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1-1 喋るねことぐうたら魔法使い

 私の眠りが浅くなった頃合いを見て登る太陽。

 数年ぶりに味わう気持ちの良い朝。


 緑のカーテンで強い光は遮られ、程よい光が部屋を照らす。

 清々しい風といっしょに若草の香りが鼻を抜けて全身を駆け巡る。体が浄化されているような感覚だ。

 

 今までで一番スッキリと起きた。

 ゆっくりと深呼吸をして、美味しい空気を十分体に行き渡らせて行く。

 徐々に頭の方も起き始めてきて、体の軽さを実感するのだけど、そこで違和感を感じる。


 都会暮らしなのになぜこんなに静かなのだろうか。

 大気汚染で汚れまくった空気なのになぜこんなに美味しいと感じられるのか。

 私の部屋はログハウス風ではなくアパートで白い壁紙だったはずなのに、なぜ丸太がびっしりと敷き詰められているのだろうか。


「えっと…… ここどこ?」

 

ベッドから部屋を見渡す。私のものは一切ないけれど、私の趣味にあった家具がところどころ配置されている。

 このむずむずする違和感。ここは自分の部屋なのか他人の部屋なのかわからない。

 もしや、私が寝ている間に引っ越してびっくりさせようとした?

 それにしたって準備が良すぎるしそんな雰囲気はなかった。というか引っ越しできるほど貯金は潤っていないはずだ。

 それならここは親戚の家?

 そんなバカな、絶縁状態の親戚の家にわざわざ引っ越しか旅行なんて行くわけがない。戦争になってしまう。


「それじゃあここはどこ?」


 私はベッドから降りて着ているものを確認する。普通に制服だった。

 床も天井もすべて木材のこの家。歩くと軋む音がするかと思ったけれど、全然鳴らない。新しい家なのかな?。

 扉の立て付けもよく、静かに部屋を出ることができた。


 廊下に出るとまず目に入るのは扉。向かいにもう一部屋あるみたい。

 あとはリビング的な場所がここから見える。

 もしここが自宅なら両親が寝ているだろう。少し不安ではあるけど、ゆっくりと向かいの扉を開く。


 なんだか薄暗く、なにかがでてきてもおかしくないほどに不気味。

 ドアの隙間から辺りを覗いているのだけど、見えるものといえば本とベッドだけ。


「物置かなにか………?」


 私が通れるだけ扉を開けて中に入る。といっても、足の踏み場もない位に本があるので入り口だけ。


「『美味しくて便利な通販生活』?」


 近くにあった本を手に取ると謎の通販雑誌がおいてある。


「なんかよくわからないけど……出たほうがいい気がする」


 扉をそっと閉じてリビングへ向かった。



 1-1



 リビングには丸いテーブルと椅子が三脚、それに缶入りクッキーに黒猫がいる。

 凝った装飾品はなく、ほんとに必要最小限の物しかありません!と主張している。


「猫かわいいなー」

「うむ、猫は愛でるものじゃな」

「うんうん………ん?」

「どうかしたか?」


 私はリビングを見渡す。

 けれリビングには私と猫しかいない。

 なのになぜ人の声が聞こえるの??


「何をキョロキョロしているのじゃ、わしはここにおるぞ?」

「ここってどこ!?」

「ここじゃよ!」

「私はあなたの奥さんじゃないので「あっち」とか「こっち」とか「それ」とか「ここ」って言われてもわかりません!!」

「テーブルの上のクッキー缶の横じゃ」

「これは猫さんです!」

「だからその猫がわしじゃ!!」

「へ??」


 私はおもわず猫を凝視。フィルム映画並にまばたきをして現実を確認する。


「そんなに瞬きしても現実は変えられん。そもそも猫が人の言葉を使うのは珍しいことではないぞ?」


 声の主はやっぱりこの子?。舌の動きとかどうなっているの??


「まあ無理もない。全身を強く打っていたからのぉ」

「えっと……」

「うちの庭先に倒れておったのじゃよ。手当をするために服をある程度脱がしたが、ひどいもんじゃった」


 この黒猫は口をぱくぱくさせないで人の言葉を使っている。

 時たまあくびなんか挟んでいるのにちゃんと聞こえる。


「全身のあざに右足と右腕の骨折。腹部をかなりの衝撃が加えられていたみたいで、肋骨も何本か折れていたわい」

「それなのに痛みはないです……?」

「まああいつが治療したからな」

「あいつ?」

「わしの飼い主じゃ。魔法使いをしておる」

「魔法……」

「あいつは腕のいい魔法使いじゃ。あれだけ重症の娘を数日で完全回復させるとは」

「魔法ってことは、ここは日本とか地球とかそういう場所じゃないのですね!?」


「いや?ここは日本で関東の田舎じゃぞ?」


「いやいやーそんなことはないでしょ。現代に魔法とかしゃべる猫と無理があるよ」

「しかし現実はこれじゃ」


 そう言って黒猫はテーブルからぴょんと戸棚に飛び乗り、紙切れを一枚咥えて戻ってくる。

 ひらりと私の前に落ちた紙には地図と地名が書かれている。


「えっと……新潟に栃木に長野……地図の真ん中は群馬……」


 グンマー


「な?」

「な?じゃないよ!確かに私の住んでいる場所は「都会」の群馬県だけど、でもここって……」


 六合とか片品とかそんなレベルに田舎っぽい場所だよ現在地は!


「少しはなれてはいるが、山を下れば盆地がある。いまは小さな村じゃが」


 黒猫はさっきまでいた場所に戻るとごろんと転がる。


「結局私はどうしてこんな場所に……どうしてぼろぼろになっていたの……」

「そんな事わしが知りたいわ」



 1-2




 見知らぬ場所で朝を迎えて、猫と魔法使いに助けられてしまった私。

 心が揺れ動きまくっていることを察知した猫が私にハーブティーを入れてくれた。もう魔法もしゃべる猫もいるから動じない私。

 熱々を入れたあとすぐに飲めるように冷ましてから私の眼の前にカップを置く。あの尻尾はなかなか器用に動く。


「わしは熱いのが苦手でな。すこしぬるくてもがまんしてくれ」


 さすが猫。その舌は伊達ではない。


「はい。いただきます」


 人生初、猫が入れたハーブティーを味わう。味は……ミントティーでぬるい。


「そろそろ落ち着いたところで自己紹介でもしよう。わしの名はケシじゃ。見ての通り黒猫のメス」

「オスメスはわからなかったけどよろしく。わたしはすみれ『青葉すみれ』よ」

「なるほど。よろしく頼むぞすみれ」


 ケシは尻尾を私のところまで伸ばしてきた。先っぽが可愛らしい動きをしている。


「よろしく」


 たぶん握手だとおもってしっぽを優しく掴む。


「しっぽに触るでないわ!」


「じゃあなんで出してきたのさ!!」



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