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第5話『探せ! 残り4つのいのちの輝きくん』後編

 晴天の下、ウメダ遺跡に向けて街道を歩くカーニィと、それに乗るヒデヨシ。その肩に乗る団子状の輝きくん。

 道のりはとても穏やかなもので、ヒデヨシは大きくあくびをした。


「眺めもいいし、なんだか眠たくなってきちゃった」

【気ぃ抜いたらあかんで。いつ、帝国の奴らが現れるかわからんからな】

「そうだけど。……ねえ、あれなにかな?」


 街道の前方、遥か向こう。かなり小さくではあるが、誰かがいる。

 どうやら走っているようだ。


「こっちに向かってるね」

【せやなあ。ヒョーゴスラビアから来たんやろか】


 こちらからも近づいていく。

 ある程度近づいた所でヒデヨシは身構えた。


「ねえ! 何かに追われてるみたい!」

【あれは……ハンナリィ帝国やんけ!!】

「助けよう!!」


 がしゃり、と踏み込み、逃げている人物の元へ駆ける。

 逃げている人物は黒い仮面をつけ、同じく黒いローブを身に着けており、男性か女性か判断はつかなかった。

 背の丈からすると、青年のように見えた。


 カーニィの姿を確認し「タすケテ……!」と叫んだその声も、つくりもののような電子音でやはり性別は分からなかった。

 仮面の人物の後ろには、二体の機械。


 四角い箱に逆間接タイプの足がついたようなそれは、頭部のセンサーをカーニィに向けてきゅいん、と音をたてた。


【無人タイプの偵察機や。ぺしゃんこにしたれ!】

「うん! まかせて!」


 仮面の人物とすれちがい、そのままアームを振り上げてハンマーパンチを繰り出す。

 ごしゃあっ、と二体の偵察機はひしゃげて潰れ、いくつかの破片が転がった。


「ねえ、大丈夫!?」

「ア、アリがトウ」


 仮面の人物は礼を言って、その場にへたりこんだ。


【自分、どっから来たんや?】


 輝きくんの問いに、その人物は何も反応せず、代わりにヒデヨシが同じ問いを仮面の人物に向けた。


「帝国カラ、逃ゲてキタ」


 相手はそう答える。


「コノ仮面、洗脳装置。ボク、完全に洗脳サレる前ニ、逃ゲた」

【帝国、えげつない事しよるなあ……】

「外せないの? それ」


 ふるふると首を振る仮面の人物。

 仮面からは金属製のベルトが出ており、頭部をしっかりと固定していた。


「うーん……どうにかならないかな」

【無理に外さんほうがええやろ。妙な仕掛けでもあったらそれこそどないしようもあらへん】

「そっか……」


 ヒデヨシは、街道の先にあるウメダ遺跡に向かう所だと説明した。

 仮面の人物は少し考えてから、手を合わせて言う。


「ボクモ、連レテいッテ」

「危ないよ?」

「ボク、古代遺跡ノ研究者ダッタ。ソレデ、帝国ニ攫ワれタ」

【なるほど、有能な人物を捕まえてきて、洗脳して利用しとるんか】

「多分、ヤクニたテル」

「うーん、分かった。それじゃあ、お願い!!」

「アリガとウ。ボクハ、ゲッソー」


 ゲッソーと名乗った仮面の人物と軽く握手をして、一行はウメダ遺跡を目指す。




   ○   ○   ○




 仮面には、生命維持装置が組み込まれているらしく、ゲッソーは飲食を必要としなかった。ヒョーゴスラビアの北部にある都市から連れてかれたのだと、道中に教えてくれた。


