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「カトレアさぁぁぁぁん!!」


私は無力だ。

だけどやられる所を見ているだけなんてできない。

私は全力でカトレアさんの元へ向かう。


間に合うかどうかはわからないけど、突然どこからか大声がすれば誰だって戸惑うはずだ。

私はその隙にカトレアさんを回収しようと試みたのだが、ローブの魔法使いは戸惑うことはなく、私の方を見た。


「カトレアさんをやってはダメです!」

「なんだお前は……」

「青葉すみれ!」

「青葉……… なるほど」

「なに一人で納得してるんですか!とにかくカトレアさんは私が預かりますので!」

「それはダメだ」

「どうしてですか!」


「そいつはこの世界の住人だからだ」


「へっ?」


私はなに当たり前のことを言っているんだろうこの人は。と思ってしまう。

だってこの世界にいればここの住人でしょ? まあ?私は違うけど。

とにかく私はカトレアさんをローブの魔法使いから遠ざけるように引っ張る。 強い光と音でやられているから満足に動けないみたいだ。


「お前は本来こちら側の人間なのにな。なぜそちら側にいる?」

「こちら側?そちら側?なにそれ?」

「ふむ、何も知らないのか」


ローブの魔法使いは光の槍をアスファルトに突き刺し、それを置いて私の方へ歩いてくる。

表情どころか、性別すらわからない謎の人。恐怖そのものと言ってもいい。

私の後ろにはまだ耳鳴りが回復しないカトレアさんが居る。私はこれ以上後ろへ下がれない。


「この世界はな。お前がいた世界の影の部分。いわば反対側だ」

「影?反対? この世界ってどういう事?」

「ここはお前にとっては異世界とか異次元とかそんな場所だと把握しているはずだ。けれどこの世界は自分がいた世界にかなり似ていると思っている。だから、ここは未来かもしれないとおもった。違うか?」

「たしかにそう思った。けれどこの世界は東と西が逆転しているきがする」

「そう。まさにその通り。この世界は元の世界と比べると逆転している。反転。鏡の世界みたいにだ」

「だからなんだっていうの?」

「ここはお前がいた「現実世界」の反対側。裏世界という訳だ」

「裏世界!?」


ローブの魔法使いはさらに近づいてくる。

私の額には冷や汗が流れ落ちている。


裏とか表とか。この人はなぜこんなことをしてっているのだろう。この世界の住人は自分たちが裏世界の人だって分かっているのだろうか?

それとも、裏と表はなんの干渉もなく、別々の文化や歴史があるのだろうか?


「私たちは裏世界から表へ行くために行動している。お前は表世界の人間だろ?なら」

「だからって、カトレアさんを傷つけるのは嫌!」


私は素顔の見えないローブの魔法使いを睨みつける。

ギュッと足に力を入れて、構える。

それでもローブの魔法使いは一歩一歩確実に近づいてくる。


「そのカトレアが、裏世界から表世界へ移動するための大事な素材を破壊して回っている。我々にとってはそれは困るのだよ」

「でも……でも!」

「それでは問う。お前は表世界へ戻りたいか?」

「えっ………」

「今まで通りの生活に戻りたいか??」


今までの生活に?




私の今までの生活ってどんなんだった?


家に帰れば一人でご飯だし、特に趣味もなく家にはご飯を食べてお風呂に入って寝るだけの場所。雨と風がしのげればいい程度の思い出もない場所。


学校だって部活をしている訳でもないし、下校デート出来る彼氏なんかも居ない。

唯一の友達は弓道部で練習が休みの日はあまりない。

休日誰かと遊びに行くことだってほとんどない。


あれ?私の日常って充実してる?

少なくともこっちの世界の方が充実している気がする……


「すみれ…… 行ってはダメだ。表世界はもう……」

「カトレアさん!」

「ちっ、効果が切れたか」

「そいつは……裏世界を壊してから表世界も……」

「執行人め……」


ローブの魔法使いはカトレアさんが目覚めたあと、すぐに後ろへ下がった。

疲れきっているカトレアさんだけど、氷の結晶をすぐに周囲に展開させる。

しかしローブの魔法使いは私たちを鋭い目で睨みつける。(顔が見えてないから多分だけど)


「青葉すみれよ 元の世界に戻りたくなったらいつでもこちら側へ着くといい。我々は歓迎する」

「すみれは私の味方だ!お前達の仲間にはならない!」

「それを決めるのはすみれだカトレア、お前ではない」

「くっ!」


「われはフリージアと名乗っておく。必要な時は名前を叫ぶが良い!」


フリージアは手のひらサイズの黄色に光る玉を私たちに投げつける。

一瞬眩しい光が辺りを照らすが、すぐに月夜の光が戻ってくる。


さっきまでそこに居たフリージアは既にいない。

とりあえずの危機は去ったのだけど、カトレアさんはパタリと倒れてしまう。


年上だけど小さな女の子。

カトレアさんを背負い、ケシの首根っこを掴み、私はゆっくりとログハウスへと向かった。




この事で私は表世界での生活がどれだけ虚無だったかを実感してしまった。

またあんな日常に戻るくらいならこっちの世界でまったり過ごした方がましな気がした。



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