婚約破棄? 何言ってんだよ! 諦めんなよ! もっと分かり合う努力をしろよ!
「えっ……マトゥーカ先生……」
「えっ、じゃねえよ! ほら、イザベラもステージに上がってこい! こっちに! ほら早く! そうそう。そしてルイズ! お前はこっちに座る! そうそれで良い!」
マトゥーカの気迫に押されて、言われるがままに従うアラン達。
「……それで、なんで婚約破棄なんてしようとしたんだ、アラン!」
「いや……イザベラがルイズのことを虐めていたと聞いたので、そんなことをするものは未来の王太子妃に相応しくはないと考え……」
「聞いたって誰から?」
「ルイズ本人からも聞きましたし、目撃者もいます」
「よーし、目撃者集合!! お、ダニエルとゴードンか。ほら、さっさと壇上に来いよ! よし! それで、お前ら何を見たんだ?」
「その……イザベラ様がルイズ嬢を突き飛ばしているところを……」
「私、そんなことは決してしていません!」
「してないって言ってるじゃん! ほら! じゃあ皆で再現するぞ!」
「「「「「再現……?」」」」」
「ほら……突っ立ってないで動け! ルイズはどんな体勢で突き飛ばされたんだ。そんな感じ? でイザベラはどこ? どんなフォームで押された? ダニエルとゴードンはどこから見てたんだよ? ほら? 何で分かんないんだよ? おかしいじゃん! 嘘ついてたのか! お前ら?」
泣き出すルイズと気まずそうに俯くダニエルとゴードン。
「泣いたって駄目なんだよルイズ! 言いたいことがあるならちゃんと言えよ! 涙じゃなくて言葉で気持ちを伝えろよ!」
大抵の男は、この涙で簡単に騙されてくれたが、マトゥーカにはそれが通用しないと分かり焦るルイズ。仕方なく小声で詠唱して魅了の魔術を彼に向って放ったが……
パシン
えっ……今……魔法をはたきおとされた……?
「おい! 何変なもの飛ばしてるんだよ! だから魔法じゃなくて、お前の本音を聞かせろって言ってんだよ!」
「わ……私は……家族を養うための……地位とお金が欲しくて……」
「じゃあ働けばいいだけじゃん! 俺がいくらでも仕事を紹介してやるよ! 嘘の涙を流すより、青春の汗を流して仕事する方が絶対気持ちいいだろ!」
「せ、先生……!!」
「それでダニエルとゴードン! お前らも何でルイズの嘘に付き合ったんだよ!」
「すみません……何だかルイズ嬢に泣きながら頼まれたら断れなくて……」
「俺も……」
「お前らなあ……女にモテたいならもっと芯のある熱い男になれよ! 間違ったことを相手が言ってきたら『そんなんじゃ駄目だ!』ってちゃんとガツンと言い返せる男になろうぜ!」
「はい!!……先生……!!」
「それでアラン!! お前は何でイザベラを信じてやらないんだよ! 婚約者だろ!」
「それは……イザベラは冷たい女ですし……」
「彼女が冷たいならその分、お前がもっと熱くなれよ!! お前が太陽になるんだよ!!! 自分が燃えて、彼女を照らして暖めてやらなきゃ駄目なんだって!」
「……俺、太陽になります!!……先生……!!」
「イザベラ! お前も冷たいって言われてるけど、そんなことないよな! 心の中の熱い気持ちをちゃんと言葉にできるだろ!」
「はい先生! ……私……マトゥーカ先生のことが好きです!!」
「わ、私だって……これからは心を入れ替えて、マトゥーカ先生に一生ついていきます!!」
「「俺達もマトゥーカ先生に惚れました!!」」
「くそぅ……ズルいぜ皆……俺だって……王子という立場でさえなければ……」
「よしっ! お前達まとめて全員、俺が面倒見てやるから安心しろ!!」
マトゥーカは宣言通り、王国の法律改正のため動き出した。当初は絶対に無理だと鼻で笑われていた、一夫多妻制度と同性婚制度の施行に王族婚姻制度の改正を見事認めさせ、イザベラ、ルイズ、ダニエル、ゴードン、そしてアラン王子の伴侶になったマトゥーカは、今や事実上の王太子妃である。
これからマトゥーカ王太子妃が『もっと熱くなれよ! ネバーギブアップ!』というスローガンの元、王国の更なる発展に多大なる貢献をして、歴史に名を残す偉人になることを、今はまだ、誰も知らない。