異世界改革 2 (リヒト視点)
クルト・ベルガーは転生者だ。
俺、リヒト・フォン・ルックナーはここアルテナヴィア王国の宰相補佐の地位にいる。
俺の地位、能力値や外見、年齢からそろそろ婚約者を選定しなければならないらしい。
俺の婚約者を決めるのに、俺の意見は通らない。
政治、家、周りの思惑で決まるものらしい。
正直、どうでも誰でもよかった。俺の立場を揺るがさないものだったら。
こんな俺にこの度婚約者ができた。
相手はダランベール侯爵家の三男ゲルト・フォン・ダランベールだ。
ゲルトにはあまりいいうわさは聞かない。
一応婚約者によって、堕落するのは避けたいので身辺調査を個人的にしていた。
ゲルトの職場での金銭の動きが疑わしいので、会計監査室に赴いた時のことだ。
衛兵第2師団の会計報告書が目についた。
そこに記してあった金額が1桁単位まで書き込まれていた。
この国ではざっくり換算で3桁までは繰り上げ請求が当たりまえ、というかこれが慣習となっていた。
元日本人とすれば、この小さい単位がチリと積もればと考えてしまうのだが。
不思議に思って会計報告書をめくると、次にページには明細と領収が添付されていた。
こんな丁寧な報告書、久々に見た。
この報告書の提出者が気になって調べた。
衛兵第二師団所属、子爵家三男クルト・ベルガー。18歳。本年度師団に入団。
この国にありがちは茶髪にブラウンの目。身長も師団の平均に少し足りないくらい。
至って特徴がないというのが第一印象だった。
が、この男、とにかく人がいい。仕事から帰宅する際は町の皆に声をかけられていた。
ご婦人方の荷物持ちをしたり、老人には手をひく。
馬車の前に飛び出した子供を助けたり、荷車押しを手伝ったり
いつも当たり前にやっているみたいだ。
子供を家に送ろうと、車道を渡るときに、
右左右の確認をして軽く手を挙げている姿に転生者だと確認した。
この国でそんなことするものはいない。
魚介類のレストランには時間を作って、偶然を装って接触した。
「エコ大事!!」には吹き出しかけたけど。これで確信した。
それにしても、箸使いが綺麗だ。白身魚のポワレを本当においしそうに食べる。
前世の家族を思い出すぐらいに。ちょっと懐かしい気持ちになった。
話をしてみれば、転生者と隠す気はあるのかと思うほど、ボロが出てくる。出てくる。
道路の厚みや建物の構造や排水関係なんかの仕組みが気になるみたいだ。
どうやら転生前の職は建設関係だとあたりをつけた。
これはいい拾い物をしたと思った。
ちなみに魔法の適正がないのと、モテないというのも聞いた。
気が付いていないようだが、城内外においてさりげないフォローや気遣いに
魅せられている人が多いことに。
モーションかけられても気づいてないようだ。
何故か教える気も起きないのが自分でも不思議だった。
ゲルトは待ち合わせに当たり前のように遅れてくる。
現在の仕事の進捗状況、これからの問題点、外交背策、ゲルトの身辺調査のまとめやら今後のふるまいなどの対策を考えるためといろいろ考えることが多かったため、待たされるは苦ではなかった。
だが、念のためゲルトには毎回追跡魔法をかけて、探りを入れていた。
案の定、最近のお気に入りのスカーレット嬢のところに入り浸りだ。
まあ、俺を陥れないかぎりはどうでもいい。
ゲルトとの待ち合わせのカフェに入るとクルトがいた。
さすがに何度も遅れてくるゲルトに最近少々辟易していた時に クルトの笑顔は何故か救われた。
割り切っているとは思っていたのにな。
3時間遅れてきて「道が混んでて」と言うゲルトに対して、「おいおいおいそれ嘘だろう。女と会って遅れただけだろ。」とクルトは言ってないつもりであろうが、
声には出ていたので慌ててゲルトには聞こえないように幻惑魔法をかけた。
案外疲弊してたんだな。クルトの怒りで俺の気持ちがほだされていく。
ゲルトの「馬車同士の事故」の言い訳は、はなから嘘だと分かってたのだが、
あまりに悪質なので、かまをかけた。慌てふためくゲルトの顔をみたら、少し留飲がさがった。
後で確認に行ったクルトの人のよさに心が温かくなっていく。
まったく、こいつは。
路面改革は以前からやろうと思っていたのだが、適任者がいないので保留していた案件だ。
クルトの存在にできると踏んで、衛兵第二師団から引き抜いた。
ストレッチャーや担架の常備。ガードレールや歩道。案が出てくる出てくる。
転生してからいろいろ思うことがあったんだろう。
その敏腕をふるってもらうことにした。
ま、引き抜きにはひと悶着あったけどね。クルトの書類処理能力は師団の中では
極めて高く、この手の仕事ははクルトに丸投げしていたらしい。
『せめて週1ぐらいでいいので里帰りさせてくださいぃぃぃ。』と懇願されたけど
蹴ってやったわ。はははは
ちなみにゲルトには意趣返しで人力車をおいてやった。
ゲルトのリアクションが楽しみだ。
次にカフェでクルトと会ったときは上目遣いで挨拶された時は鼓動が高鳴った。あれ?