 翌日の昼に、ウメダ遺跡の入口に辿りつく。

 巨大なクレバスが大地を割っており、街道はそこで途切れていた。


「うわぁ、地割れの先が見えない」

「研究デハ、何千モ前カラアル、ト分カッテいルンダ」

【3000年前にはもうすでにあったからなあ】

「すごいなあ……」

「見エルカイ? アレ」


 クレバスの向こうとこちらにそれぞれ、同じくらいの大きさの四角い建物があるのが見えた。4,5階立てのビル、といった感じで特に複雑な構造をした遺跡には見えない。


【ウメダ遺跡はな、地下にあるんや。あれはその入口や】

「地下ヲ抜ケテ、向コウ側へ行ケル。デモ、トてモ複雑」

「すぐ近くに見えるのに」

【見えるけど辿りつけんのがウメダ遺跡や。ま、案内はワイに任せえ】


 その時、ウメダ遺跡の建造物の上に何かが動くのが見えた。

 カーニィと同程度の大きさの、鋭いフォルムを持った機体がそこにいた。


 ヒデヨシ一行の姿を確認すると、遺跡の上から飛び降りて、ずん、と砂埃舞い上げて前方に着地する。


 視界が一瞬塞がれたが、すぐに風が砂埃を晴らす。

 そこには、鈍色の金属光沢を放つ機神が一機、たたずんでいた。


 操縦部までしっかりと金属に覆われたボディ。

 シンプルな人型をしているが、頭部にあたるパーツはなく、操縦席であろう胸の辺りにセンサーカメラがいくつか付いている。


【なんや、あれ】

「輝きくんも知らないの?」

【見た事あらへん】


 ヒデヨシがゴーグルを装着して相手の情報を読み取ると、赤い警戒色を示していた。明確な、敵意。

 カーニィの武装を構えるよりも先に、鈍色の機神は右腕をすっと前に伸ばしてエネルギー弾を射出した。


「うわッ!?」


 慌ててカーニィのアームを上げて、バリア状に膜を張る。着弾の衝撃で少し機体が揺れた。

 相手はすでにこちらに向けて走り出しており、急いで右アームでの迎撃姿勢に入る。


 振り払ったアームはしかし当たらず、相手は視界から忽然と姿を消していた。


「上でス!!」


 ゲッソーが叫ぶ。

 跳びあがってカーニィのアームを躱していた機神は再び腕を突き出してエネルギーをチャージしていた。


「輝きくん! ジャイロ!」

【よっしゃ、アレやな!】


 両アームをがしりと上に上げ、先端を四方に開く。ジャイロを一気に回転させて、そこにエネルギーを纏わせて円形のシールドを形成した。

 相手機体から打ち出される多数のエネルギー弾。そのすべてを難なくはじきとばす。


「今度はこっちから行くぞ!」


 ジャイロを解き、砲門を形づくる。

 そして居合の姿勢をとるように腕を左後方へと構えた。


「ド派手ブレ――――ドッッ!!」


 高出力のエネルギー派が、砲門から射出される。

 カーニィの数倍はある長さのビームブレードと化したそれを、上に目がけて一気に振り抜いた。


 相手機体は避ける間もなく飛ばされ、地面に激突する。


「スごイ……」

「どうだ!!」


 臨戦態勢は解かず、相手の出方を見る。

 沈黙していた相手機体の操縦席が開いた。


「えっ……」


 操縦席にい人物は、ジーンズにラフなTシャツを合わせただけの、ヒデヨシが良く知る格好をしていた。頭部に、ゲッソーと同様の仮面がつけられている以外は、ハンナリィ帝国に攫われた幸村サナその人だった。


