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1-7

 ……あれ?私、いつの間に駅の上り線ホームにいるの?

 確か異世界だか未来だか異次元に居たんじゃなかったっけ?


 うーん……まあ夢落ちならそれはそれでいいわ。だってただの夢だったんだもん。

 通いなれた街が突然廃墟になってたらそりゃ嫌だし混乱もするわ。

 でもあれは夢。


「とりあえず家に帰ってご飯作ろう。どうせ二人共帰りが遅いし」


 共働きの両親の帰りはいつも遅い。

 私はかれこれ五年は一人で朝と夕飯を食べている。

 寂しいかと聞かれてもわからない。それが家ではデフォルトで、気にもならない。

 自分が食べたいものを好きなように作って、まったり自由な時間を過ごせるから。


「今日は何にしようかなー。久々に外食とか?」


 駅構内に吊るされている大きな時計で時間を確認する。

 あと少しで上り電車が到着、私はそれに乗って一時間位ゆらり揺られる。

 下校と退社時間が重なって、電車は満員……とはならない。

 車社会の群馬県で電車を使うのは県の職員か学生か出張に来た会社員くらいなもの。椅子に座れないほど人が乗るなんてことはめったにない。


 出発時刻一分前に電車が到着。

 手動ドアを開けて空いている席に座る。

 今日は対面式の席を独り占めしたい気分だったので、電車の最後尾まで歩いていく。

 ガラガラの最後尾。

 カバンを窓側に置いて通路側に座る。

 もうすぐ夕日が沈む。

 今日も一日終わったなーなんて黄昏れていると、外でものすごい大きな音がした。

 金属音で、唸るようなすごい音。

 一瞬なんだろうと通路に顔を出した瞬間に強い衝撃が全身を襲い、視界が一瞬にして真っ暗に………




「うわっ!!」

「はぁ……はぁ……」


 ベッドの上で体がびくんとエビ反りして、反動で腰に衝撃を感じて目覚める。

 突然体に何が起こったのか理解できなかったのだけど、頭の中に残っているかすかな夢の内容が悪夢だとわかるにはそう時間はかからなかった。


「はぁ……まだドキドキしてる……」


 せっかくなら恋をしてドキドキしたいのだけどな。

 恐怖体験からのドキドキとか寿命が縮まりそうだ。


「駅……電車……」


 なんだろう、どこかで同じ体験をした気がする。

 ちょっと考えて見たのだけど、体は覚えているみたいだけど記憶にないときのあのモヤモヤ感が体にこびりついて離れない。


「朝から最悪だわ……」


 結局ここは最近見慣れたログハウスで、私の元いた場所ではなかった。

 残念といえば残念。元の世界に戻れた、それかすべて夢オチで解決して、いつもの日常が戻って来たほうがいい。人は変化を嫌う生き物だからね。


「朝から独り言多いな……とりあえず菜園の手入れと朝ごはん。洗濯もやらないと」


 掛け布団をきれいに畳んで、部屋の窓を開ける。

 森の新鮮な空気が部屋いっぱいに入ってきて、それを思いっきり吸い込む。

 冷たくて美味しい水を飲んだときに頭がキリッと冴える時と同じで、新鮮な空気を全身に流すことで、体のすべてを叩き起こす。

 グーンと背伸びをして、軽くストレッチをする。

 タンスに入っている洋服はカトレアさんのお下がりで、私にはピッタリ。

 毎日制服なのはいいけど、変えがないのはちょっと嫌だったからこの洋服は嬉しい。

 制服だってできればきれいに着たいもん。



1-5



 着替えを終えてリビングに向かう前には必ずカトレアさんの部屋をノックする。

 どうせ起きてこないってわかっているけど、習慣というのは恐ろしい。これが朝の日課になってしまったのだ。

 ただし、部屋は開けないことに決めている。

 安眠は妨害されたくないからね。ゆっくり寝てください。


 そうしてリビングに入ると、黒猫のケシが指定席のテーブルの上に―― 居ない。


「今日は朝のおさんぽ?」


 朝からぐっすり寝ているはずのケシが今日は居ない。

 ふむ。今日はいい天気だから散歩に行きたかったのかな。


「朝ごはん作っておこ。お腹空いて帰ってくるでしょ」


 前掛けをギュッと締めて、台所で朝食の準備を始める。

 今日はパンケーキにはちみつ乗せたやつにしよう。天気がいいと気分がいいからね。優雅な朝食を目指す。

 スキレットでパンケーキを。鍋にはコーンスープをコトコト煮込んでいる。

 ケシは猫舌なので、食べる前に牛乳をいれてまろやかに仕上げよう。ついでに冷めるし。

 サラダにベーコンエッグ。パンケーキにコーンスープ。これは豪華だ。

 私のいつもの朝は食パンにバターを塗って野菜ジュース。

 電車通学してたので、時間にはかなり厳しかったので、最近ゆっくりと流れる時間が心をなごませてくれる。

 丸テーブルにみんなの分の用意も終わり、あとはケシが帰ってくるのを待とうか悩んでいると、がらんと扉が開く。

 珍しく魔女の帽子をかぶっているカトレアさんと肩の上でだらーんとしているケシが家に入ってきた。


「おはようございますー今日は朝から散歩ですか?」

「おはよーう。今日は気持ちのいい朝だから早起きしちゃったのよー」

「うむ。清々しい朝じゃった」

「ですよねー。 あーっと、朝ごはんできているので食べましょう?」

「おっ、今日はちょっと豪華だね」

「なんか気分がいいので。ケシのコーンスープはもう頃合いですよ」

「熱々はわしには厳しいからのぉ。助かる」


 各々自分の席につくと私は手を合わせ、


「いただきますっ」

「「いただきます!」」


 今日ものんびりまったりの一日が始まるんだなーと。





 人間は変化を求めない。

 けれど人間は刺激を求める。


 刺激を感じることで、日常の良さを痛感して、変化を嫌う。


 凡人にはそれでちょうどいい。


 

 正直な話、早く自分の居た場所に戻りたいと思っている。

 その反面、心の隅っこでは帰りたくないと、この穏やかな時間が永遠に続けばいいと。


 両方の心情が交差して、私を惑わしている。


 そう。


 こんな平和な日常だったら………




11-3



 今日も青い月が登っている。

 いつもなら寝る時間なのだけど、今日はなかなか寝付けないで居た。


 明かりは消して、月の光だけが部屋を照らしている中、ログハウスの扉が動く音がした。

 私はなんだろうと外を見ると、カトレアさんとケシが森の中へ消えていくのが見えた。


 大きなトンガリ帽子に真っ黒いローブ。

 神秘的な月夜に照らされたカトレアさんが本当の魔法使いに見えてくる。

 私の中ではまだ自称魔法使い。


 私は上着を羽織り、彼女たちの後を追うことにした。


 もしかしたら、もしかしたら魔法を使っているのを見れるかもしれない。

 そんな期待を抱えて。



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