6話 そして、蝶は旅立つ
焼け焦げた死骸を尻目に、私は目的である若木に近づきます。
そっと手を触れ、『鑑定』を使用。
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『世界樹の欠片』
世界樹の能力を獲得した木。獲得する条件はランダムであり、どのような木でも『世界樹の欠片』への可能性を持つ。『世界樹の欠片』となった木は、圧縮された空間を内包し、独自の生態系を作ることもある。圧縮された空間は、『世界樹の欠片』が死滅した際、同時に破壊される。『世界樹の欠片』に直接触れさえすれば、出入り可能。一般的には、ダンジョンと同様の扱い。
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なるほど。あの結界…いや、実際には結界ではなかったようですけど、あれはこの空間の壁だった訳ですね。
謎も解けました。宿敵も倒しました。
あとは、ここを出るだけ。
確かに、基礎となる『世界樹の欠片』が生き続ける限りは、安全なのでしょう。ですが、異世界がどういうものなのかを見て回りたいです。転生することができたのですから。
街もあり、国もあり、人もあり、魔物もある。出会いも当然あるでしょう。
それに、まだ見ぬ蜜も探したいです!これが今のところ、一番の理由ですけど…。森の中だというのに、この空間には3種の花しかありませんでしたから…。
若木に触れていると、すっと心に広がるものがありました。
「生まれた地から旅立つって、こんな感じなんだね…」
目を閉じて、思い出すのは家族のこと。
前世は親元から巣立ちする前に死んでしまいましたので、この何とも言えない気持ちは初めてです。
寂しさと、期待が混ざったようです。でも、悪いものではありませんね。
少しして目を開けます。
「よし!行くか!」
そう言うと、私は若木に「出ます」と伝えました。
すると、目の前に真っ白な光が広がります。今いる場所から、急速に遠ざかる感じ。
大きな浮遊感の後、足が地面に触れたのを感じました。
「これはまた…」
目を開けると、そこには霧深い森が大きく広がっています。
足元には、あの若木もあります。
「本当にどこにでもあるような木なんだね」
その小さな幹の中に、私の生まれた地を抱える木を優しく撫でると、私はとりあえず歩くことにしました。
同じ森でも、この森は前の森とは随分と違います。すごく暗いです。背の高い針葉樹が所狭しと立ち並び、日光はあまり届きません。
「うわ〜…霧が濃いよ〜。まるで、迷いの森だね」
歩き始めて数分経ちましたが、一向に霧は晴れません。五里霧中とはこのことです。
まぁ、これはこれで楽しいのですけど。
動物の気配も感じず、ちょっと寂しかったので、それを紛らわすために鼻歌を歌うことにしました。
それから、数分。
ふんふ〜んと鼻歌を歌いながらスキップしていると、何か聞こえたような気がしました。
「ん?」
念の為、木陰に隠れて耳を澄ましてみます。だんだんと近づいてくるようです。
「これは…話声?」
距離があるので、しっかりとは聞こえませんが、確かに言葉です。
おぉ!初めての異世界コミュニケーション!
何て話しかけようか考えていると、とても重要なことを思い出しました。
自分の体を見ます。
素っ裸です。産まれたままの姿です。完全に痴女ですね。たとえ13歳ボディでも、充分にアウトです。
ついでに翅も生えているので、人外だとバレてしまいます。この世界での亜人、まぁ、私は厳密には魔物なのですが、その亜人の扱いがどういうものか、わかっていない今は、秘密にした方が良いと思います。
「…ふむ…どうしたものか……」
考えている間も、だんだんと声は近づいてきます。
あ…閃いた。
自分のスキルを信じて、頑張りましょう。
覚悟を決めると、木陰から出て、声のする方に歩き出しました。
次回から、2章です。この章で、ヒロインも登場します。(すぐとは言っていない)
2話に挿絵を追加しました。
Backy君には感謝です。誰が何と言おうと「健全」です!
これからも、よろしくお願いします。