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蝶は蜜を求めて異世界に舞う  作者: おりょ?
第2章 出会いの集う街
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7話 霧の森にて、出会う少女

とあるハンターの視点

 今日はいつにも増して、霧が深いな。


 「おい、アンク。どうした?ぼーっとして」

 「ん?あぁ、すまん、エルゼン。今日は霧が濃いなと思ってたんだ」

 「まぁ、それは俺も思っていたが…気を抜くなよ」

 「わかってる」


 今は気配を感じないが、ここには魔物が出るっていうのに何をやってんだ俺は…。

 無事に街へ戻れるよう集中するために、頭を振る。


 「まあ、アンクの気持ちはわかるよ。獲物が多かったから、浮かれてるんでしょ?」

 「だから、霧が濃いなって思っただけだって言ってんだろうが」

 「またまた〜」

 後ろを歩くシーシャの指摘に反論するが、実際に収穫が多いので説得力はない。

 

 俺たち、アンク,エルゼン,シーシャの幼馴染3人パーティーはカカントラの森、通称『迷いの森』に狩りに来ていて、今はその帰りだ。

 この迷いの森は、常に霧が立ち込めていて魔物が見つけにくいが、同業者も少ないので実力さえあれば稼げる。

 今日は、いつもより魔物が多く襲ってきたが、実力は俺たちの方が上なので、良い報酬に変わってくれた。


 見慣れた道を帰っていると、前を歩くエルゼンが急に立ち止まった。


 「エルゼン?」

 シーシャの問いに、エルゼンは静かにするよう合図して、少し奥を指差す。

 目を向けると、霧の向こう、薄っすらと影が動いている。近づいて来ているようだ。

 各自、すぐに戦えるよう武器を構えた。


 そして、姿が見える距離になり、現れたのは少女だった。

 黒い髪の、まだ幼さの残る、()()()()()()()()()()()


 なぜ、こんな所に少女が?

