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2-1 働きたくない魔女の廃墟探索記

 体を動かすのがやっとだったカトレアさんも数日「ぐうたら」することで、以前のように全力で「だらだら」できるようになるまでに回復した。

 回復祝のお昼ご飯を済ませるとカトレアさんはすぐに私を外へ連れ出す。

 今日は珍しく、黒いトンガリ魔女っ子帽子をかぶって私の左手をぎゅっと掴んで庭に出た。


「突然なんですか!?帽子なんかかぶっちゃって」

「ふっふっふー!今日私は完全回復した!だから以前話したあれ、やるよー!」

「あれ?」


 あれとはなんだろう。

 美味しい「焼きまんじゅう」を作って欲しいって言ってたあれ?それとも「ひもかわうどん」みたいなうどんがたべたーい!って言ってたあれ? でもそれなら台所じゃない?


「魔法! 使えるようになりたいでしょ?」

「あぁー魔法の事ですか」

「うんうん!うどんでもまんじゅうでもないよ!」


 そっちもちゃんと覚えていたんだ…… 今度作ってあげないとかな?


「それじゃあまず魔法ってどんなの?ってところだけど、見たことはあるからイメージは大丈夫だよね?」

「はい。なんか水とか氷がどこからともなく出てきてヴァアアアって」

「えっと……まあうん。魔法はイメージが重要だからね」


 そう言ってカトレアさんは手のひらにチョークでちいさな魔法陣を書いて見せてくれた。

 星型の魔法陣。アニメとか漫画でもよく見るあれ。

 魔法陣ってどの世界でも共通しているのかな? まあここって表世界の裏側だから影響は受けてるか


「魔法陣てのは、その人のイメージを増幅させる補助的なものなの。例えば」


 カトレアさんは手の平をじーっと見つめる。

 すると、魔法陣が白く光り始めて、なにもない空中から水色の粒が集まりだし、ひとまとめになった。

 それが更にまとまり、水の玉が出来上がる。


「こんな感じね。イメージするものが大きかったり、複雑だったり、数が多いとそれだけ多くのマナを消費するからね。魔法を鍛えるときはイメージとマナの量。この二つね」

「火とかをイメージすればそれが出せるわけですか」

「そうだね。まあ火は熱いから手のひらには出さないけど」


 カトレアさんは水の玉を握りつぶる。

 水風船が割れるようにパンッといい音がした。


「すみれのマナがどれくらいあるのかわからないから、今日はそのマナを全部使ってみましょう」

「いきなり怖いことを…… マナがなくなったらどうなるのですか?」

「疲れて寝る!」

「それだけっ!?」




7-2


 私のマナをすべて使い切ってみるということで、カトレアさんは私の手を取り、そのマナをすべて吸い取るという。

 まあ私みたいな一般人はそんなに多くはないだろうから、すぐになくなるだろうということだ。


「それじゃあいくよー。顔は逸してもいいからね」

「注射じゃないから大丈夫ですよ」


 カトレアさんは私の手をにぎると、目を瞑り、手に意識を集中し始めた。

 段々とカトレアさんの手が暖かくなり始め、私の体温が奪われていくような感覚が全身を襲う。これがマナを吸われている感覚なのかな?


 しばらくして、カトレアさんの眉間にシワが寄り始める。

 どうしたのかな?なにか問題でもあったのだろうか??

 今は集中しているところなので、話しかけるのはどうかと思った。もう少し待ってみて、終わらないようなら声を掛けてみよう。


 その間の私はすごく暇だった。

 飛んでいる鳥がなんか遊んでいるなーとか、今日はやたらとカラスとタカが戯れているなーとか、そろそろ春も終わって梅雨が始まるのかなー?とか。ほんとにどうでもいいことを考えていたのだ。

 

 静かに時間は流れて、ようやくカトレアさんは手を離した。

 だいぶ集中していたので、ちょっと疲れ気味。


「どうでしたか?」

「うん。すみれは魔女になるべきだわ」

「ふぇ?」

「私のマナの量よりは少ないけれど、一般人に比べたら桁違いに多いわ。魔法使いとしての適性があるわね」

「そんなにですか?」

「そんなに」

「なるほど…… それじゃあ頑張ればカトレアさんの力になれるって事ですね?」

「そうね。時間はかかるけど、いいものを持っているわ」


 疲れた顔をしているけれど、カトレアさんは嬉しそうな顔をしていた。

 私もカトレアさんの力になれるのなら嬉しい。助けてもらった恩返しができそうなのだから。


「それじゃあ今から魔法を練習します!」

「それは無理ね」

「どうしてですか?」

「私が全部吸い取ったから」

「あっ……」

「今日のところはおやすみね」


 なんともまあ先が思いやられる。

 とりあえず今日はまったりしますか。


「庭のハーブでも摘んでお茶にしましょうか」

「さんせーい!おやつにワッフルが食べたいなっ!」

「残念ながらワッフルは作れません。代わりにお焼きで我慢してください」


 家庭菜園からカモミールを摘み、その日は砂糖で甘くしたお焼きをおやつに午後のひとときを過ごした。

 最近は暖かくなってきて、草がだいぶ元気になってきているので、夕方の涼しい時間に畑の草むしりもやらないと行けないし、お夕飯の献立もまだ考えていない。

 魔法の練習も大事だけど、みんなが「普通」に暮らせるようにするのも大事な事。

 



12-3

 夕食後のひととき。カトレアさんはソファーに寝っ転がって雑誌を読んでいた。

 魔女なのに魔導書じゃなくて雑誌ってところもなんだかカトレアさんっぽい。

 


「ほんと、ネット通販て便利なのね」

「この世界にもネットとか通信販売ってあるのですか?」

「ないよ?ただ街の方で拾ってきたの」


 カトレアさんは私にあの通販雑誌を見せた。


「表世界はこんなのが普通にあるんだねぇ…… ここ以上にだめな生活できそう……」

「裏世界に通販がないのになんでその本があるんですかね?」

「うーん……?」

「もしかして、互いに干渉しあっているのなら、新聞とかで表世界のことがわかるかも」

「おーっ!確かにそうね!」

「今はいろんな情報がほしいので、明日は探索に行きましょう!」

「そうね。そろそろ小麦粉もなくなっちゃうし」

「我々の大事にな主食ですからね!」


「わしはキャットフードは飽きたのじゃ……」



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