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1-12

カトレアさんがココアを一口のみ、それをテーブルに置いてから少し天井を見上げてから話しが始まる。


「私はね、この辺りの森を管理する魔女なの」

「管理っていうのは、森の保護とかそういう感じですか?」

「そうね、観察と保護。それに脅威の排除がお仕事」


 小さな体なのにすごく大変な仕事をしているみたい。

 私には到底そんな仕事はできないだろうね。


「だから数ヶ月前までは何事もなく平和に過ごしていたの。多少動物たちの揉め事に介入したことはあったけどね」

「動物の言葉がわかるのですか?」

「わしが通訳してるんじゃよ」

「なるほど……」


 ケシは自慢げに言う。

 それにはカトレアさんも苦笑いだったけど、ほんとに相性のいいコンビなんだなーと思った。


「今から一ヶ月ほど前になるわ。いつものように街の方を散歩していたら、あの黒い玉が大量に発生していたの」

「黒い玉ってモヤ玉?」

「モヤ玉? まあそれを私達は黒の結晶体とよんでいるの」

「黒の結晶体……」


 線路でカトレアさんがバタバタ倒していたあれ。正式名称はまだないんだね。


「黒の結晶体はね、触れたモノの時間を早めて、草や木などは枯れていく。構造物などはまあ見たとおりね。 人間があれに触れれば当然老化していって……」

「そんなに危険なモノなのですか……」

「私は森を管理する魔女。あれが森に入ればすぐさま木々は枯れて、あらゆる災害も発生するわ」

「災害って?例えば?」


 森がなくなって困ることって酸素がなくなってしまうとかその程度の知識しかない私には災害とはどんなものかがぴんとこな。


「まずは水ね。森は天然の貯水槽と呼べるほどに水を蓄えているわ。その機能があるおかげで、地すべりなんかが起こらない。または起きにくくなっているの」

「水を蓄えるって、木々がみんな吸い取っちゃわないの?」

「流石にそれはないわね」

「ふむぅ。他にはなにかありますか?」

「あとは、その貯水機能があるから、山で大雨が降っても川が氾濫しにくいし、一定量を常に維持しながら湧き水として出し続けているから、水利用の枯渇、渇水とかが起きにくくなる。あとは水や空気がきれいになる。浄化装置の機能もあるわ」


 森はこの地球に無くてはならない存在だってことを改めて知った。

 森が地球を、私達を生かしているのだって事を。


「守らないといけませんね」

「群馬県は三分の二が山や森だからね。管理するところはいっぱい」

「カトレアさんが全部見てるわけじゃないですよね?」

「流石にね。私は西毛地域担当」

「ってことは、他にも魔女が?」

「いると思うわ。噂だけしか聞かないけど」

「じゃああのフリージアって人は?」


 その名前を聞いたカトレアさんは表情が険しくなった。

 あの人とはなにかあるのかな?


「顔は知らないけど、名前だけは聞いたことあるの。優秀な魔法使いなのだけど、非常に過激で、非人道的な事をすることもあるって……」

「今回の事件もあの人の企み?」

「かもしれない」

「フリージアは言った、この世界は裏世界だって。私が本当に居た世界は表世界だって。カトレアさんはそれは知っていたのですか?」

「表とか裏については知らないわ。私はここで生まれてここで育ったここの住人だもの。だからはじめ聞いたときはそれが妄想の産物だと思ってたけどね。 だけどすみれの存在とすみれが言っていた事をよく考えてみた結果、あの人の言っていることは本当かもしれないって思うの」


 水面下に映るもう一つの世界。もしくは鏡で映された反対側の世界。

 さしずめここは鏡の国ね。


「そして、黒の結晶体が現れた時期に出会ったのがあなたよ」

「私……ですか」

「すみれが表世界の住人で、何らかの原因で裏世界に飛ばされてしまった。さらに、黒の結晶体が出現するようになった。無関係な出来事ではないはずよ」


 確かにそのとおり。

 だけど一つ問題がある。

 その原因を突き止めるための重要な部分が私にはない。


「ここに来る前までの記憶が一切ないのです。私は何をしていたのか、何かに巻き込まれていたのか、何も覚えていない……」

「そっか…… 手がかりはないのかな……」


 裏と表。それが鏡のようになっているのなら、もしかしたら。


「表世界も黒の結晶体が現れ始めた?」

「互いに影響しあっている世界ならそれはあり得るわね」

「とりあえずはあの黒の結晶体を倒し続ける、もしくは原因を突き止めて解決するしかないんだね」

「そうね。そのためにも、フリージアを倒さないと」

「私も協力したい。魔法は使えないけど……」


 せっかくお世話になっている(?)のだから、できる限りの協力はしたい。

 戦闘ではだめかもしれないけど、サポートならできるはずだし!

 魔法は使えないけど弓なら少しはつかえるし!


「ありがたいけどね、すみれに何かあったら大変だから……」

「それはこっちだって同じ!カトレアさんやケシに何かあったら私は悲しいし、何もできなかった私は絶対後悔するから!だから手伝う!」


 乗りかかった船だしね。行けるところまで私は行くよ。


「わかった。だけど危ないことはしないこと。それと」

「それと?」


「すみれは魔法を使えるようになるから、特訓しましょう」

「ほえぇ!?」



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