「ぐ、う……」

「ねーちゃん! サナねーちゃん!!」


 彼女は頭を振って何か操作し、操縦席ポッドを切り離して離脱の姿勢に入った。


「俺が分からないのかよ!」

「ダメデス。完全ニ洗脳サレテシマッテいルヨウデス」

「ねーちゃんッ!!」


 鈍色の機神に駆け寄り、彼女を助けようとするヒデヨシ。

 手を伸ばすがそれよりも一瞬早くポッドは離脱して上空へ上がっていく。


「輝きくん! 追いかけよう!!」

【――待て、ヒデヨシ!】


 彼女が遺していった機体から警告音が響く。

 次の瞬間、 それは爆発した。


 ガードは間に合わず、爆風に煽られてカーニィは転倒する。機体から投げ出された先には、巨大なクレバス。

 地面を転がり、ヒデヨシは大地の裂け目に落ちないようになんとか手をかけた。眼下には、奈落。


【おわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!】

「輝きくん!!!」


 軽さが仇になり、クレバスの上まで投げ出された輝きくんは、谷間の暗黒へと吸い込まれていった。


「輝きくーーーーん!!!」

「アブなイ!」


 クレバスまで転がらず、地面に投げ出されたゲッソーが急いで立ち上がり、ヒデヨシを引き上げる。

 這ってクレバスを覗いてみるが、やはり黒しか見えず、いくら呼んでも輝きくんからの返事はなかった。


「どうしよう……」

「遺跡ニ、向カイマショウ。地下カラ、クレバスニ出ル道モアりマス」


 カーニィは爆風の影響で右のアームがちぎれ飛び、それはひしゃげた状態で少し向こうに横たわっていた。

 なんとか衝撃を受けてくれたのだろう。ヒデヨシの無事と引き換えにして、機神は右アームを失ったのだった。


 座席からリュックを取り出す。

 カーニィが動くかどうか試してみたが、やはり輝きくんの力なしでは起動しなかった。


 自身の体も、地面を転がった衝撃で擦り傷だらけで、首から提げているゴーグルにもヒビが入っていた。


 不幸中の幸いか、何とかゴーグルの機能は生きており、ゲッソーの周りに緑色の、つまり敵対心がないという表示が出る。ヒデヨシは泣きそうになるのをぐっとこらえた。




   ○   ○   ○




 遺跡の中は、事前に聞いていたとおり、非常に複雑なつくりをしていた。

 リュックの中に用意してあったライトをゲッソーに手渡し、ヒデヨシはゴーグルについているライティング機能を使った。


 右の部屋に入るために、左の通路を通って回り込んだり、特定の部屋に入ってから通路を戻らないと出現しない扉などもあった。

 普段のヒデヨシであれば、奇妙なこの建造物に心躍らせただろうが、今はただその遠回りがもどかしかった。


「早く下に行かないと……」

「大丈夫デス。道ニハ迷ッテイまセン」


 数時間歩き、少し大きめの空間に出る。

 ゲッソーは「休憩シマショウ」と言った。


「俺、大丈夫だよ! それより早くいかないと!」

「イイエ。気付イテイナいダケデ、疲レハ溜マルモノデス」

「でも……」


 問答無用、といったふうに、ゲッソーがヒデヨシを座らせる。かくかくと膝が笑っていた。

 立ち上がろうとしたが、力が入らない。


「ホらネ。ボク、少シ向コウヲ見テキマス。制御室ガアるハズナノデ」

「うん……分かった」


 ゲッソーがそう言い残して暗闇の中に消えていったあと、ヒデヨシはリュックから食料を取り出して食べた。

 オーサカ国で渡されたパンはとても固い。保存用のものだということで、水分を減らしてあるのだった。


 噛み切れないパンに歯を立てながら、ヒデヨシはぽろぽろと涙をこぼした。


「ねーちゃん……輝きくん……」


 泣いていてはダメだと自分に言い聞かせても、涙が止まらなかった。


 その時。

 ばつん、と音がして明かりがついた。天井や壁がうっすらと青白く光り、部屋の天井、その中央部に一際明るく、白く灯った照明がある。


 ゲッソーが明るくしてくれたのだろうか。

 真白に光る照明を見ていると、先ほどまでの沈んだ気持ちが少し晴れた。


「やっぱり、泣いてちゃダメだ!」


 赤いジャケットの袖でぐしぐしと目元をこすり、大口開けてパンを噛みちぎった。

 ゲッソーが向かった通路の先を見て、足に力を込めて立ち上がる。


「ゲッソー、制御室に行くって言ってたっけ。すぐ近くなのかな」


 気持ちに任せ、今すぐにでも動きたかったが、下手に動いて迷ってしまっては元も子もないとその場で足踏みした。


 通路に出ようとしては、いやいややはり、と引き返す。

