1-5
という事で、私たちは肉を求めて狩りに出かけた。
隊列は前と同じでケシが先頭の私とカトレアさんは並んで後ろ。
今日も張り切っているカトレアさんは麻縄を肩にかけて、鼻歌を歌っている。
私の持ち物はと言うと……
「たしかに弓道部に友達がいるけど、本格的な事はやった事ないからね!?」
「弓未経験者じゃないだけましよ」
「たしかにそうだけど……… 的当て程度だったのよ?」
「それじゃあお腹は満たされないわ!私たちは大物を求めているの!」
矢筒には20本の矢。弓は竹で作った手作りみたい。
こんなので獲物を取れるかと少し考えてみたけど、捕れる未来が見えない。
いくら動物だからって殺すのは抵抗があるし………
「可愛そうだからって躊躇ってはだめよ。私たちが生きていくには他の動物を殺すことだって必要」
「それは分かってるけど……」
「捌くのは私がやるから」
「うーん………」
やっぱり私には荷が重い気がする……
「じゃあ足止めだけいいから」
「うーん………」
7-3
山道を進み始めて一時間程で鹿の群れを見つけた。
カトレアさんはテンションMAXだけど心の中でお祭りが始まっているみたい。
私は渋々弓を構える。素人の構え方だから様にはなっていないけれど。
本音はやりたくない。
いくら私たちが生きるためとはいえ、自分の手で殺るのはなかなか心にくる。
「出来れば心臓一突き。1本でも当たれば十分だから!」
「わかったよ………」
草や木の新芽をつまむ鹿の群れの中で一番大きい個体に狙いを定める。
若い子は可愛そうだからね。
「なるべく若い個体がいいけど、そこは任せるわ」
全ては私の一撃にかかっている。
この一本の矢が鹿の命を奪い取り、食われる。
弱いものは死ぬしかない。この世界は本当に悲しいな。
「ごめんね………」
わたしは思い切り弓を引き、群れに向かって矢を放った。
0-1
「いい個体ね。これなら当分はお肉に困らないわ」
「そうですね………」
「よく頑張ったわ。まだ慣れないかもしれないけど生きるためだから」
「はい……」
解体の方はカトレアさんが枝肉にしてから、魔法でゆっくりと肉を冷やし、死後硬直後に小さく切り分けていくらしい。
人間が生きるには辛い場面もあるんだね。
普段何気なく食べているお肉や魚は捌かれて出てくるから気にしていなかった。けれどここに来て食べることが悲しいなんて思いもしなかった。
ケシが一匹、黙々と穴を掘っていて、はじめはストレス解消かなにかかと思ったけれどもそれは違った。
解体して出た残滓を深く掘った穴に埋めて処理するためだという。これが浅いと他の動物が掘り起こして散らかしてしまうので、深く深く掘る必要があるみたい。
お肉と残滓の処理を終え、枝肉はカトレアさんがカバンに詰め込んで背負う。カバンの口から鹿の足が飛び出ていて「うわっ……」ってなった。
「それじゃあもう少し散策してみようか。お肉だけじゃなくて山菜や野草なんかも見つかるかもしれないからね」
「私はできるだけ早くその足をなんとかしてほしいですが、まあもう少し行きましょう」
「わしは魚が欲しいのじゃ」
「この山って川あったかしら……」
「むむむっ……」
「よっこいっしょっと」といってカトレアさんは重いカバンを背中にぶらさげて立ち上がる。いくら解体して食べられる部位だけカバンに詰めたといっても、六十キロは軽くあるはず。すごい力持ちだなぁ。
「魔法の力って偉大よね。こんな重いものも魔法一つでケシより軽くなるわ」
「魔法って便利能力なのですね……」
森の中って夜が早く来る。
あんまり遠くに行ってしまうと帰り道は真っ暗になってしまうということなので、ある程度散策を終えた私達はログハウスまで戻る事にした。
収穫はなかなかで、鹿が一匹に鳥が六羽、山菜もカゴいっぱいに取れて満足の結果。
「ケシが鳥を咥えて持ってきたとき、ほんとに猫なんだなーって思っちゃったわ」
「こう見えても猫なのじゃ。鳥の一羽くらい大したことないわぃ」
「でもケシ、木の上に登ったはいいけど降りられないでにゃーにゃー鳴くのはどうかと思うよ?私が魔法使いだから良かったものの、すみれなら助けられなかったわ」
「うむむ……」
「猫もおだてりゃ木に登る……けど降りてこない……」
「あんまり調子に乗らないことね」
「にゃぁ~ん」
「ごーまーかーすーな!」
ケシはカトレアさんに首根っこを掴まれて、そのままおとなしくログハウスまで連行された。
あそこつまむとほんとにおとなしくなるんだね。
その日の夕ご飯にお肉は出なかった。
カトレアさん曰く、数日熟成させてからのほうが美味しくなるからまだ食べないと。ということらしいので、私は根菜類をたっぷり使った肉なしけんちん汁に小麦粉を練ったものを団子状にして鍋に入れて煮立たせた群馬の料理、とっちゃなげを作って夕ご飯に出した。
私とカトレアさんは粉物大好きで、とろとろのスープにもっちりした団子。ダシが染み込んだ野菜が非常にマッチ。二人でお腹いっぱい食べた。
一応ケシにも食べるか聞いたけど、今日は鶏肉を食べるというので足一本与えておいた。
これもカトレアさんがさばいたのだけど、血抜きのときに私がいろいろびっくりしてしまって鳥を離してしまったら、頭のない鳥が庭を走り回って、それをケシが追いかけるという状況を目の当たりした私はこの光景を当分忘れることはないだろうと思った。
「明日はクマでもとっ捕まえて、熊汁にしよっか!」
「それはいい考えじゃな」
「皆さんホントたくましく生きてらっしゃる……」
熊狩りは当然私の猛烈な反対を受けて中止となり、イノシシ狩りに変更になった。
なんかもう……当分お肉は食べたくないかな……