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1-11

 ログハウスに戻ってきた頃にはもう日が登り始めて居た。

 私はカトレアさんとケシを布団に入れ、冷たい井戸水で濡らしたタオルを固く絞る。

 ケシを頭から尻尾の先まで丹念に拭き取り、それを桶の中に投げ入れて、新しいタオルをまた井戸水で濡らし、固く絞ってからカトレアさんの部屋に向かう。

 普段は入らなかった部屋だけど、今回は緊急時ということで無断で入ってる。


 相変わらず本が散乱していて、足の踏み場もない部屋。

 カーテンも固く閉められていて、外の光が全く入ってこない。ランプで辺りを照らさないとベッドまで進むことができない。

 

 小さな体に大きなベッド。

 薄っすらと眼を開けているけれど、帰る途中で意識を失ってしまったカトレアさん。

 私はローブを脱がせ、服を脱がせる。

 自分で着たこともない服なので、どうやって脱がせればいいかわからず、だいぶもたもたしていたけど、死闘の末?カトレアさんを下着姿まで脱がすことができたのだけど、そこで私は驚いてしまう。


「傷あと…… 古いのから新しいのまで、かなりある……」


 カトレアさんの体のいたるところに傷跡が見られる。

 大小様々で、腕には切り傷が多くあり、お腹などの胴体には刺し傷も見られる。それらはすべてふさがっているとはいえ、跡として残っているもの。

 魔法使いだというのに直さないのか、直せなかったのか不明だけど、こんな小さいのになんで……


「数日前の傷もあるけど、こっちなんてだいぶ古い傷に見える……」


 私はカトレアさんの体を丁寧に拭きながら、その傷を観察してしまう。

 血を見ると全身が震えるほどなのに、なんだか見てしまう。怖いもの見たさのあの感じと同じ感覚。


 足の太ももから膝までもが切り傷でいっぱい。足の甲なんて槍か杭でもささった跡がある。

 

 なんでこんなに傷だらけなの?

 カトレアさん。あなたは一体何をしているの?



「傷ばっかりで気が回らなかったけど、かなり痩せてる。いっぱいご飯食べてるはずなのに……」


 骨と皮だけという表現は正しくはないけれど、それくらいに痩せている。

 健康に悪そうな細さとまでは行かないけれど、これ以上痩せてしまうのは危険だと思う。


「栄養バランス?成長期だから食べたりないのかな? って、カトレアさんはもう成人超えてたっけ……」


 これももしかして魔法の影響なのかもしれない。

 カロリー消費とマナ。これらは密接に関係している。のかな?


 そんなこんなで、体を拭き終わり、カトレアさんのお気に入りのパジャマ(ひつじさん)を着せて、布団をかけてあげる。

 意識がないとはいえ、呼吸も安定しているし大丈夫だとは思うけど、ちゃんと目覚めるまでは心配かな。


「ふあぁぁ~ 私も寝てなかったし、ソファーでちょっと仮眠…… ケシの生存確認もしないと」


 しゃべるってだけで、あとはただの猫なんだしね。ショック死とか可愛そすぎだ。


 それから私はケシが生きていることを確認すると、ソファーに寝っ転がる。

 いつもはカトレアさんの指定席だけれど、今日はちょっとお借りする。

 お空はいい感じで晴れているけど、今日のお洗濯はお休み。

 お庭の畑も……まあ朝だけなら手入れもさぼっちゃっていいかな?

 朝ごはんも今日はお昼と一緒にたべよう……


 とりあえず…… お昼には起きる……




6-4


 ……き……よ……


 ん……まだねむ……い……


 おきな……私……だ……


 んん……?


「おきなよー!そこは私の席だよ!!」

「ふえぇ?? あーっカトレアさん……」

「あーっじゃなーい! 私の二度寝ソファーで爆睡してるしー!」

「おはおうございます……きょうもいい天気……」

「もうお昼だよ! お腹空いたからご飯食べよう!」

「ごはん……まだ作ってない……」

「私が作ったから!ささっ」


 この世界で初めて私は誰かに起こされるほど遅くまで寝ていた。しかも起こしてきたのはあのカトレアさんだ。ねぼすけな。

 そんなカトレアさんがまさかお昼まで作って待っているとは……世界が反転しそうだ……


「まあ、反転してるんだけどね」

「何が反転してるって?」

「なんでもないです」

「ふーん。まあいいわ。とにかく私の作ったお昼食べましょ!」


 ふらふら~と丸テーブルの席につくと、そこには丸い何かと上にバターとはちみつがちょこんと控えめにあった。

 ナイフとフォークもちゃんと準備されていて、コップには真っ白い液体。多分牛乳がある。


「スキレットでホットケーキ焼いたのよ。久々に作るから美味しいかわからないけどね」

「ぐーたらさんでもお腹は空きますからね」

「ぐーたらって……」


 カトレアさんは一応元気になったみたいだった。

 だけど、私はあの傷を見てしまっているので、心配してしまう。

 実はまだ良くなっていないけど強がっているとか、魔法の力で無理やり動かしているとか。


「とりあえず食べよう。食事のときくらいは楽しくでしょ?」

「はい。はじめてのカトレア食はきになります」

「食べられない物は使ってないから大丈夫!」


 カトレアさんは自分の席にもホットケーキを置いた。

 私のより形がいびつで、バターの量がかなり多くなっている。


「あははっ…… バター適当にやってたらすみれの分がほとんどなくなっちゃって……」

「大丈夫だよ。素材の味を評価しますから!」

「こりゃヤバそうだわ」


 泡吹いて寝ていたケシはまだテーブルの上の特等席で寝ている。

 これだけ見ると可愛い寝顔の猫さんだけど、あの攻撃を見ていてこの姿だと、心配。


「それじゃあケシには悪いけど、 いただきます!」

「いただきます!」


 ふわふわのホットケーキは、わたしの作るパンケーキに少し似てた。

 はちみつとバターの相性。ホットケーキは甘さ控えめで私好みの味に仕上がっている。


「おいしいよカトレアさん!やればできるんですね」

「そりゃそうよ?わたしだもん!」

「それじゃあこれからご飯は当番制にしましょうか」

「うぐっ………」

「あははっ、冗談ですよ。居候の私がちゃんとしますので」


 その後も楽しい会話が続き、ゆっくりと平和な時間が流れた。

 ほんとにこんなに楽しい食事はこっちに来てから毎日だったけど、今日は特別楽しく美味しかった。

 それもこれもカトレアさんが作ったホットケーキが美味しかったからだと思う。


「まあ、ホットケーキっておやつな気がしますけどね」

「それは言わない約束よ」


 

 7-3


 食器も片付け、私がココアを入れてテーブルに戻ってくると、ケシがちょうど目を覚ました。

 まだボンヤリとした目で、ここはどこだろう?という感じで辺りを見回している。


「おはようケシ。ココア飲む?」

「うむ……冷たいのがいいのじゃ……」

「わかった」


 カトレアさんのココアをテーブルに置くと、私は台所に戻ってココアお湯で練って、水で溶かす。

 (ココアの粉を少しのお湯で溶かして練ったあとに水で溶かすとダマになりにくいのよね)


「はいケシのココア。冷たいよ」

「すまんのぉ……」


 私が椅子に座ると、カトレアさんはココアを一口すする。

 ふぅーっと息を吐き、ゆっくりとカップを置く。


「いろいろ見たんだよね、きっと」

「はい……」

「それじゃあどこから話そうかな」


 カトレアさんは天井を見上げてゆっくりと語り始めた。

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