「ゲルトと会う」というと眉をハの字にして残念がるのが、かわいい。あれ?
ゲルトの「道に迷った」言い訳に対し、クルトの「脳みそアメーバ」発言には速攻幻惑魔法をかけたが吹き出しかけた。
ゲルトの行動なんて追跡魔法でお見通しなんだよ。とは言えないけど
そこは26年培った笑顔で対応した。
さて、そろそろゲルトの逃げを封じていきましょうか。
地図はゲルトの父ダランベール侯爵家派閥の貴族で最近きな臭いうわさをきく。その貴族の館を念入りに調査したものを国の情報局に回しておいた。これで当分侯爵家はおとなしくなるだろう。
ゲルトには素行が分かってるんだよ。まずいことはやめてよと暗に分かる地図を進呈した。これで、通じる相手だといいのだが。
クルトも地図に興味がったんだろう。どのように作ったのか聞かれた
空間認知魔法を使ったと種を明かした。空間魔法が分からなかったようなので、空間認知能力の魔法版と説明したらわかってくれた。空間認知能力は三次元をみる能力だとわかっているようなので、説明は簡単だ。
最初に空間魔法で地図を作り、これを土台に蝙蝠の音波に似た波動の音波魔法を高さに応じて飛ばし高さを図り、等高線を書いた。後は索敵魔法を使い、建物内を見ていった。
と俺オリジナルの複合魔法を説明した。極秘ですよ。とウィンクしたんだけど。
クルトは「魔法までチート級なんですね。世の中なんて不条理」と壁に手をついて、こちらを見てないのが残念だ。
「服に悩んで遅れた」というゲルトに『お前はどこの女子高生か』と
突っ込まなかった自分を褒めたい。
じゃ選ばなければいいようにしてやるわ。とまた一つ言い訳の逃げを封じることにする。服飾関係に手を出した。
俺の私怨で生まれたこの施策、副作用として、経済が潤うという嬉しい誤算と俺への評価が上がったようでなりよりだ。
あっそうそう嫌味で東国から前世と同じ仕様の着物をゲルトには贈っておいた。
「次回の待ち合わせ楽しみにしています。」とメッセージを添えて。
次の遅刻理由にはあまりに稚拙過ぎて、すぐに対応できなった。
「夕方まで起きれない」と。『どこのヒキニートですか。』と思ったが俺はクルトとは違い声には出さない。ちょっとイラっときたけど。
まあ前々から、時計にアラームがあったらいいなと思っていたので
これはいい機会だと思うことにする。手を挙げた業者と共同開発することにした。
まっクルトに俺の銘が入った懐中時計を作るのもいいなと思ったらテンションが上がった。
ゲルトにはそろそろこれまでの鬱憤を少し晴らすことにした。
ゲルト宅にサプライズで目覚まし時計を作らせて頂きたいと、執事に申し出たら
簡単に入れてもらえたよ。ちょろいな。作っていくうちになにか楽しくなって、最後の仕掛けに、水にしようかたらいにしようかと悩んだけどね。
ベット横に落ちるたらいには音だけで実害がなさそうなので、たらいに決定したけど。
愛人を連れ込むのは想定済みだけど、俺に文句もいえないだろう。
今回の言い訳は「仕事がんばりすぎて遅れたらしい」
誰がじゃ。もはや脳内での俺の言語能力が壊滅しそうだよ。
ゲルトには随時追跡魔法が発動している。愛人関係はまだ許せる。
俺を陥れないから。
でも仕事にかこつけるのはやめてくれ。外回りというのは彼女と外回り(茶店)に行くことではない。
理由のない遅刻や早退ももはや日常茶飯事。仕事を部下におっかぶせるのも日常茶飯事。
会計監査室にあったゲルトの会計報告書、水増しもいいところだぞ。
仕事を真面目にしている人に土下座しろといいたいとこだが、
ここは業務改革で、洗いざらい流して出してしまおう。ゲルトも城外に流そう。そうしましょう。
こんな奴と関係をもっていたら、俺が滅ぶ。
というか仕事を理由にした時点で俺の限界がきた。
幸い、クルトも積極的に手伝ってくれるから、よしとしよう。
これで、貴重な休みをクルトとゆっくりとれると安心というものだ。
この件ではダランベール侯爵もを重く見、俺との縁組も解消してくれた。
地図の件があるので、自身の保身がいっぱいいっぱいの侯爵にゲルトを守れないのは明白だったけど。
また、いろいろゲルトに報復もしたものだから、今現在、俺の婚約者に名乗りを上げる強者もいない。
俺の実家ルックナー伯爵家も口を出さないことに決めたらしい。
これは好機。クルドを落とすことにしよう。
「じゃ、まず着物デートからお願いします。」とOKを貰った
着物はなににしますかね。
次回貿易商が来た時に一緒に選ぶのもいいですね。
早急に呼ばなければなりませんね。
それにしても着物かぁ「脱がしやすくていいな」と思ってはいたが、口に出ていたようだ。
クルトが3歩後ずさっていた。
誤字報告ありがとうございました。
訂正させていただきました。今後とも宜しくお願い致します。