 それを数回繰り返したころ、通路の先、見えない所から「ウワアあアァァ!」と叫び声が聞こえた。


「ゲッソー!?」


 ヒデヨシは走り出した。

 リュックを置き去りにして、身一つで。


 通路を走り、曲がり、声がしたと思う方に直感で向かう。


 しかし、誰の姿も見えず気づけば元の道も見失った。

 それでも、ヒデヨシには前しか見えていなかった。


 がむしゃらに進み、階段を降り、また昇り、自分がどこにいるかも分からなかったがひたすら前に進んだ。


 気づけば、行き止まり。

 目の前には重そうな色をした一枚のドアがあった。


「……大丈夫、だよね?」


 取っ手のついたそのドアに手をかけ、ゆっくり力を入れる。

 ぎしぃ、と音を立てながらドアは開いた。


 部屋の中は通路と違って薄暗く、ヒデヨシはゴーグルをかけてライトをつけようとした。


「誰だぁ? おめぇ」

「うひゃあああっ!!」

「のんわぁあ!?」


 暗闇の向こうから突然かけられた声にヒデヨシが驚き、その声に声の主が驚いた。

 部屋に明かりが灯る。控えめなオレンジの光の下にいたのは、ヒデヨシの半分ほどの背丈しかない、ひげもじゃの男だった。


「人ん部屋に勝手に入ってきて、何の用だぁ?」

「え、あ、ごめんなさい! 俺、人を探してて、あちこち走ってたらここに……」


 部屋の中を見渡してみると、色々な工具や機械類、電気系統の配線やらが雑多に敷き詰められていた。

 ここが、制御室なのだろうかとヒデヨシは疑問に思う。


「おめ、この場所まで一人できたんか?」

「ううん、ゲッソーっていう人と二人で……」

「はあん、ま、よぐ来たな。何しにきたんけ?」

「えっと……」


 元々の目的といえば、この地に封印されているいのちの輝きくんコアを見つけることだ。

 その途中で、輝きくんがクレバスに落ちてしまい、ゲッソーともはぐれた。


 どう説明したものかと悩んでいたが、ひげもじゃの小人が部屋にあるパネルを見て「おんやぁ」と声を上げる。


「遺跡の灯りが点いてるでねか。おめが点けたか?」

「ううん、違う。ここ、制御室じゃないの?」

「あぁ、制御室に誰かおるな。ここは整備室だあ」

「助けてくれない!? 俺、迷ったんだ!」


 小人はひげに手をあてて「ふんむ」と呟いた。


「ええけんど、代わりにそのゴーグル触らせてくんれ」

「え、これ?」

「見たことねえ機械だて、気になるんだあ」

「いいよ。でも、壊さないでね」

「あいよお。あぁ、わぁの名はタマ。タマ=ツクリン。よろしゅう」

「俺、大阪ヒデヨシ!」


 ゴーグルを渡すと、タマはもじゃもじゃのひげの中に両手を突っ込み、ずぼ、と様々な工具をひげの中から取り出した。


「んほぉ、こりゃあすんげえ。ふんむ、こっちの仕組みが、こうで……なぁる。おほほぉ」

「あの、そ、そろそろ……」

「もうちょい、もうちょい」


 しばらくの後、ヒデヨシの手にゴーグルが返ってきた。

 ひげもじゃの小人、タマは非常に満足そうな顔をしている。


「そんで、どうする? 外まで連れていけばええか?」

「ううん、えっと、さっきはぐれた人に会いたいのと、崖に出る道があれば教えて」

「分かったぁ。制御室におるやつかあ?」

「うん、他にいないなら、たぶんそうだと思う」

「道を説明するんは難しいけ、そのゴーグルに転送してやる」


 ぱしり、とゴーグルを奪い、機械につなげて何やら作業をする。

 すぐに差し戻されたゴーグルを装着すると、視界の端に地図が表示されていた。


「光ってるところが制御室だあ。気ぃつけて行け」

「ありがとう!」


 手を振ってヒデヨシは整備室を後にした。

 タマはそれを見送ったあと、パネルに表示される情報を見て不思議に思う。


 誰にともなく一人呟いた。


「なぁん、遺跡の設計データコピーしとるなあ、こいつ。大したデータでもないと思うけんどなあ」


 ひげをさすりさすり、自分には関係のないことかと再び部屋の奥に戻っていった。

次話予告!


輝きくんコアを探すために、ウメダ遺跡を探索するヒデヨシ! ようやく輝きくんと合流できたが、何か様子がおかしい……?

そしてウメダ遺跡の真の姿が明らかになる!


「ねえ、整備室って何するところなの?」

「そりゃおめ、遺跡のメンテナンスだあ」

「メンテ? 遺跡なのに?」

「わぁがメンテせんと遺跡は動かんけ」

「動く? ……遺跡なのに?」


第6話

『輝きくんが二人!? ウメダ遺跡、大浮上!!』

次回もド派手にオーサカだぜ!!

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