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こんにちわ、最近異世界だか未来だかに飛ばされてしまった私、青葉すみれです。
ひょんなことからカトレアさんのお家に居候することになってから一月ほど経ったのですが、少し気になることがあります。
それは、カトレアさんはお仕事をしているのかいないのか、という点です。
私が見る限りでは、していない。という結論に至っているのですが、それでは生活できないのでは?と矛盾も出てきているわけです。
いくら食材を山から調達できるとはいえ、塩とか砂糖とかは買わないとないはず。
そこもすべて魔法で解決!なんてことだったらどうしようかと思うけど……とにかく確かめてみたい!
ということで、私はカトレアさん観察を始めることにしたのだった。
さて、カトレアさんの朝は遅い。
平均的にお昼前後まで部屋で寝ていることが多く、早くてもお昼一時間前。遅いと夕方まで爆睡している。
「おはよ~……あー頭痛い」
「なに二日酔いの人みたいな顔してるのですか?」
「単なる寝不足よ。お酒飲んでも魔法でアルコール分解するから酔ったことなんてないし」
「ほんと便利ですね……」
「まあアルコールなんて高いものは家においてないけどね」
「高価なものなのですねー」
「それにあのクソネコに飲ませるとめんどくさいから置かないの」
「なるほど……」
酒癖悪い猫って何なんだろう……
寝起きのカトレアさんはすぐにリビングのソファーに寝っ転がり、手が届く範囲においてあるテーブルの上の本を取ると読み始めた。
数日前から読み始めたもので、表紙は裏返されててタイトルや内容がわからない。謎の本。
なんの本読んでいるか聞いたこともあったけれど、「子供にはまだ早いから教えられない」とごまかされた。いったい……何を読んでらっしゃるのか……
「ふぁぁぁ~ ちょっと寝るわ……」
「さっき起きてきたばかりじゃないですか!!」
「だめ、眠い……」
「せっかくご飯用意してるのに……」
「私の席においておいて~。後で温め直して食べる……zzz」
「カトレアさん!ってもうねてるし……」
とまあ、珍しく早起き(それでも私が起きてから三時間後)してもすぐに二度寝してしまうほどのぐうたら。外で活発に動くのは珍しいらしく、ケシ曰く、
「なにか思い出したのか、いきなり活動的になったと思えば、すぐに飽きて今度はぐうたらが始まるのじゃ。付き合うこっちは大変なのじゃよ……」
ということらしい。
まあ見ればわかるけど、ここまで豹変するとは思わなかったわ。
「昔からこんな生活じゃが、暮らせているのが不思議なくらいじゃ」
「やるときは一気に事を済ませるし、やるときはやる女よね。ぐうたらするときもそうだけど……」
「まあ猫のわしからしたら、毎日毎日廃墟へ探索やら鹿狩りなんかに駆り出されたた身が持たんわい」
「猫なのに?」
「猫じゃからだ」
「うん??」
「猫は基本ぐうたらじゃ」
「この飼い主にしてこの猫あり……ね」
「なんのことじゃ?」
「なんでもないわ………」
ソファーで二度寝は夕方まで続いて、お昼食べるか聞いたときに返事があったので作ったのだけど、カトレアさんの席には朝と昼のご飯がそのままで置き去りになっている。
もうすぐお夕飯を作りたいのだけど、さっきからカトレアさんの返事がないので、揺さぶって起こそうと試みるも、「う~ん……するめ……」と謎の伝言を残して以降返事がない。
一応戸棚や保冷庫を調べてみたけど、スルメはどこにもないのであるものでお夕飯を作り始める。
今日は鳥のささ身を蒸したやつをサラダにのっけて塩ドレッシング(自家製)を掛けたものを人間用に。ケシはすでに何かをもしゃもしゃしている。汚いものは食べないでね……
「カトレアさんは返事がないのでお先にいただきますー」
「うむ。食べるが良い」
「なんでケシが偉そうに言うの?」
「その鳥はわしが獲ったやつじゃからな」
「ケシが獲ったのはもうないよ?」
「なに!?」
「熟成してたらなくなってたんだよねー。どこいったんだろうね」
「近所の野良犬の仕業じゃな……」
「野良猫の間違いじゃないの」
「わしは野良じゃないわい!」
「ふーん……」
ケシをじーっと見ると彼はプィとそっぽ向いた。多分犯人はこの猫だわ
「ふああぁぁぁ…… よく寝たわ……」
「おそようございます。朝と昼と夜ご飯できてますよ」
「んー、いただくー」
「無理して全部食べなくても大丈夫ですからね」
「これくらい寝起きにはちょうどいいわー」
パンに目玉焼きにサラダが朝。
オムライスとコーンスープで昼。
チキンサラダとコンソメスープの夜。
こんな量をぺろりと食べてしまうカトレアさんの胃袋はどこか別の世界へつながっているのではないだろうかと思う。
「カトレアさんの胃の中に入れば元の世界へ戻れるのかな……」
「なにをバカなことを言っているのだね」
チキンサラダまで食べ終わって、満足したと思ったのだけど、これでは足りないというと缶詰お菓子を口に投げ入れ始める。
本を読み、お菓子をつまむ。
この人はどこまでもまったりぐうたらを尽くしている。
「カトレアさんは幸せにいきてますね」
「んーだなー。いつ死ぬかわからないから、できるだけやりたいことは済ませる派」
「これだけ平和だとそうそうしなないと思いますが」
「んーーーーっそれもそうか」
お菓子を一つ、また一つと美味しく食べているので、試しに一つもらって見たのだけどこれがものすごく甘い。死ぬほど甘い。
砂糖のお菓子とか水飴とかそんなレベルじゃなくてなんていうか……健康に悪そうな甘さ。
こんなの食べてぐうたらしてたら絶対太る。間違いない。
「美味しいだろー?私の自信作だ」
「これ自作なんですか?!」
「私の好みに合わせて作ったお菓子だ。なくなっても作ればいいから遠慮しないで食べなよー」
「うっ……私はお腹いっぱいなのでまた後でで……」
「ふむ…… 女の子は甘い物が別腹と言うけどすみれはそうでもないのね」
「人それぞれですよ」
残念そうにまた一つ口に入れる。
もう一生あれを食べることはないだろうな。
それからしばらくして、温かい紅茶を淹れ、夜のひとときを私はまったりと過ごした。
明日は朝から洗濯に畑の世話。それから家の掃除を済ませたら朝ごはんを作ろう。どうせ昼間で起きてこないのだから。
紅茶のリラックス作用というやつか、程よい眠気が私を襲ってきたので自室に戻って布団に入る。
ベッドサイドのテーブルの上にライトを置いて火を消す。
木々の隙間から入り込む月の光を眺めているうちにだんだんと落ちていった……。
-すみれ就寝後-
「そろそろ寝た頃じゃな」
「そうね。それじゃあでかけましょうか」
「そうじゃな」
「あの子が幸せに暮らすためにも……私達がやらなきゃいけないのよね」
「とはいえ、すみれが来てから"あれ"は増える一方じゃな」
「そうね、日に日に数が多くなってきている。
「けどさ、私はこのまったりとした今の生活を壊したくないから」
ローブを翻し、ログハウスを出るカトレア。
その後を追うように、カトレアの肩に飛びつくケシ。
今日の月は青く、神秘的な光を世界に放っていた。
カトレアとケシは月明かりからゆっくりと姿を隠した。