 そう、思っているとその少女は少し怯えながら話しかけてきた。


 「あの…武器を…下ろしてくれませんか?」


 はっと気づく。警戒して武器を構えたままだったのだ。自分に向けられているのだから、怯えるのは当然だ。


 「あ、あぁ…すまん。魔物だと思って警戒したんだ」

 そう言って武器を納めると、少女はほっとしたような顔をする。


 「ねぇ、君。どうして、こんな所に?1人?」

 シーシャが少女に話しかける。同じ女性だから、少女も話しやすいだろう。


 「えっと…実は、旅をしていて……その…1人で」

 「「1人で?!」」

 「あ、その……はい」


 驚いたな。こんな小さな少女が1人旅なんて…。にわかに信じがたいが。


 「えっと、私…魔法が使えるので」

 「魔法士なのか?」

 「え?…あー、はい。だから、魔物はちゃんと倒せます」


 こちらの考えていることが想像できたのだろう。少女は自分が魔法士だと説明してくれた。

 なるほどなぁ。まあ、ある程度の実力がある魔法士なら、1人旅も可能か。


 「でも、旅をしているなら街道があるだろう?わざわざ、迷いの森になんか入らなくても」


 エルゼンが疑問を口にする。

 迷いの森の外には、街道が通っている。いくら魔法士でも、より安全な方が良い。

 対する少女の答えはと言うと…。


 「街道?…あぁ!街道ですね。あー…その、私ってすっごい方向音痴なんですよね~。気がついたら、森の中だったというか…」

 「「「(さすがに、無理があるだろ)」」」


 怪しすぎる。仮に方向音痴が本当だとしても、旅なんてできるだろうか、いやできない。

 ジーッと疑いの目を向けると、少女は目をそらす。


 「まあまあ、こんな可愛い子を追い詰めるのはやめましょ?」

 「そうは言ってもなぁ…」

 「旅の事情なんて、人それぞれなんだし。それに悪人なら、もっと取り入りやすい嘘を吐くわよ」


 怪しいっちゃ怪しいが、シーシャの言ってることも一理ある。

 判断に迷っていると、シーシャは少女に近づき、話し始めてしまった。


 「ごめんね?アンク…あぁ、あの赤髪の男の人、アンクっていうんだけど、あれでも私たちのリーダーだから、危険がないか心配なのよね」

 「いえ、私が怪しいのは充分わかってます…だから、疑うことは間違ってはいません!」

 「そう言ってくれると嬉しいな。私、シーシャっていうの。あなたは?」

 「リンです!」

 「リンちゃんか。よろしくね!」


 もう自己紹介まで、終わってるし…。

 エルゼンと顔を見合わせると、ハァと溜め息を吐く。

シーシャが関わろうとしているなら、リンという少女は悪人ではないのだろう。スキルではないが、シーシャには悪人を見分ける才能がある。

 ひとまずは、シーシャの判断を信じてみるか。


 「あー…今は危険はないと判断する。と言うことで、俺はアンク。こっちの目つきが悪いのはエルゼンだ。よろしくな」

 「目つきが悪いって……エルゼンだ。よろしく」

 「はい!よろしくお願いします!」

 「ところで、リン…あぁ…リンって呼ぶぞ?リンはどこに向かってるんだ?」

 「一応、街に」

 「なら、ルメイラか…」

 「ルメイラ?」

 「あぁ、この先にある街だ。俺たちが帰ろうとしている場所でもある」

 「おぉ!この先に街があるんですね!」

 「……一緒に来るか?」


 リンはすぐに頷いた。





 1人増えた帰り道。話していると、リンの知識としての常識は、少しズレていることがわかった。


 「あの…皆さんって、冒険者ですか?」

 「は?冒険者?違う、違う。俺たちは()()()()だよ」

 「ハンター…ですか?冒険者じゃなくて?」

 「リンの言ってる冒険者がどういうのを指すか知らんが、冒険者は秘境とかを探検する人、ハンターは魔物とかを狩って金を稼ぐ人だ」

 「へぇ~…」


 他には…


 「『隠蔽』スキルのLvって、どうやったら上がるんでしょうか?」

 「リンって、『隠蔽』持ってんのか?」

 「はい。持ってますけど…?」

 「リンちゃん…それはあまり言わない方が良いよ」

 「え?なんでですか?」

 「『隠蔽』がある奴は、後ろ暗いことがあるって言ってるようなもんだぞ。魔物相手じゃなくて、対人で使うスキルだからな」

 「でも…でも、『鑑定』でステータスを見られちゃうじゃないですか」

 「いやいや、『鑑定』って才能みたいなもんだから、持ってる奴は少ないぞ。持っていても、Lvが低いのが大半だし」

 「マジですか……」

 「………持ってんの?」

 「…………………」

 「いやん!リンちゃんに覗かれちゃう!」

 「シーシャさん!誤解を生むようなこと言わないでください!」


 など、子どもも知ってるとは言わないが、1人旅するなら知ってろよぐらいのことも知らないとは、驚きだ。

 どこの隠れ里から来たんだと言いたいよ。


 なんやかんやで、森を抜け、あと15分ぐらいでルメイラに着ける距離になった。

 そこで、エルゼンがふと思い出したようにリンに言った。


 「リンは、ハンターじゃないんだよな?」

 「はい。ただの旅人です」

 「ハンターなら、ハンターカードを見せれば、他所の街にも入れるが…何か、身分を証明できるものは持ってるか?」

 「…えっと……持ってないです…」

 「それなら、門のところで小銀貨1枚を払わなくちゃならないけど…」

 「……それも持ってないです………」


 金も持ってないかぁ…なんとなく、そんな気はしてたけど。

 別に小銀貨ぐらい貸してもいいと考えていると、リンはローブのポケットから何かを取り出して、提案してきた。

 「あの、皆さん。これを小銀貨1枚で買ってはくれませんか?」


 それは、()()()()()()だった。


 「それって…」

 「ダメですか?」

 「いや、そうじゃなくて……触ってみても?」

 「どうぞ」


 渡された水晶の花を見てみる。透明度が高く、ほんのり赤くなっているのがとても綺麗だ。指で軽く弾くと、キンッと鳴る。


 「リンちゃん…これは、小銀貨1枚の価値じゃないと思うよ?」

 シーシャが指摘するが、リンは気にしなかった。


 「そうですか?私は小銀貨1枚でいいですよ」

 「いやいや、これは金貨2枚の価値はあるぞ」

 「じゃあ、知り合い割引ということで」


 リンはそう言うが、さすがに40分の1での取引は申し訳なさすぎる。


 「リンちゃん、せめて金貨1枚で払わせてよ」

 「う~ん……銀貨5枚?」

 「ダメ!金貨1枚!」

 「……わかりました」


 なんでこっちの方が必死なんだ…。

 結局、金貨1枚で商談成立したが、それでも2分の1だ。


 「リン…もうちょっと、強欲でもいいんだぞ?」

 「にへへぇ…」


 そして、そうこうしてる内に、俺たちはルメイラへと帰ってきたのだった。

霧の森に、白いローブの少女……幽霊ですね。

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