、輝きくんは制御室のある、ヒデヨシ達が最初に入った方の塔へ向かっていった。
○ ○ ○
一方、ヒデヨシとゲッソーは地下へ地下へと歩みを進めていく。
変わらず複雑なつくりをした遺跡ではあったが、マップを頼りに最短ルートで進んでいったのでかなり時間の短縮になった。
そして地下、70m。
二つの塔を地下で繋ぐ大回廊の扉がヒデヨシの前にあった。
「ここまで、防衛者に見つからなくてよかったね!」
「……ソウデスネ」
これまでの扉とは違う、青銅色の、光沢のない扉。
取っ手もなく、ヒデヨシの倍ほどの大きさのそれは、マップがなければ扉なのかどうかも判別できなかっただろう。
「これ、どうやって開けるの?」
「コッチデス」
少し横に逸れて、壁をずらすと操作盤が現れる。
いくつものボタンと、何かの認識装置。
ゲッソーは慣れた手つきでそれを操作し、ヒデヨシを手招きした。
「ココニ、手ヲアテテ下サイ」
「こう? うわっ」
認識装置が光り、ヒデヨシは少しの脱力感に襲われる。
壁面を緑の光が走る。扉を無気質に走り回った光は逃げるように消え去り、青銅色の扉がゆっくり左右に開いていく。
同じような光景を見たことがあるとヒデヨシは思ったが、思い返してみればオーサカキャッスルパレスの地下でタイ・ヨーノ・ト―がある空間に入った時のそれと同じだと気が付いた。
「行キマショウ」
「う、うん」
回廊は広く、ゆるやかにカーブを描いて視界から通路を消していた。
さらに目の前には、大きな広間がある。そう、マップには記されている。回廊を少し進んだ辺りで、中央の広間に入る通路があった。
回廊も、通路の天井もすべて大づくりにできており、ヒデヨシが三人いても天井までは届かないのではないかと思った。
中央の広間には、二つの出入り口があった。ちょうど向かいにあるその通路は、回廊を逆に進んでいればたどりつけたのだろう。
大広間の天井は円形にガラス張りになっており、クレバスの上から地下深くまで、まっすぐ光が射していた。
その、中心部分。
光の下に。
青い機神が一機、静かに沈黙していた。
「!! あれが防衛者!?」
「……様子ガオカシイヨウデス。近ヅイテミマしョウ」
四つの足が均等に付いた、四足タイプの機神。
節足動物のようなその足はしっかりと地面を掴んでおり、動く気配を見せない。
胴には操縦席。大きさも、カーニィと同程度だが、アームはない。
恐る恐る近づき、足をよじ登って土埃だらけの操縦席を見る。
そこには、白い球体が一つ置かれていた。
「え……!? 輝きくん!?」
色こそ違えど、大きさは輝きくんとよく似ていた。
操縦席に飛び降りて、白い輝きくんを掴む。
扉を開けた時と同じような脱力感がヒデヨシを襲う。
わずかに光ったかと思うと、白球が青い目をぐりん、と開いてヒデヨシを見た。
「輝きくん! 大丈夫!? 貧血!?」
【……封印、解いたんはキミか?】
「――えっ」
操縦席に、ゲッソーが飛び乗り、ヒデヨシを追い落とした。
「ってぇ!」
「役目ハココマデ、ヒデヨシ。ゴ苦労様」
ゲッソーは黒い箱を取り出し、白い輝きくんを鷲掴みにして入れた。耳障りなノイズ音がきぃんと響く。
天蓬山で勇者ナァンバーンが受けたあの音だった。
「ゲッソー!? 輝きくん!? どういうこと!?」
箱から再び取り出された白い輝きくんの瞳は、血のように紅く染まっていた。
慌ててゴーグルを装着して相手を見あげる。そこに表示されたのは、警告色。赤い光がゲッソーの輪郭を覆っていた。
「そん、な……」
「次ハ、キミノ番ダヨ」
白い輝きくんが光り、腕の無い四足機神が動きはじめる。
「だましたのか!! ゲッソー!」
「ボクハ、役ニ立テル、トしカ言ッテナイヨ。帝国ノ役ニ、ダケドネ!!」
ガシリ、ガシリと四つ足が迫る。
歯を食いしばってヒデヨシは背を向けて走り出した。
輝きくんが、帝国に洗脳されてしまった。
自分一人では何もできない、と回廊に逃げる。速度を上げてゲッソーが追いかけてくる。
「アハハはハハ!! 逃ゲテモ無駄ダヨ!!!」
確かに、何も策が無かった。
至近距離まで機神が迫り、振り下ろされた足の一本がリュックを切り裂く。
散らばる中身を気にかけている余裕などない。
回廊の視界の先。青銅の扉が開いていくのが見えた。
【ヒデヨシィ!!】
「その声は!!」
逆方向の塔へと入ってしまった輝きくんは、そのまま最深部まで降りてきたのだった。
転びそうになりながら、そちらの通路へ駆け込む。
直後に現れる四足の機神。
【うぉおお!?】
「ゲッソーが! 敵だった!!」
【なんやとぉ!?】
合流はしたが、変わらず機神相手にヒデヨシだけで立ち向かえる訳ではない。
遺跡の複雑な通路に逃げ込めば、次の手を考えることができる。
【詳しい話は後や!!】
「うん、逃げよう!」
ウメダ遺跡の複雑さに助けられ、狭い部屋にすべり込むように逃げる。
四足機神の足音が遠くに消えるのを待って、深く大きく息を吐いた。
「白い輝きくんがいたんだけど」
【アレが封印されとったワイのコアや。せやけど、帝国に洗脳されてもうたみたいやのう……】
「そんなぁ」
【手ぇないこともないんやけど……】
その時、ゴーグルから電子音が鳴る。
「え、なになに!?」
【なんや、なんか鳴っとるで】
装着すると目の前にホログラムが展開し、そこに整備室で出会ったタマ=ツクリンが映し出された。
『おめ、ウメダの封印解いたけ?』
「あ! タマ! どうして?」
『さっき、通信機能もつけておいたけぇの。それより、おめが解いたんけ?』
「うん。ダメだった?」
『いんや。3000年、この時を待っとったでよ。危ないけ、どっか掴まっとれ』
状況は分からないが、タマの声はとても弾んでいた。
【ツクリン族やんけ! 無事やったんか!! それやったらいける!!】
「ね、ねえ、ちょっと説明してよ」
【ウメダ遺跡を動かすんや!!】
地面が、いや、遺跡全体が振動していた。
ホログラムのタマは忙しなく動いている。
『機関部、良し。駆動部、半良し。砲塔、バツ。飛行機構、バツ。地面の上に出るだけで精いっぱいだあな。そんなら、ウメダ・スカイ、浮上させるけ』
【よっしゃいったれ!!】
「い、遺跡が、動くのおおお!?」
揺れがいっそう激しくなり、ヒデヨシは立っていられなくなった。
ウメダ遺跡。天を衝く二本の塔と、それを繋ぐ大回廊。その全てが、今3000年の時を越えて地上に現れた。
大地のクレバスをまたぎ、日を受けて悠然とそこに屹立していた。




