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1-8

 真っ暗な山道をカトレアさん達はどんどん下っていく。

 この道は多分廃墟へ向かっている。

 どうしてこんな時間にカトレアさんは外出しようと思ったかな?


 私は見つからないように後をついていく。

 まあカトレアさんが本当に魔法使いならとっくにバレている頃だろうけど、まだ反応はない。

 わざと分かっていないをして、あとで驚かせてやろうってことかな?


 青い月夜の不気味な森を超えて、荒れ果てた農耕地をすぎると、街へ続く橋にたどり着く。

 廃墟と化した右手前の工場にビクビクしながら、カトレアさんが橋を渡りきるまで隠れて待つ。

 障害物が一切ないので、一緒に橋を渡ってしまったらバレてしまいそうだった。

 

 遮るものがない空。


 まん丸い青い月。


 不気味なほどに静かな街の中を歩くカトレアさん。


 線路沿いの道をひたすら左へ左へ。


 そこで私は違和感に気がつく。


 数年通っているこの土地だけど、西と東、これがなんだか逆な気がしてきた。


 普段何気なく歩いていた道だけど、ここでは見える景色がなんだか変だ。

 何が変化というと、学校の方に歩いているはずなのに、見える景色は図書館へ向かっている。

 北と南の変化ない。西と東、これがおかしくなっている。


 たしかこの道を進むと、左側に図書館。それを越えると小さな公園があったはず。

 なのに見える風景は全然別。

 左側には病院があって、踏切も見える。

 その踏切を渡ってまた左に進めば本屋さんや幼稚園なんかが見える。

 あれ?ここは本当は右じゃなかったっけ?

 ん?なんかわけわからなくなってきたよ。


 と、そんな混乱なんて知りもせずにカトレアさんはそのまま学校そばの踏切まで来た。

 そこで立ち止まると、辺りをキョロキョロし始める。

 私はとっさに近くのアパートの塀に隠れてやり過ごす。

 バレたかな?と思ったけど、踏切から線路にでて、右に進み始める。

 私の記憶と体に残っている感覚からすれば、そっちは私の家がある方向。上り方面なのだけど、風景は下り。カトレアさんは駅の方へ向かい始めた。


 流石に線路を歩くのはちょっと…ってことで、線路脇の狭い道から後を追う。

 すすきの葉が擦れあい、カサカサと鳴り始めたところ、カトレアさんは急に歩みを止めた。


 私はすぐさま体制を低くしつつ、何が起こってもいいように視界だけは確保する。


 そーっと覗き込んだ先。ちょうど雲で隠れていた月が顔を出した瞬間にそれが姿を見せる。


「……ぐしゃぐしゃの電車と……黒っぽいもやもや?」


 大事故現場がそこにある。

 電車と電車が正面衝突した跡で、ぶつかった辺りなんて原型をとどめていない。

 その残骸の周りに無数の黒いたまのようなモヤ。

 私にはあれが一体なんなのかわからない。

 けれど、カトレアさんはローブを翻し、少しきれいな装飾品のついた小さなナイフを抜いた。


「お前たちはここに居ては行けない存在だ……戻るべき場所へ戻るがいい!!」


 そう言うとカトレアさんは黒いモヤに飛びかかる。

 赤く発光したナイフが次々と黒いモヤを切り裂く。

 切られたモヤは、ガラスが割れるかのように弾け飛び、月の光を乱反射させながら粉々になっていく。

 一個、また一個と壊していくカトレアさん。

 けれどどんどんと湧き出てくるモヤモヤ(私はこれをモヤ玉と名付けた)

 魔法使いらしい戦闘ではないものの、あのナイフは多分魔法武器的ななにか。

 そうじゃなければキラキラと粒子を撒き散らしながら赤く発光しないって。


「やっぱりキリがない。何かいい方法はないかな!」

「わしは猫じゃから魔法は使えんぞ」

「うわぁぁ!こんな時こそ猫の手を借りたい!!」


 休む暇なく動き続けるカトレアさん。

 ぴょんぴょん動き回っているところを見ていると、この人は魔法使いじゃなくてスカウトとかそのへんの職業に転職するべきだと思う。


「めんどくさいーめんどくさーい!!」

「それでもこいつらは倒さねばならないのじゃ!」

「そんなことは言われなくても!!」

「もうすぐ魔法陣が書き終わるから戻ってくるのじゃ!」


 くるんとバク転をして距離を取るとケシのもとへ戻る。

 ケシは少し場所をずらして、カトレアさんの近くから離れると、カトレアさんの周囲が青く光りだした。

 ナイフを大事に抱え、ゆっくりと空に掲げる。


「水の精霊よ……この忌まわしい魂を、霊水を持って浄化せよ!!」


 掲げたナイフで空を切ると、その太刀筋が空中に現れ、そこから大量の水らしき物が吹き出てくる。

 その水はモヤ玉へと飛んでいき、すべての水を出し切ったと思ったら、ものすごい水柱が電車を飲み込む。

 よくニュースで見る水道管が破裂したーなんてやつよりもヤバそうなほど。凄まじい水圧で空高く水が吹き上がっている。


「流石に疲れるわ」

「陣を書くのに時間が掛かるからの。とりあえずここは完了じゃな」

「次に行くわ。朝までに終わらせましょ」

「うむ」


 カトレアさんはナイフを仕舞うとすぐに走りだす。

 今度は大通り沿いにあるスーパーへ向かっていった。


 広い駐車場は車社会の群馬県だから。というわけではなく、土地がいっぱいあるからという事らしい。

 この駐車場が満車になったところは見たことがない。

 別にお客が少ないからとかではなく、ムダに広い駐車場なだけ。


「昨日は全然眠れなかったから今日はとっととやっつけるよ」

「魔法陣はすぐ仕上げるからまっとれ」

「急いで仕上げて!」

「まかせるんじゃ」


 ケシはアスファルトを爪で引っかきはじめ、カトレアさんはまたモヤ玉に飛びかかっていく。

 数は数えていないけど、もう数百は壊していると思う。


 私は正直、このモヤ玉を壊してなんの意味があるのかわからない。

 けど、カトレアさんとケシが必死になって壊しているところを見るに、あれはこの世界にとって毒なのだとおもう。

 そうじゃなければ壊す意味はないから。


「ほんとこの鉄の塊邪魔ね。まとめてふっとばそっか」

「それだけのマナは残っているのかね?」

「気合よ気合」

「この蒼い月はマナを持っていない。今のカトレアのマナは有限じゃからな?」

「わかってるわ。だからこんなめんどくさい魔法陣使って一掃してるんじゃない。マナさえ供給できれば詠唱なしのデカイ魔法を連発するわ」

「たしかにな。 できたぞぃ」


 カトレアさんはまたケシの書いた模様の上に立ち、さっきと同じようにナイフを掲げる。


「氷の精霊よ、この負なる感情を凍てつく槍で貫け!」


 足元から水が湧き出ると、月夜の空まで登っていく。

 段々と水は氷のつららへと変化していき、カトレアさんの頭上には数千ほどのつららが整列している。


 ナイフをモヤ玉が群れている場所を示し、カトレアさんは大きく息を吸い込み、


「放てぇぇぇ!!!」


 カトレアさんの掛け声に反応したつららが一斉にスーパーの駐車場に降り注ぐ。

 障害物なんかもすべて貫通して、アスファルトに突き刺さると、そこから一瞬にして地面が氷始める。

 一瞬にして一面氷の世界が出来上がる。

 モヤ玉はどんどんつららに貫かれ、氷と一体になる。

 散った氷の破片にも魔力が残っているようで、それに触れただけでモヤ玉は破裂していた。


「スケートリンクにするにはちょっと凸凹ね」

「危なくてできんのぉ」

「まあここも終わったし後は……」

「なんじゃあれは……」


 ナイフを仕舞い、次の場所へ向かおうとしたカトレアさんたちはどうしたことか、動きを止めてある場所を見る。


「これはまた……仕事が増えたのぉ」

「ほんと今日は早く帰ってダラダラしたいんだからさぁ……」


 私の位置からは見えないけれど、視線の先に何かがある。

 カトレアさんはしまったナイフをもう一度抜き、小さく構える。


 水色に発光するナイフを右手に、視線の方へ飛び出した。




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